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マーケティング・キーワード

「買物欲マーケティング」博報堂買物研究所所長 長谷川 宏

2008/06/01

『広告月報』2008年06月号

 好きだけど買わない。この言葉にいま、マーケティング現場は悩まされ続けている。「好き」が「買う」を約束しない、モノの評価と買うという行動の不一致現象だ。
 なぜこうした現象が生まれたのか。結論から言えば、生活者の買物自体に対する根本欲求に大きな変化が起きているという事実だ。

 買物に対する欲求は、大きく二つの欲求がある。ひとつは「いいモノを手に入れたい」というモノに対する欲求で、「モノ欲」と私たちが呼ぶ欲求。そしてもうひとつは「いい買物体験をしたい」という欲求で、私たちが「買物欲」と名付けた、一連の買物プロセスに対する欲求だ。買物はこの二つの欲求が満たされてはじめて完結する。いま、この二つの欲求に大きな変化が起きた。

 これまでの中心はモノ欲だった。いいモノを手に入れることが何よりも優先されていた。買物はいいモノを手に入れるための手段という位置付けだった。そこに変化が起きた。新商品開発ラッシュによる商品のヨコ並び状況や、ネットの普及による商品情報への満腹感などで、モノに対する欲求はなえ続けている。その一方で、「もっといい買物体験をしたい」という買物欲は膨らみ続けている。次々と買物を楽しませてくれる小売業の出現や、ネットオークション、フリーマーケットの日常化によりモノの売り買いの楽しさを誰もが楽しめるようになったことが、買物欲の拡大にますます拍車を掛けている。モノ欲から買物欲へ。買物に対する根本欲求の逆転現象に、企業のマーケティング活動が追い付いていない。「好きだけれど、買わない」現象の深刻化の裏側には、モノ欲を凌駕(りょうが)する買物欲の台頭の事実がある。「いい買物体験をしたい」という買物欲をとらえる。いま一番のマーケティング課題がここにある。

12の指標:博報堂買物研究所のフィールドワークにより、複雑で多様な買物したくなる欲求要因を12に分類し体系化。買物研究所オリジナルの基本指標として、フィールドワーク、コンサルテーション、プランニングに活用する。では、買物欲をとらえるマーケティングはどう進めるのか。大きくは三つのフェーズで構成される。一つは「ショッパーカテゴリー」の発見。買物をしている時のお客様の頭の中にある買物基準を見つけ出すことだ。買物現場である実際の店舗、売場での徹底した行動観察と買物の瞬間のインタビューから、買い手の意識下にある「どんな買物をしたいのか」の真実を探り出す。二つ目は、発見された買物基準とモノの価値とを結びつける「買物インサイト」の創造。買物を進め、購入へと行動を導く、ツボを創(つく)り出す。「いい買物をしたい」と「いいモノを手に入れたい」の橋渡しをする作業とも言える。そして三つ目は、買物インサイトを突く具体的な展開の設計。買物の始まりから終わりまでの一連の買物体験を「買物シナリオ」として設計する作業だ。ここでは博報堂買物研究所が約50社を超える小売企業の買物現場のフィールドワークから、「いい買物をしたい」という買物欲を生み出す要因を分類・体系化した「買物欲を満足させる12指標」(図参照)を活用し、具体的な設計と展開へと着地させる。

 このように、商品との出合いから購入へとつなげていく、買物欲を満足させるシナリオをプランニングし、具体的な買物行動を生み出させていくのが、買物欲マーケティングである。数多くの企業が商品をつくるために、顧客の「使う」ことに関して膨大な量の調査を繰り広げてきた。しかし一方で商品を売るために、顧客の「買う」ことに関しては「NO」だったと言わざるを得ないのではないだろうか。買物欲が台頭する消費社会の中で、買物の真実をふまえた、新しい売り方の開発に大きな期待が寄せられている。「売る」を「買う」から考える。買い手主導のマーケティング、買物欲マーケティングのこれからの可能性がここにある。

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