加速するデジタルシフト ニューヨーク・タイムズが2019年度四半期決算発表

 米ニューヨーク・タイムズは11月6日、FORM 10-Qを発表し、19年第三四半期(Q3、7〜9月)の売上高が前年同期比2.7%増の約4億2,850万ドル(約471億円)、純利益は同34.2%減の1,642万ドル(約18億円)となったことを明らかにした。

 FORM 10-Qとは、SEC(Securities and Exchange Commission、証券取引委員会)に四半期ごとに提出する未監査財務資料で、日本の「四半期報告書」にあたる。Q1からQ3ではFORM 10-Qを、Q4では日本の「有価証券報告書」にあたるFORM 10-Kを提出することになっている。

タイムズ社の株価の状況(Yahoo Financeより)

 日刊紙ニューヨーク・タイムズを発行しているのはThe New York Times Company(以下、タイムズ社)という株式会社である。日本の新聞社も株式会社ではあるが非上場なのに対し、タイムズ社はニューヨーク証券取引所に上場している。FORM 10-Qの1ページに記載してあるが、タイムズ社は「デュアル・クラス・ストック」を採用しており、市場流動性のあるClass A普通株式と、市場流動性はないが議決権を多く保有するClass B普通株式という2種類の株式を発行している。ニューヨーク証券取引所で売買されているのは、Class A普通株式になる。

 FORM 10-Qの3ページに、タイムズ社の連結財務諸表(要約)が記載されている。Q3の売上高が約4億2,850万ドル、このうち購読売上が2億6,730万ドル(約294億円)、広告売上が1億1,353万ドル(約124億円)、その他売上が4,766万ドル(約52億円)となっている。25ページと合わせて読むと、前年同期比で購読が3.7%増、広告が6.7%減、その他が25.9%増ということがわかる。

 日本の新聞社は部数減で経営環境が厳しくなりつつあるのに対し、タイムズ社は購読売上が伸びているのはなぜか。FORM 10-Qの26ページ以降で、売上について細かく分析している。

タイムズ社の2019年第三四半期のFORM 10-Q(タイムズ社ホームページより)

 26ページのSubscription Revenuesに関する分析では、Q3のデジタル単体購読による売上高が1億1,586万ドル(約127億円)、前年同期比で14.5%増加したと記載されている。さらにNew York Times Digital(デジタル版)と関連パッケージによる購読売上が1億700万ドル(約117億円)、クロスワードやレシピなどデジタル版以外のデジタルコンテンツによる購読売上が885万ドル(約9億7,350万円)となっており、前年同期比でそれぞれ12.0%増、57.0%増となっている。紙の新聞を購読しない「デジタル・オンリー・ユーザー」数が約405万ユーザーと、前年同期比で31.0%増加している。注目されるのは、デジタル版の購読数(有料ユーザー数)が前年同期比で25.8%も増加している点だ。日本では、ニュースはスマートニュースやグノシーといったアグリゲーションアプリで読むのが急速に広まっているが、新聞社のサービスを利用しているユーザー数が伸びているのはなぜだろうか。

 27ページのAdvertising Revenuesに関する分析では、Q3の広告売上高が1億1,353万ドル(約125億円)、前年同期比で6.7%減少したと記載されている。広告には紙面とデジタルという媒体別、紙面広告やデジタル版のバナー広告などのディスプレイ広告と、求人広告などのその他広告という種類別の売上が記載されている。ディスプレイ広告は8,790万ドル(約96億6,900万円)。その内訳はデジタルが3,620万ドル(約40億円)、紙面が5,170万ドル(約56億円)と、まだ紙面の方が売上が大きいことがわかる。求人広告などのその他広告売上は2,562万ドル(約29億円)。紙面が717万ドル(約7億8,000万円)に対しデジタルが1,845万ドル(約20億円)と、こちらはデジタルの売上が大きい。

タイムズ社の連結財務諸表(要約)(タイムズ社ホームページより)

 前年同期と比較した増減率を見ると、ディスプレイ広告は紙面が9.7%、デジタルは17.2%と、いずれも減少している。一見するとデジタルの減少率が大きく見えるが、1月からの9カ月で見ればデジタルは2.2%減に留まっている。その他広告は紙面が7.5%増、デジタルが31.5%増と、紙、デジタルともに売上が増加している。ディスプレイ広告におけるデジタルの減少は、デジタル版における広告売上の減少が大きな要因であり、その他広告におけるデジタルの増加は、ポッドキャストなどの新たなサービスにおける広告によるものだ。

 27ページにはわずか4行だがOther Revenuesについても触れている。それによれば「その他売上」は、記事の利用許諾などのライセンシング事業、本社ビルの不動産収入、「The Weekly」などのテレビ番組、「NYT Live」というイベント事業によるものとある。「その他売上」の金額は購読売上や広告売上にはまだまだ及ばないものの、伸び率が前年同期比25.9%増と大きく伸びている。

 伝統的な新聞社ではあるが、うまくデジタル化に舵を切りつつあることが、財務報告から読み解ける。

 タイムズ社がSECに提出する資料はすべてホームページで公開されており、こちらで見ることができる。

(朝日新聞社 メディアラボ 米シリコンバレー駐在 野澤 博)