海外で報道される日本の「性差別」広告

 鹿児島県志布志市が、ふるさと納税をPRするためにネット上に公開した動画について、市が「女性差別との批判を受けた」として動画を削除した件は、まだ記憶に新しいだろう。同市がふるさと納税を促すために、市特産の養殖ウナギを黒いスクール水着姿の若い女性に擬人化し、「養って」とアピールする動画である。筆者も日本の報道で知っていたが、ここ英国でもこのニュースが大きく取り上げられていたことに非常に驚いた。

 9月27日付のガーディアン紙では、「大切に養育された女の子がウナギとなり、調理されるという日本の広告が取りやめとなった」と見出しに書かれており、この動画の内容の詳細とともに、ツイッターのユーザーが「痴漢行為だ」「女の子が誘拐され監禁されているようなイメージを与える」などの批判の声を紹介している。「性差別に立ち向かう争い」として紹介されたこの記事はすでに700件近くシェアされており、関心の高さをうかがわせる。

 同じくガーディアン紙では、三重県志摩市が発表した、海女の萌えキャラクターに関しても取り上げている。今年の5月に行われた伊勢志摩サミットのキャラクターとして公認していたが、後に撤回した。「あどけない目をした豊満な胸を持つ17歳の女の子」と紹介され、その不自然さを紹介している。他にも、美しい東大生が隣に座ってくれるというサービスを発表し、その後取りやめとなった大手旅行会社のサービスについても取り上げていた。

「イリー」のPR動画 日本人にインタビューをする動画

 英国で性差別だとして特に話題となったPR動画がある。ログバーという会社が今年の頭に発表した同時通訳のデバイス「イリー」の動画だ。英国人男性が、このデバイスを使って、日本の女性に「あなたとキスをしたいです」と声をかけるもので、これが「同じ英国人として恥ずかしい」など、英国人や欧米諸国のユーザーからは大批判を受けた。ただ、驚くことに別にアップされていた、「この動画をみてどう思ったか」と日本人にインタビューをしている動画を見てみると、ほぼ全員が「セクハラだとは思わない」「相手が外国人だと、そういう文化なのかなと思う」などと肯定的な意見が続く。しかし、ここ英国において、見ず知らずの人がキスを迫ってくる、などということはありえない。頬をくっつける挨拶(あいさつ)は良くあるが、まったくの初対面なら握手が普通である。人種のるつぼであるここ英国では、さまざまな差別に関して非常に細かな配慮がされており、女性を軽視するような広告もこちらで目にしたことがない。

 2020年はもうすぐ。街中の看板や電車の中など、あらゆる人が目にする広告で、「日本人の品位」を疑われるような広告が少しでもなくなることに期待したい。そのためには、広告を見る側も、よりシビアに判断する目を持つ必要があるのだろう。

(朝日新聞社 メディアビジネス局 ロンドン駐在 金井 文)