ターゲットごとにメディアを厳選し、集客アップをめざす

 募集型企画旅行を中心に、国内、海外の旅行事業を展開する阪急交通社。取締役執行役員・東日本営業本部長の中路間茂樹氏に、人気ブランド「トラピックス」におけるダイレクトマーケティングの特徴、メディアの使い分けや新しい取り組みについて聞いた。

週1ペースで出稿会議を実施、鮮度のある募集広告を展開

阪急交通社 中路間茂樹氏 阪急交通社 中路間茂樹氏

──使用メディア、送客数、商品特性、顧客層など、「トラピックス」の概略を聞かせてください。

 使用メディアは、新聞、自社発行の旅行カタログ情報誌「トラピックス倶楽部」、ウェブサイトの主に3つで、そのほか、各方面の営業担当者が顧客にDMを送付したり、メールマガジンを地域別に内容を変え、約100万人の登録者に2週に1度のペースで発信したりしています。送客数は年間400万人、うち海外旅行客が84万5千人、残りが国内旅行客です。商品は添乗員つきパッケージツアーが多く、顧客層は50~70代の熟年層が中心。一方で若年層の獲得を課題としており、その対策として、近年はFIT(個人旅行)商品に注力しています。

──各メディアの特性をどうとらえ、使い分けていますか。

 新聞は、一定以上の粗利の見込めるレギュラー商品を重点的に展開し、価格訴求型の粗利の低いキャンペーン商品はネットやDMを中心に展開しています。また、「トラピックス」登場以来21年の経験から、「トラピックス倶楽部」をリピーター対策に有効なツールととらえ、エリア別に発行。1千万にのぼる顧客データから一定の条件を設定してターゲットを抽出し、月平均約300万部を配布しています。

──商品の鮮度、集客率の高さの秘訣(ひけつ)は。

 当社は募集広告費を予算化しているわけでなく、各方面担当が自身で捻出(ねんしゅつ)しなければなりません。そこで、それぞれ週1ペースで出稿会議を行い、航空会社の値下げ情報などをにらみつつ、シビアかつ迅速にメディアを選別しています。早ければ1週間で新企画の募集が可能で、これが半期に1度パンフレットを作って店舗展開している旅行会社にはない強みとなっています。また、首都圏、中部、関西、九州など、地域別に集計している客数や売り上げを全社リアルタイムで共有するなど、新しいニーズや人気プランを社員同士が参考にできるシステムを整えています。

 無店舗販売の補完システムとしては、全国で実施している旅行説明会があります。地方もくまなくフォローし、20人ほどの少人数でも開催しています。説明会の申込率は非常に高く、販促の一翼を担っています。

──マスメディアの役割をどのように評価していますか?

 テレビ展開はそれほど多くありませんが、大阪で旅紹介のテレビCMを展開し、「くわしくは明日の新聞で」と誘導したところ、紙面への問い合わせは通常以上でした。旅番組の1枠を地方局と一緒に制作し、募集をかけた際も多数の反響がありました。新しい顧客との接点として、テレビ通販の可能性も模索しようとしているところです。
基本メディアは新聞で、特に新規顧客獲得という点で重視しています。その効力を実感したのは昨年の新型インフルエンザ騒動の時で、旅行者が減る中でも新聞広告への申し込みが落ちることはありませんでした。

2010年8月15日付 朝刊

2010年8月15日付 朝刊 阪急交通社 海外旅行 海外旅行の広告事例
2010年8月15日付 朝刊 阪急交通社 国内旅行 国内旅行の広告事例

成長が見込まれるFIT商品

──主な顧客層であるシニアのニーズに変化はありますか?

 昔は、「ロンドン・パリ・ローマ」といった各国周遊の旅が人気でしたが、近頃は一つの国をゆっくりと巡る旅が人気です。旅先を自分で調べてプランの内容をじっくり吟味される方も多く、価格訴求だけでは響かなくなっています。「四つ星ホテル」「特等」「ビジネスクラス」といったことにこだわるシニアも増えており、広告表現においても旅のクオリティーを打ち出す傾向が強くなっています。

──課題としている若年層獲得への取り組みは。

 若者の旅への関心自体が減退しているとも言われており、ニーズの把握は容易でありません。ただ、ネット通販による若者の取り込みには期待しています。スマートフォン、ipadといった新しいデジタルツールの普及もネット通販には追い風です。当社のネット通販のシェアは年々伸びており、比率で見ると国内17%、海外28%、平均シェアは21%(約430億円)を占めます。若者の支持率が高いFIT商品は100%がネットを通じた申し込みで、検索ポータルを経由して来るケースが大半です。そのため、検索エンジンで上位に表示するためのSEO施策も行っています。

──今後の展望を聞かせてください。

 FIT商品は、今後ますます拡大すると見ています。というのも、旅客機の小型化が進む中、航空会社が旅行社1社に提供できる格安の席数は抑えられ、旅の参加者が一定数を超えて増えれば増えるほど利益率が下がってしまうという事態が起きているのです。
他方、最近はアウトバウンドビジネスだけでなく、中国や韓国など外国人観光客を対象としたインバウンドビジネスをめぐる各社の競争も激しくなっています。
旅行業界は今、いろんな意味で大きな転換期を迎えており、団体型から個人型へ、アウトバウンドからインバウンドへ、という流れにどう対応していくかが課題だと思っています。
21年前に「トラピックス」が登場した際はきわめて画期的だった「人件費やコミッションを省く無店舗販売」というビジネススタイルは、はからずも不況の厳しい時代に対応し得るものでした。今後も新しいニーズをとらえ、顧客の期待にこたえていきたいですね。