新聞社と連携し、家庭や社会を巻き込んだ次世代教育を

 朝日新聞の創刊130周年を記念して2008年にスタートさせた「地球教室」は、次世代を担う子どもたち向けに、地球環境に関する教材の作成・配布や、記者と協賛企業の社員が出張授業などを行う環境教育プロジェクトだ。初年度から協賛している旭化成グループは、CSRにおける社会貢献活動の統一テーマとして教育・次世代育成を掲げ 、科学実験などを子どもたちに体験させる出前授業を行っている。旭化成総務部CSR室長・リスク対策室長の高見澤正氏に話を聞いた。

ものづくりのおもしろさを伝え次代を担う「人」をつくる

高見澤正氏 高見澤正氏

――旭化成グループでは、社会貢献のテーマとして「教育・次世代育成」を掲げています。

 社会貢献には色々なあり方がありますが、当社では、地域社会との共生、貢献を柱にしています。また旭化成グループは、世の中の役に立ったり、世の中を豊かにしたりする「もの」や、それを作り出す「人」=技術者を、経営資源として持っています。当グループのものづくりの現場や技術者を有効に活用しながら、地域社会にどう貢献できるかを考えたとき、導き出されたのが、次世代を担う子どもたちへの教育支援でした。科学離れ、理科離れが危惧(きぐ)されている中、子どもたちに科学技術のおもしろさを伝え、次代を担う「人づくり」に寄与できたら、と考えています。

――具体的な取り組みについて聞かせてください。

 当社発祥の地である宮崎県延岡市では1999年から、「出前授業」を展開しています。当社の社員が講師となって、理科や環境問題に関する実験授業をするもので、2010年度は延岡地区だけで、11月~12月中旬に集中して22回開催しました。旭化成グループだけでなく、九州電力や宮崎ガスといった地元企業とも連携し、さまざまな内容の授業を進めています。この取り組みは、県内のほかの地域や、東京都、滋賀県、岡山県などにも広がってきています。

 授業の後、児童や生徒たちから、「科学の仕組みがわかって感動した」「今まで嫌いだった科学に親しみが持てた」など、うれしい感想が寄せられています。出前授業がきっかけとなり、学ぶ意欲が高まることも少なくないようです。今の時代、そうした反響は色々なところから伝播(でんぱ)しますので、ほかの学校からも要請がくるなど、結果としてグループ全体のものづくりへの姿勢や商品が認知されることにもつながっているようです。

――「地球教室」には初年度から協賛しています。

 教育や次世代育成は、企業が単体で取り組むべきこととは別に、色々なところと連携することでより成果があがる取り組みがあると考えます。「地球教室」はまさに後者で、強い媒体力、影響力を持つ新聞社と協力しあうことで、当グループだけでは得られない大きな成果が期待できます。特に、協賛企業の環境技術や取り組みをまとめた副読本が現在2,700校余りに配布され、多くのお子さんやそのご家庭の目に触れるということには、大きな意義があると思います。さらに、教育現場での活用の様子が広告特集として取り上げられることで、幅広い読者層に当グループの活動を知ってもらうことができます。

「地球教室」出張授業

――どのような反響がありますか。

 初年度は副読本だけでしたが、翌年度からは「出張授業」も始まり、社員が「熱の伝わり方」をテーマに身近に実践できる省エネの方法などについて子どもたちに解説しています。この出張授業の反響は大きく、「うちの学校にもきてほしい」といった要請が増えました。

 当グループのビジネスは、ほとんどがB to Bの領域です。当グループがこのような環境教育を行っていることを、新聞紙面を通じて広く知ってもらえるいい機会となりました。

 また、グループ内企業の社員の子どもたちの手元にも副読本が配られたケースもあり、グループをあげて教育・次世代育成をテーマに活動していることを、社員自身も改めて認識し、また、誇りを感じたという効果もあったようです。

広告特集「地球教室」2011年2月15日付 朝刊(5ページ中2ページ)

2011年2月15日付 朝刊 広告特集「地球教室」 18面
2011年2月15日付 朝刊 広告特集「地球教室」 17面

教育支援は続けることが肝心 学校、地域社会への理解を深めたい

――教育・次世代育成への取り組みに関して、新聞社に期待すること、要望することはありますか。

 新聞社も教育、特に次世代を担う子どもたちの育成について使命を持っていて、その影響力はとても大きいと思います。教育に関する報道はもちろん、たとえば科学の話題も、子どもの視点にまで落としこんだような内容の記事を充実させてもらうことで、お子さんの学ぶ意欲だけでなく、親御さんの教育に対する意識も高まるのではないかと考えています。

 さらに、反響が物ごとを動かすケースは多いのではないでしょうか。「地球教室」も、お子さんに副読本を配ることで家庭の中で当社の取り組みについて話題に上ります。すると、そこで読者と当グループのコミュニケーションが生まれ、大きな影響力が出てくると思うのです。読者と企業をうまく結びつけることができるのは、新聞社ならではです。「地球教室」の協賛企業が増え、企画が浸透してきている今、さらに紙面での見せ方などを工夫し、企業だけでなく、自治体、学校、先生たち、そして子どもとその親御さんが一緒になって参加できるような運動に発展してくれるといいな、と期待しています。

――今後の展望、課題について聞かせてください。

 「出前授業」をすでに12年続けているように、社会貢献は単発で終わっては意味がありません。色々な工夫をこらしながら、発展的に継続していく考えです。活動は広がってきているとはいえ全国的な展開に至っていませんので、政府や自治体、学校や先生、そして親御さんを含めた地域社会に、さらに理解、協力してもらえるような信頼関係を構築し、企業が出前授業をしやすいような仕掛けを作っていきたいですね。

 CSRの一環として教育に取り組む企業は増えてきています。科学実験をテーマにすると、どうしても似たような授業内容になりがちです。その中で埋没しないよう、授業ができる人材やコンテンツなど、リソースを拡充させていきたいと考えています。