お客さまとのあらゆる接点でのきずな作りが、成功へと結びつく

 「肌トラブルに悩むすべての人々を救う」。化粧品販売のドクターシーラボは、こんな企業理念で、メディカルコスメのスキンケア商品、サプリメントを展開している。通販を中心に売れ行きは好調で、2009年8月から10年4月期の連結決算は、純利益が前年同期比88%増と大きく伸びている。同社取締役で通信販売事業部長の神戸聡氏に、好調の背景などを聞いた。

すべての販売チャネルでの対応を高度化
大切なのは「お客さまのご都合」

ドクターシーラボ 神戸聡氏 ドクターシーラボ 神戸聡氏

――メディカルコスメ誕生のいきさつ、通販を含めた販路展開などについて聞かせてください。

 肌にとって最も重要なのは「保湿」です。毎日肌に適正な水分量が蓄えられ続ければ、人間が本来持っている自然治癒力で自然と肌の状態は良くなっていくものです。しかしながら、世の中には肌に負担のかかる成分が入ったスキンケアが多かったことも、事実としてあります。当社の創業者で取締役会長の城野親德は、皮膚科医として多くの患者さんを診る中で、肌に負担のかかる成分を使わない、シンプルケアの商品を自ら開発しようと考えました。そうして12年ほど前に生まれたのが、天然由来のゲル(ジェル)を使った当社の看板商品「アクアコラーゲンゲル」です。肌トラブルに悩んでいた方たちの間でクチコミで評判になりましたが、創業時は販売できる店舗がなく、通販でお届けすることに。つまり、まず通販をやろうと考えていたわけではなく、企業理念を実現する上の初動の販路として選んだのが結果的に通販でした。その後、お客さまからのご要望で、バラエティーショップなどセルフで購入できる店舗、美容部員が接客する百貨店など、販路を拡大しました。

――商品、サービスなどに対する顧客のニーズをどのようにフィードバックしていますか。

 城野は現在も週の多くは東京や地方のクリニックで患者さんの肌を診ており、肌にトラブルを抱える方の悩みやニーズに直接触れています。そうした生の声を聞きながら、治療の考え方や技術、薬を、化粧品として満足していただける商品に転換していくという考え方で商品開発を進めています。そして、販売後は、電話、メール、あるいは、百貨店の対面販売で美容部員が実際に接客する中からお客さまの声を集め、さらに商品やサービスを向上させる体制を作っています。商品、サービスいずれについても、「ニーズを吸い上げる」という意識ではなく、「お客さまの声を真摯(しんし)に受け止める」というスタンスです。

「薬用アクアコラーゲンゲル美白」 「薬用アクアコラーゲンゲル美白」

――販売チャネルについては。

 現在、売り上げ全体の約54%が通販、セルフ販売が28%弱、百貨店での対面販売が16%という割合です。通販でのお申し込みの内訳は、電話43%、PC25%、モバイル12%で、残りがはがきやファクスとなっています。

 ネット環境の普及から、ネットを利用されるお客さまの割合は増えてはいますが、たとえば販売効率を上げるためにネットへの誘導を強化する、人件費がかかるから店頭でのシェアを意図的に減らす、といった企業都合の考え方はありません。どのチャネルでどう商品をお買い求めになるかは、すべてお客さまのご都合です。忙しくてお店に行けないときはネットで買うのが便利だし、実際に商品を試しながら説明を聞いたりしたいときは百貨店に足を運ぶ。美容相談を受けたいときはコールセンターに電話してみる……といった具合に、多くのお客さまがそのときどきに利便性の高いチャネルを使い分けているのです。ですから、すべての販売チャネル、お客さま接点における対応の質をより高度化していくことこそが最も重要だと考えますし、そこに当社は最も力を入れています。

 実は5年ほど前まで、コールセンターにかかってきた電話は何分以内に終わらせる、1回の電話でいくらの売り上げを目指す、といった指標がありました。しかし、そういった企業都合の影響もあって通販部門が伸び悩みました。そこで、お客さまに納得いただくまでじっくり対応するように方向転換を図りました。結果としてお客さまとのきずなが結ばれると、リピーターになっていただくことができ、長い目で見るとコストが収益に転換されました。お客さま接点を大切にしていくことが最終的には収益に跳ね返ってくると、本当に身にしみて感じることができました。

お客さまに寄り添った対応で
ダイレクトマーケティングは進化する

2010年7月19日付 朝刊 2010年7月19日付 朝刊

――新聞やテレビなど、マスメディアでのコミュニケーションも展開されていますが、ねらいや心がけていることは。

 当社にとってメディアは「自社店舗のひとつ」という位置づけで、そのねらいはいずれも、集客と販売です。それぞれの媒体の特性がどう、というよりは、出店場所の立地が違うという感覚に近く、集客効率や販売効率が上がる店舗をいかに押さえるか、という基準で媒体を選んでいます。そういう意味では新聞もテレビも雑誌もラジオもネット広告も横並びの指標でとらえていますが、たとえば渋谷と銀座では集客に効果的な店構えが変わってくるように、それぞれの媒体に最適な表現をするように心がけています。また、たとえばリアルの店舗に買い物に行ったとき、商品の陳列が見づらく、商品説明がわかりにくければ、お客様はすぐに出て行ってしまうでしょう。同じように、お客さまがどう感じるかという目線で、わかりやすく、快適な買い物ができるような見せ方、動線づくりを、すべての媒体において工夫しています。

――今後の展望、課題は。

 CS(Customer Satisfaction=顧客満足)という言葉がありますが、同じCSなら、当社は「Customer Surprise」、つまり「お客さまに期待を超える驚きや感動を毎日お届けしたい」と考えています。そのために当社は4つのすべきことがあります。それは①結果の出る商品 ②新しいことへの挑戦 ③お客さまへの信頼構築 ④ユニーク であること、です。

 「治った」「きれいになった」と、商品が結果を出して感動を与えることは大前提です。その上で、新しい化粧品の考え方や新しい販促の形に挑戦していきたい。たとえば、年齢が高めのお客さまを集めたバスツアーを最近試みました。単なるプレゼントよりも驚きがあって、お客さま同士が語らうという楽しみをご提供できました。通販というとワントゥワンという考え方が強いですが、公式サイトではお客さまが参加できるコミュニティーを運営するなど、お客さま同士がきずなを結べるようなユニークな取り組みにも、どんどん挑戦していきたいと考えています。もちろん、当社とお客さまのきずなも大切で、最近もツイッター対応開始など、あらゆるチャネルでの対応を高度化し、さらなる信頼を得ていく考えです。先の4つの要素が様々な場面において複合的に重なることで、感動やサプライズが生まれる。そんな商品、サービス、そして企業を目指していきたいと考えています。

 さらに言うならば、これからのダイレクトマーケティングは、ワントゥワンだけでなく「シチュエーション・マーケティング」のようなアプローチも必要なのではないか、と。たとえば、出産後は肌が荒れがちなのですが、「出産」というシチュエーションを把握していれば、そのお客さまの状態に最もふさわしい対応をすること ができます。顔を向き合わせてコミュニケーションができるリアルの店舗ではもちろん、電話やメールでも、お客さまにしっかりと寄り添うことは不可能ではないと考えます。そういったことの実現はマニュアル対応だけでは無理な話で、コミュニケーターなどに高いコミュニケーション能力が求められます。コストの問題もあって簡単な話ではありませんが、そうすることで本当のサプライズをご提供できるし、ダイレクトマーケティングの進化も、そこにあると確信しています。