創業100周年を記念した「書き下ろし100冊」企画に手応え

 講談社は創業100周年を記念し、2年にわたって「書き下ろし100冊」の企画を進めてきた。すべての刊行が終わった今、編集について同社文芸局次長の金田明年氏、コミュニケーション展開については書籍販売局 書籍宣伝部 部長の山田昌輝氏に、それぞれこの2年を振り返ってもらった。

作家や作品との新たな出会いを提供、これまで届かなかった読者にも響いた

――「書き下ろし100冊」の刊行企画のねらい、概要などについて、改めて教えてください。

金田明年氏 金田明年氏

 当社が昨年、創業100年を迎えるにあたり、2008年から今年までの2年間にわたって、文芸、児童書、ノンフィクション、学芸書の各分野で、ベストセラー作家や新進作家など幅広い書き手に書き下ろし作品を手掛けてもらい、100冊を刊行する企画です。創業100周年という節目の年に、創業理念のひとつである「おもしろくて、ためになる」、そんな本を改めて読者の方々にお届けしたいというのが、目標であり、ねらいでした。書き下ろしにこだわったのは、読者の皆さんに真のファーストリーダーとして作品を楽しんでいただきたい、また、作家の方々には雑誌掲載のような締め切りや枚数といった制約のないところで思い切り書いていただきたい、という思いからでした。

――2年間の道のりはいかがでしたか。

山田昌輝氏 山田昌輝氏

 私たち文芸担当者にとっても、そして、作家さんたちにとっても、非常に険しい道のりでした。作家さんにとって書き下ろしはとても負担がかかる仕事です。売れっ子や大物の作家であればあるほど、雑誌の連載などを抱えているため、どうしても目先の仕事をこなすことが優先されてしまいます。そのため、想定した以上に刊行が遅れ、100周年企画の期限までに間に合わせることはとても難しい作業でした。それでもなんとか100冊を超える書き下ろしを刊行できたのは、作家の皆さんの多大なる協力のたまもの。今は感謝の気持ちでいっぱいです。

――作家、読者、業界関係者からの反響は。

2008年8月24日付 朝刊 全15段 2008年8月24日付 朝刊

 作家さんに関しては、企画を持ちかけたとき、「ぜひ参加したい」という人と「忙しいから難しい」という人とに分かれるだろうと、ある程度予想していました。しかし、思っていたよりも「参加するのは光栄だ」とおっしゃる作家さんが多く、心強かったですね。作家さんと当社、あるいは当社の担当編集者との間に長い時間かけて築かれてきた信頼関係があったからこそ。先輩諸氏のおかげだと思っています。業界からは当初、2年という短いスパンでの100冊の書き下ろしは「難しいだろう」という反応が大半でした。しかし、遅れはあったものの、大物作家やベストセラー作家の書き下ろしが続々と刊行されるにつれ、「ひょっとしたらやり遂げるのでは」と、驚きをもって受け止められるようになりました。

 読者については業界関係者ほど半信半疑ではなかったものの、初めはどこか遠くから傍観している感じがありました。しかし、やはり作品が刊行されるにつれ、アンケートはがきなどで喜びや称賛の声が寄せられるようになりました。通常の刊行物よりも大々的に宣伝を展開したこともあり、新たな読者にも届いたようです。「著名なので名前は知っていたけれど、これまで読んだことがない作家の作品を今回初めて読んでみた」あるいは「今回の企画で初めて読んだ新進作家の作品がおもしろかったので、これからも読み続けたい」といった声は、とてもうれしかったですね。読者と作家、読者と作品との出会いの場を提供できたのでは、と手ごたえを感じています。

――全国で講演会も開催しました。

 企画に参加してくださった石田衣良さん、重松清さん、浅田次郎さんといった人気作家の皆さんに、「活字の力」をテーマに全国7カ所で講演をしていただきました。電子書籍が登場し、これからも変わらず小説が読めるのか、これまでどおりの感動が得られるのかなどと、ある種の迷いのようなものを感じている読者に対し、作家が自らの言葉で「活字の力」について読者に語りかけました。講演会は非常に盛況で、手前みそですが、本や活字の力を再確認することができた意義のある取り組みだったと感じています。

手探りながらも思い切った広告展開で表した作家へのエールと感謝の気持ち

――コミュニケーション展開についてはいかがでしたか。

2010年10月8日付 朝刊 全15段 2010年10月8日付 朝刊

 スタート時に作家名を発表したキックオフ紙面をはじめ、刊行される書籍の宣伝の9割は新聞広告で展開しました。出版広告は新聞紙面とも新聞読者とも親和性が高いためです。しかし、やはり2年という長いスパンは、広告展開についても大変な道のりでした。刊行が予定どおりいかなかったので計画が立てにくかったこと、作家が大御所から新進まで幅広かったこと、また、書き下ろしは評価が定まっていないため、どの作品にどのような広告を出すかが手探りだったことなどが、その理由です。しかし、広告宣伝費が圧縮される一方のこのご時世で、「書き下ろし100冊」の企画についてはそれなりの予算を割き、思い切り広告を打てました。 それらの新聞広告は、おそらく今回の企画に挑戦してくれている作家の皆さんを勇気づけることにつながったととらえていますし、「101年以降も講談社で書いていただきたい」という当社の気持ちを表せたのでは、とも感じています。

 今回の100冊は、ジャンルも装丁もバラバラなので、広告も作品ごとに違うクリエーティブにしましたが、祖父江慎さんがデザインした「書き下ろし100冊」のシンボルマークは必ず配するようにしました。ジャンルが多岐にわたるので、書店ではそれぞれの売り場に置かれることが多く、なかなか「書き下ろし100冊」を 「塊」として認識してもらうのが難しかったのですが、帯や広告に必ずマークを入れ、それが繰り返し目につくことで、読者には「100冊の塊」がどんどん増えていっているイメージを持ってもらいたい、と考えました。

――節目の年、そして、大型企画を終えました。次なる展望を聞かせてください。

 100周年のひと区切りはつきましたが、これまでの仕事の仕方と何かが変わる、ということはありません。ただ、今回の企画で、これまでお付き合いがあった作家さん、なかった作家さんと、いずれもご縁が深まったので、これからもさらに深い関係性を築いていきたいと願っています。

 また、本の新しい形態が登場し、読み方も変わってきている中、小説の世界も変化してきています。講談社の文芸局という伝統は踏まえつつ、さまざまな変化に柔軟に対応し、読者の方々が何を望んでいるかを見極めてボールを投げていきたい。とはいえ、読者におもねるのではなく、当社がこれが今おもしろいと感じていて、さらに読者も関心を持ってくれるようなものを、しっかり届けていきたい。そして、すべての答えは、冒頭でもお話ししました「おもしろくて、ためになる」という創業理念にあると考えます。迷ったときにはこの理念に立ち返り、読者に喜んでもらえる本を届け続けていきたいですね。

 また、今回刊行した100冊が数年後には文庫になります。折しも来年は講談社文庫が40周年という記念の年なので、単行本と文庫を連携させたコミュニケーションを展開し、今回の「書き下ろし100冊」の企画が、数年後にさらに何倍にも大きくなっているように、営業部、宣伝部は努めていきたい。それが編集部門の努力に報いることになりますし、おもしろがって売ってくださった書店への感謝にもつながっていくと考えています。

「書き下ろし100冊」シリーズ

2009年6月3日付 朝刊 全5段 2009年6月3日付 朝刊 全5段
2009年8月29日付 朝刊 全5段 2009年8月29日付 朝刊 全5段
2010年5月15日付 朝刊 全5段 2010年5月15日付 朝刊 全5段
2010年10月2日付 朝刊 全5段 2010年10月2日付 朝刊 全5段