「地域や多種多様な市場への正対」を目指し、JTBが持ち株会社制に移行してから2年半余り。分社化で高まった地域密着型の遠心力と、トップブランドとしての求心力が相乗効果を生む新体制の確立を託され、08年6月にグループの束ね役に就任。田川博己社長は「歴史の中で培った信頼感と誠実さに加え、専門性とスピード感をさらに高めていく」と語る。

──06年4月の分社化以降の成果を、ご自身ではどう評価されていますか。
社員が地域密着で何をするかを考えるという意識については、かなり成果が現れていると思います。地域経済の活性化は、国家施策としても大きなテーマです。地域と深く交流し、地元固有の魅力を世界に発信することはこれからのJTBに不可欠ですが、即断即行の自覚は私の予想以上に早く浸透しました。
── 地域交流と共に、グローバル化の取り組みも重視されていますが。
これまで日本の旅行会社の言うグローバル化とは、圧倒的に日本から海外へ送り出す「海外旅行」でした。JTBはそれに加えて、JTBを利用しないで渡航する日本人のお客様に対して現地ツアー等を販売・提供する「ノンJTBマーケット」、世界から日本へ観光客を誘致する「インバウンド」、そして北京からニューヨークへといったように、JTBのランドオペレーターとしての機能を全世界で利用していただく「3国間貿易」という四つのゾーンで世界戦略をとらえています。
新しいチャレンジである「3国間貿易」に関しては、例えば韓国にロッテと合弁で「ロッテJTB」を立ち上げました。それとハワイにある拠点機能をつなげれば、韓国のお客様をハワイにお連れできます。またインバウンドに関しても、現地エージェントの送客を受けるだけでは十分ではありません。現地のJTBが日本向け商品を作り、営業を行うといった取り組みが必要です。日本企業のもつ世界一流のホスピタリティーやオペレーションの質の高さは、大きな武器になると思います。
1971年4月日本交通公社(当時)入社
1990年2月営業企画部企画課長
1993年2月海外旅行営業部次長
1996年2月川崎支店長
1998年4月米国法人日本交通公社取締役企画部長
1999年2月取締役副社長
2000年4月日本交通公社営業企画部長
2000年6月取締役 営業企画部長
2001年1月ジェイティービー(社名変更)取締役営業企画部長
2002年6月常務取締役
2003年6月常務取締役 東日本営業本部長
2005年6月専務取締役 営業企画本部長
2006年4月専務取締役 旅行事業本部長
2008年6月代表取締役社長(現職)
──旅行業界は逆風にあるといわれています。
例えば、「ウォン安だから韓国へ行く」など、旅行が以前に比べて身近になったことで、かなり直前に旅行計画を立てるお客様が増えています。そのため経済情勢が旅行業界の景気に直接作用するようになったのだと思います。
旅行商品は時間を消費する無形財ですが、滞在時間を長くしたり、文化的な価値を与えることで経済としての力は高まります。特に少子化が進む日本では外国からお客様を呼ばなくては旅行業に将来はなく、文化としての旅の力の向上は急務です。例えば外国の方にも、旅館の方がきちんと着付けを教えれば、文化体験という新しい価値が提供できるのです。目先の成長を追うだけでなく、上海万博が開催される2010年に向けて、今は腰を据えて潜在する価値を見直す時です。
──2012年は創業百周年、そこに向けてあるべきJTBをどう描いていますか。
これまでJTBは周年事業として、人材育成に主眼を置いて投資してきました。これからは旅行のプロだけでなく、国際社会で交渉力を発揮できる財務や法務に長けた人材も必要となり、人材育成は大きな柱です。また事業面では、大きなイベントを育てたいですね。JTBは郷土に根づく伝統芸能を一堂に集めて楽しんでいただく「杜の賑い」というイベントを1982年から開催しています。これに並ぶような、継続性をもって新しい旅行需要を全国で生み出せる場を作りたいと思います。
――朝日新聞社との提携は4月ですね。
朝日新聞社の文化的イメージ、希少な知的財産と、JTBグループの旅の企画・手配・販売力、ホスピタリティ。この両社の経営資源の融合効果により、さまざまなテーマ性のある旅の企画や、新たな交流の場の提供が可能となり、新しい旅文化の事業モデルや需要の創出が可能になると期待しています。
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移動の合間に、少し時間が空けば車を降りて街を歩く。「その場の活気や客層からいろいろなことが見えてきます。現場から発想することは、ビジネスの基本ですから」。61歳。
文/松身 茂 撮影/星野 章
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