学生支援、学生と教員のコミュニケーションに「ボストン美術館展」を活用

 アメリカのボストン美術館が所蔵する、レンブラント、ゴッホ、ミレー、モネなど巨匠たちの作品の数々が一堂に会した「ボストン美術館展 西洋絵画の巨匠たち」(朝日新聞社主催)が、今年4月、森アーツセンターギャラリー(東京・六本木)で開催された。協賛した駒沢女子大学にとって、文化事業への協賛は今回が初の試みだった。駒澤学園入試センター課長の河内秀雄氏に、協賛の経緯、成果などを語ってもらった。

「本物」と触れ合う場を
学生たちに提供したい

駒澤学園 河内秀雄氏 駒澤学園 河内秀雄氏

──「ボストン美術館展」に協賛された経緯、ねらいなどを聞かせてください。

 本学では、就職を含めた学生支援に力を入れており、1、2年生時の教養の見直しを進めるにあたり、「本物」に触れる機会を提供したいと考えていました。今の学生は、「教養」の後退や不況の時代に生まれ育ってきたこともあって、これまで絵画をきちんと鑑賞する機会がなかった学生も少なくありません。理解にまでおよばないまでも、美術館に足を運び、とにかく一度「本物」に接してほしかった。そんな思いから何か美術展に協賛したいと考えていたところ、今回のお話をいただいたのです。絵画や美術に詳しくない初心者でも楽しめる、著名画家や大作を網羅している「ボストン美術館展」は、最初の事例としてはこれ以上ないと感じるほどの内容で、喜んで協賛させていただきました。
 

「ボストン美術館展」チケット 「ボストン美術館展」チケット

 協賛にあたり800枚のチケットを提供していただきましたので、学生を中心に配布しました。このチケットは、教員と学生のコミュニケーションツールとして活用したいというねらいもありました。ゼミ形式の授業の一環で、教員と学生が六本木で絵画鑑賞をし、そのあとで皆で一緒に食事をする、といった交流の場に使ってほしいと考えました。特に大学人文学部の国際文化学科と短期大学の保育科では、そうした場がかなり多く設けられたようです。ゼミに所属していない学生向けには、本学の学生支援課が美術館美術館ツアーを企画・開催をしました。また、オープンキャンパスでは参加者にチケットをプレゼントし、その取り組みの理解を求めることもしました。ほかにも、併設する中学、高校では美術の授業の一環として見学に行きそのリポートを授業の中で活用したり、近隣地域の皆さんを抽選でご招待する取り組みをしたりするなど、様々な運用を行いました。

──反響、手ごたえはいかがでしたか。

 目的としては学生支援や教員と学生とのコミュニケーションが一番だったのですが、主催の朝日新聞社が特別編集の紙面を掲載するなど大々的にプロモーションしたことにより、結果として本学の名前の露出が高まり、本学が協賛していることに対する認知も非常に高まりました。本格的な告知がスタートしてすぐに卒業生からの喜びの声が寄せられたこともうれしいことの一つでした。地方版にチケットプレゼントの告知広告を掲載したところ、こちらも思った以上に反応がよく、近隣の方々にもきちんと認識していただいたようです。当初は、OGや職員にもチケットを配布したいと考えていたのですが、非常に反響がよく、会期終了前にチケットの残りがほとんどなくなってしまいました。文化事業への協賛が初めてだったので、今後どのように運用していくとよいのかといった経験値が得られたことも収穫でした。

 学生からは「図録などでは分からない、本物ならではの発色の美しさに驚いた」というような声が聞こえてきました。まさに期待していた反応です。保育科には造形の授業もあり、学び、制作の面でも非常にいい影響を与えてくれたようです。

2010年4月1日付 朝刊 ボストン美術館展特集 2010年4月1日付 朝刊 
ボストン美術館展特集
2010年5月8日付 朝刊 多摩版 2010年5月8日付 朝刊 多摩版
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「ボストン美術館」展 会場風景

文化事業への協賛は「学生の将来への種まき」も視野に。
分かりやすく、大学にふさわしい取り組みに期待

──初の協賛に、新聞社主催の展覧会を選択していただきました。新聞社が展開する文化事業をどう評価しますか。

 様々な活動への協賛を検討する中で、正直なところ営利を主たる目的とした団体も少なくないと感じました。そうしたところと組んでしまうと、私たちが意図しなくても、結果として営利追求に関与することになってしまう。内容はもちろん、どのような主催者と組むかは、本学の信用・ブランディングにも大きくかかわってくることだと思います。そうした意味で、新聞社という主催者、また新聞社が展開する文化事業とご一緒させていただくことは、信頼、信用、客観性と併せメッセージできることであり、大学(教育機関)広報として非常に適切なものであろうと考えています。

──今後の展望などを聞かせてください。

 文化事業に限らずスポーツなどの分野でも、内容がふさわしく、かつ、学生や地域の皆さんに対していい形で運用できるようなものがあれば、積極的に取り組んでいきたいと考えています。学生に対してはまだ「将来への種まき」としての意味合いを持たせていきたいので、難しく理解しにくいものよりも、今回の「ボストン美術館展」のように親しみやすい、バランスのよいものが適しているように感じています。

 本学の建学の精神は、道元禅師が詠んだ「春は花/夏ほととぎす/秋は月/冬雪さえて/冷(すず)しかりけり」という歌にもあるように、その多くが禅文化に由来する日本の伝統や生活、日本人の心を見つめ、そこから自分自身を見つめ直すことに重きを置いています。この誇るべきアイデンティティーを本学のブランドとして提示していくとき、やはりキーワードになるのは「本物」です。これからも「本物」と接することができるような文化事業を積極的に探し、選んで組み合わせていければと考えています。