はじめに
これまで多くの研究者の間では、顧客満足がマーケティング研究において主要な構成概念であることが知られている。顧客満足がビジネスの成果によい影響をもたらすという前提は、実務家や学術研究者によって受け入れられており、顧客満足は多くの企業において、顧客志向のビジネス実践のよりどころとなってきた。
顧客満足に関する過去の研究成果は4つに分類される。すなわち、顧客関連、従業員関連、効率関連、業績関連への成果である。これらの研究成果のなかで、顧客関連、業績関連の成果に比べ、効率関連、従業員関連の成果が見逃されてきた。
本研究の目的は、顧客満足の成果における、この2つの見逃されてきた分野、すなわち、効率性関連の成果および従業員関連の成果を検討することである。
仮説
最初に顧客満足が広告および販売促進の効率性に与える効果を検討する。広告および販売促進の効率性は、企業のマーケティング費用(広告および販売促進への投資)の販売パフォーマンスへの転換率(転換能力)と定義される。顧客満足は、企業が将来のコミュニケーション活動で効率性を高める行動(パブリシティー・広報、ロイヤルティー、顧客の支払い意欲)を引き起こすと予想される。このように、一定の販売水準において、顧客満足が高ければマーケティング費用は引き下げられるだろう。
また、与えられたマーケティング・コミュニケーション費用のもとで、顧客満足は顧客ロイヤルティーなどを通じてより高い販売パフォーマンスを可能にするだろう。
以上から次の仮説を導出した。
仮説1:顧客満足は、企業における将来の広告および販売促進の効率性に、正の影響を与える。
次の見逃された効果として、顧客満足が長期にわたり企業の人的資源パフォーマンスを引き出すという点がある。ここでいう人的資源パフォーマンスとは、従業員の能力や管理職の優秀さのことである。企業の顧客満足は、いくつかの理由(例えば、将来の収益性や情緒的感化を実現する)で、将来の人的資源パフォーマンスに正の影響を与えると予想される。
仮説2:顧客満足は、企業の将来の人的資源パフォーマンスに対し、正の影響を与える。
市場集中度が、顧客満足と企業のパフォーマンスの関係にかなりの影響を与えることが予想される。顧客満足が将来の広告や販売促進の効率性に与える影響は、集中度が低い市場(すなわち、競争が激しい)と比較し、集中度が高い市場でより顕著であると考えられる。これは集中度が低い市場では、高い満足度を持つ顧客でさえ価格志向が強くなるため顧客を維持するのが困難となり、その後の顧客による購買継続や高価格購買の可能性を引き下げるからである。
仮説3:顧客満足は、集中度が低い市場よりも集中度が高い市場において、将来の広告や販売促進の効率性により強い影響を与える。
また、顧客満足は集中度が高い市場よりも集中度が低い市場で、人的資源パフォーマンスにより強い影響を与えると考えられる。これは集中度が低い市場では、企業が顧客満足の成果を一般社会に伝える必要性が増大するからである。
仮説4:顧客満足は、集中度が高い市場よりも集中度が低い市場において、企業の将来の人的資源パフォーマンスにより強い影響を与える。
データと分析方法
顧客満足の測定には、『American Customer Satisfaction Index(ACSI:米国顧客満足指標)年報』からのデータを使用した。また、広告と販売促進の効率性については、「Competitive Media Reporting(CMR)」と「COMPUSTAT」からのデータをもとに、包括分析法(DEA:出力/入力により効率性を評価する分析法)により指標を得た。さらに、人的資源パフォーマンスの測定には、フォーチュンの「America’s Most Admired Corporations」(AMAC:米国で最も賞賛されている会社に関する統計)からのデータを用いた。
仮説の検証にあたっては、各種の既存資料から大規模で長期にわたるデータが収集された。これらのデータには、顧客満足、広告および販売促進の効率性、人的資源パフォーマンスの指標が含まれている。
分析と結果
仮説1においては、顧客満足が広告と販売促進の効率性に正の影響を与えると予測された。表1では、時間1における顧客満足と時間2における広告と販売促進の効率性とが、有意な正の相関関係を示しており、仮説1が支持された。
仮説3では、集中度の高い市場において、顧客満足が広告と販売促進の効率性に与える正の影響が拡大すると予測された。表1の結果によれば、時間1における顧客満足が時間2における広告および販売促進の効率性に与える正の影響は、集中度が低い市場よりも集中度が高い市場でより顕著であることが示され、仮説3が支持された。
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仮説2では、顧客満足が将来の人的資源パフォーマンスに正の影響を与えると予測された。表2の結果は、時間1における顧客満足が時間2における人的資源パフォーマンスに有意な正の影響を与えることを示しており、仮説2が強く支持された。
仮説4では、市場集中度の高い状況において、顧客満足が人的資源パフォーマンスに与える正の影響が低減すると予測された。表2の結果は、顧客満足と市場集中度の相互関係が、従業員能力および管理職の優秀性における人的資源パフォーマンスに有意な負の影響を与えることを示しており、仮説4が支持された。
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考察
本研究はいくつかの点で経営上の示唆を与えてくれる。まず、企業はマーケティング・コミュニケーションの効率性を注意深く観察し、その分析結果を顧客満足の指標に関連付ける必要がある。
もし、優れた顧客満足価値を持つ企業が競合企業よりもマーケティング・コミュニケーションで効率性が高くなければ、その企業のコミュニケーション・マネジメントには効率性を改善できる可能性がある。この示唆は、売り上げのかなりの比率をマーケティング・コミュニケーションに費やしている業界で特に重要である。
また、本実証研究からは、顧客満足に資金を投入する方が広告に資金を投入するよりも効果的かどうかの答えを示すことはできないが、以下の点を指摘できる。もし、顧客満足のために投入する金額が極端に大きければ、広告や販売促進の効率性向上はこの金額に見合うものでないかもしれない。しかし、もし顧客満足向上のためのコストがかなり低いのであれば、広告から顧客満足に予算をシフトすることに意味がある可能性がある。
次に、高水準の顧客満足を有する企業は、質の高い従業員や管理職を勧誘し維持するために、顧客満足の指標を使うべきであることをこの研究結果は示している。顧客満足は人的資源によい影響をもたらすので、人事管理者には企業の顧客満足指標に関心を払う十分な理由がある。
(早稲田大学大学院商学研究科 博士課程 渋谷義行)
Luo, Xueming and Christian Homburg.“Neglected Outcomes of Customer Satisfaction.” Journal of Marketing.Vol.71, 2007. pp. 133-149.
顧客満足がビジネスにプラスの効果を有することはよく知られている。製品やサービスに満足している顧客は、積極的に再購入をしたり、好意的なクチコミ情報を発信したりするからだ。「顧客満足を高めれば良い結果に結びつきやすい」という点に異論を唱える人はいないだろう。
ところが、顧客満足と効率性についての議論、あるいは顧客満足と人的資源パフォーマンスについての議論はこれまで取り組まれていなかった。この論文では、多くのデータを駆使することにより、高い顧客満足を実現している企業は、低い顧客満足の企業に比べて、同じ広告販促費を投入してもより大きな売り上げ増をもたらし、将来における従業員の能力や管理職の優秀さを引き上げることを示している。
また、こうした関係は市場集中度によって影響を受け、集中度の高い市場の方が効率性をより引き上げ、集中度の低い市場の方が人的パフォーマンスにより強い影響を及ぼしている。
今回のような分析によって、顧客満足効果のメカニズムが明らかになれば、顧客満足対策費、広告販促費、人材育成費などへの投資バランスを検討する上で、貴重な指針が得られるはずである。
(早稲田大学商学学術院教授 恩藏直人)
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