はじめに
広告に登場するモデルは、その商品のユーザーやライフスタイルをイメージさせるという点で重要な役割を担う。人種や性別といったモデルの外見的特徴は、広告を見ている消費者に、その商品が自分に適している(for me)か、適していないか(not for me)を分類する手がかりを与える。広告研究では、広告モデルの人種や性別といった外見が、消費者に自己分類させる手がかりを与えることが分かっている。
本研究では、人種・性別だけでなく、年齢の認識もまた自己分類の重要な手がかりであることを示す。例えば、40歳台のモデルを起用した腕時計の広告を見ても大学生はそれが自分に適した腕時計とは思わないであろう。そこで、年齢という切り口から、若い年齢層の消費者を対象とした広告の効果について調査する。
認知年齢と実年齢
年齢認識は多次元の概念で構成される。実年齢とは生まれてからの時間の長さであり、認知年齢とは自分を何歳と認識しているかである。先行研究によると、自分を実年齢どおりの年と認識している人は少ない。20代以上は、自分を実年齢より若いと認識し、10代は、自分を実年齢より大人であると認識する傾向にあるとの報告がある。また、20歳から59歳を対象とした調査によると、自分は中年であるとする人と、若いと思っている人の実年齢と認識年齢との差を比べると、後者の方が小さいという結果もある。つまり、認知年齢と実年齢の差は、実年齢層によって異なるのである。
マーケティング分野では、認知年齢が消費者行動を予測する判断材料であることを見いだすなど、実年齢と認知年齢は広く研究されてきた。しかし、ほとんどの研究は、認知年齢と実年齢の差が大きい年齢層の高い消費者を対象としてきた。本調査では、若い消費者が広告に接した時、彼らの年齢認識が、広告モデルの年齢(消費者がその広告を見て知覚したモデルの年齢)と相互に作用し、商品に対するパーセプション(for me/not for me、自分とブランドの距離)やメッセージ処理(ブランド評価関与、自己参照)に影響するかどうかを実験する。
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年齢認識にもとづく仮説
本調査では、若年消費者の認知年齢と彼らが広告のモデルを見て知覚する年齢との適合性、若年消費者の実年齢とモデルの年齢との適合性、モデルの人種、モデルと被験者の性別を独立変数とした。そして、for me認識、自分とブランド間の距離、ブランド評価関与、自己参照、ブランド態度を従属変数とし、仮説を構築した。図の概念モデルは、for me 認識、自分とブランド間の距離、ブランド評価関与、自己参照に影響を与えるモデルの年齢と若年消費者の認知年齢の適合性が、ブランド態度にも作用することを示したものである。
調査
モデルを見て知覚した年齢については、男性被験者には男性モデルと商品、女性被験者には女性モデルと商品が掲載された広告を見て回答してもらった。平均は25.69歳(標準偏差4.14)、レンジは17歳から40歳であった。
被験者の認知年齢測定には、先行研究で設定された質問を採用した(『私は○歳くらいだと感じる』『私は○歳くらいに見える』『私は○歳くらいの人と同様な行動をとる』『私の興味は○歳くらいの人と同じだ』)。認知年齢の平均は19.55歳(標準偏差4.47)、レンジは10歳から40歳であった。
被験者の実年齢は、生まれた年を記入する項目を設けることで回答を得た。被験者は、台湾の大学生(n = 254、49.2%が男性)で、実験当時の実年齢は、21.5歳(1984年生まれ、24.0%)、20・5歳(1985年生まれ、10.2%)、19・5歳(1986年生まれ、65.7%)、平均年齢は19.32歳(標準偏差1.26)であった。
調査用の広告は、モデルの性別(男女)、モデルの人種(欧米・アジア)、起用モデル数(6人)の24カテゴリーあり、モデルは台湾で刊行部数が多い雑誌から選ばれた。広告モデルの魅力は、消費者の広告反応に影響することが過去の研究で分かっているため、2回のプリテスト(n =58.40)から、魅力に差が見られないモデルを起用した。また、広告する商品は、すべての年齢層が使用する腕時計を選んだ。腕時計使用者が最も重要視するデザイン、耐久性、幅広い選択肢の3つの製品属性を盛り込む広告をプロのコピーライターとデザイナーが作成した。被験者は広告を読んだ後、ブランド態度、評価関与、商品との距離、自己参照、for me認識を評価した。
結果
本調査では、認知年齢と実年齢にあまり差がない若年層の消費者を対象とした。調査の結果、広告モデルの知覚された年齢と消費者の認知年齢との適合性が、消費者の広告やブランドに対する反応を予測することがわかった。一方、実年齢はそうではなかった。さらに、消費者の認知年齢とは、単に消費者自身が認識する年齢ではなく、消費者の感じ方、モノの見方、行動の年齢であることも見いだした。つまり、消費者の実年齢よりも認知年齢の方が、影響、観察、判断の際に考慮されるべき手がかりとなりうるということである。
本研究の意義は、ターゲットである消費者が、広告商品やブランを受け入れるかどうかを知る手がかりとして、年齢認識を取り入れた点にある。広告モデルの知覚される年齢と、消費者の認知年齢の差が小さいほど、その適合性は高くなる。適合性が高ければ、消費者のf or me認識は強くなり、ブランドと消費者の距離も縮まる。そして、消費者は、自身の経験をベースに、広告メッセージから自己参照を引き出す。
また、年配モデルは若いモデルに比べて魅力がないという先行研究の結果もあるが、モデルの年齢自体が消費者のブランド評価に影響するわけではないことが明らかになった。広告モデルの年齢がターゲット消費者の認知年齢とかけ離れている場合、その商品への魅力が薄れるのである。本調査により、広告のターゲットとなる消費者の認知年齢を考慮することがまずは重要であり、次に広告モデルの消費者から見た年齢が消費者の認知年齢に近いモデルを選ぶべきであることが明らかになった。 今後は、消費者の実年齢と認知年齢の差が大きい文化を持つ国(例として米国)や、さらに広い年齢層での研究、他の製品カテゴリーを広告商品とした調査等の研究が待たれる。
(早稲田大学大学院商学研究科 博士後期課程 下川菜穂子)
Chingching Chang. "Chronological age versus cognitive age for younger consumers", Journal of Advertising. Vol.37, No.3, 2008, pp.19-32.
モデルに結びついた広告キャンペーンというと、すぐに思い浮かぶ事例がある。それはザ・ボディショップの「セルフエスティーム」キャンペーンである。
多くの化粧品会社がスーパーモデルを用いた広告キャンペーンを展開しているのに対して、同社ではスーパーモデルとはほど遠いルビー・リアルという独自アニメキャラクターを生み出し、一人ひとりの個性を認め自分をもっと好きになろうという提案をしている。その内容は、スーパーモデルは世界でわずか8人しかいない。30億の女性は、足の長さもスタイルもスーパーモデルとはかけ離れている。自分を否定することなく、ありのままの自分に自信を持とう、というものである。
マーケティングではターゲットを明確化し、そのターゲットに提供内容を合致させるべきだと主張している。本研究によって、広告モデルの人種や性別だけでなく、実年齢よりも認知年齢においてターゲットに合わせるべきであることが明らかになった。自分と同年齢と感じるモデルを起用したブランドに対して、消費者はより好意的な反応を示すからである。
(早稲田大学商学学術院教授 恩藏直人)
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