クロスメディアの要に位置するアジアの新聞 プレゼンテーション@タイ

 2010年11月末、広告会社主催の国際会議がタイで行われ、数カ国の新聞社のプレゼンテーションを聞く機会を得た。主催社のアジアと豪州の各拠点から約40人が集まる会議に、本社、シンガポール・インド・オーストラリアの新聞社、フランスの大手出版社の計5社が招かれた。

 各社のプレゼンテーションは、好調な経済を背景に強気な内容が目立った。シンガポールの新聞社は雑誌やテレビも抱えるため、事実上メディア独占企業なので当然とはいえ、新聞広告収入は前年比125%超。新聞大国・インドの新聞社は部数も2ケタ成長が続く。「将来の広告主を育てるため、わが社が中小企業を資金面で支援する」との太っ腹な発言まであった。

 共通していたのは、いわゆるクロスメディア戦略だ。グループ内の雑誌やニュースサイトなどを組み合わせ、広告主のニーズに対応するという考え方はアジアでも定着している。新聞広告が厳しいからではなく、あくまで顧客の多様化する要求に応えるための戦略だ。シンガポールの新聞の代表者は、現代の新聞営業担当者は多種多様な武器を身にまとった「ロボコップ仕様」にならねばならないと訴え、新聞だけを売っていたかつての営業部員を、1丁の銃しか持たない兵士にたとえていた。また、「カタログを売るな、アイデアを売れ」(単なるメディアの組み合わせパッケージではなく、それによって実現するソリューションで勝負)というメッセージには共感した。

 懇談の際に各媒体社の出席者にさらに取材したが、国ごとに事情は異なるものの、アジアでは新聞はまだ強くメディアの中心を占めている。その点では、欧米や日本が直面する厳しい新聞事情に明るい将来を期待させるアイデアには、残念ながらあまり出合えなかった。

 とはいえ、視点を変えれば、アジアの企業にとって、新聞はまだまだ重要な広告媒体として認識されているともいえる。彼らの広告媒体リストの上位には「新聞」が入っているはずで、これは日本の新聞にとっても悪い話ではない。南国の強い日差しに朦朧(もうろう)となりながら、我田引水の考えが浮かんだ。

(朝日新聞東京本社業務推進部 濵口 毅)