商品にある「モノ語り性」が強み マスメディア広告で動機付けを行う 

 商品を独自の視点で厳選し、その魅力や使い勝手を、読み物のような親しみやすい文章で伝えてくれるカタログ「通販生活」や「ピカイチ事典」には、根強いファンが多い。ネット通販が拡大する中、通販の老舗(しにせ)はどう動くのか。カタログハウス取締役広報室長の松尾隆久氏に聞いた。

街の店にあるような売れ筋ではなく
「こんなモノがあったらいい」を掘り起こす

カタログハウス 松尾隆久氏 カタログハウス 松尾隆久氏

――取り扱っている商品について聞かせてください。

 「ピカイチ事典」というカタログ名にあるように、編集部がそのジャンルの中でベストバイだと考える「ピカイチ性」のある商品を選び、それを情報としてお客さまに提供して、商品を買っていただきます。そして、なぜその商品がいいのか、便利なのかを語れる「モノ語り」があることも、掲載される条件です。当社のカタログがひとつの商品に多くの文字数、スペースを取っているのは、その「モノ語り」をじっくりと語るためです。さらに、近くの街の店で見つかるなら直接行って買ったほうが早いわけですから、実際のお店では見つかりにくいもの、というのも訴求のポイントです。

 つまり、「『ピカイチ性』がある商品」「『モノ語り』がある商品」「街のお店では見つけにくい商品」というのが、掲載の基準になります。この基準を満たせば、「どのジャンルの商品もありの総合通販」、リアルの店舗で言えば「セレクトショップ」に当たると思います。

――顧客ニーズにはどう対応されていますか。

 モノがあふれ、所有する欲求も飽和状態になり、消費者の価値観も多様化しています。そんな時代においては、顧客のニーズに合わせることよりも、商品の担当者自身が「これがあったら便利だろうな」「こういうものが世の中にあったらいいな」というような気持ちをかき立てて、発想していくことが重要ではないか、と考えます。まさに「モノ語り」のある商品と言えると思いますが、そうした商品は店頭で語るのが難しく、案外世の中に埋もれていたりするのです。

 たとえば「通販生活」で長く紹介している「ヤコフォーム靴」という人気商品があります。横幅が広く足が自由に広げられて、まるで裸足で歩いているような心地よさが人気の理由なのですが、見た目はちょっと不格好で価格は3万円です。これがただ店頭に置いてあっても、おそらく売れないでしょう。でも、当社では、こうしたモノ語りのある商品を売りたいと思う。私たちはこれを「売りたい魂」と呼んでいるのですが、そういう気持ちが乗っかるものを紹介することが、結果、お客さまの満足、支持につながるのではないか、と考えています。

ウェブサイトの「通販生活」 ※画像をクリックすると ウェブサイト「通販生活」へ ジャンプします。 ※画像をクリックすると ウェブサイト「通販生活」へ ジャンプします。

――冊子のカタログ以外にウェブサイトの「通販生活」もあります。顧客の利用状況はいかがですか。

 カタログを見て、電話やはがきでお申し込みするお客さまがまだ多いですね。カタログを見ていても購入はウェブからという利用者もいるので厳密な線引きはできませんが、昨年度で全体の15%くらいがネット経由での購入でした。今年度はさらに5%ほどアップすると見ています。ウェブサイトについては、まさに今後の最重要課題ととらえ、取り組んでいる最中です。

――ネット上の通販ビジネスが拡大しています。

 あくまでも私見ですが、私は当社が展開するような「通販」と、ネットのみで取引する「eコマース」は、別物だとみています。一番の違いは、お客さまの興味や購買意欲をかき立てる「動機付け」をしているか、していないか。当社ではカタログやウェブサイトといった自社媒体や、 新聞広告やテレビCMといったマスメディア広告、折り込み広告を使って動機付けをしています。一方、ネットだけで展開するeコマースは、動機付けになる媒体を使わないので、その分のコストがかからず価格訴求しやすい。だから、価格訴求型に私たちがなるのは難しいと思います。

 でも、たとえば家電を買う時に、「価格比較サイトで最安値だけど返品ができない」「クレームはメーカー任せのような店で買うのは不安」と感じている消費者はいまだ多いと思います。そんな人は少しくらい高くても信用できる大手の量販店で買うでしょう。つまり、必ずしも価格だけが万能ではなく、ショップへのロイヤルティーも選択の基準になると思うのです。

 当社が今ウェブサイトに力を入れているのは、まさにeコマースのサイトとの差別化を図るためです。キャンペーンや企画を定期的に打つことで、日常的にサイトを訪れるというお客さまを作り、そこで「通販生活」というサイトへのロイヤルティーを醸成していく。もちろん、価格が最安値とかけ離れすぎては選ばれないので意識はしていますが、ある程度の差は、サービスやキャンペーンでの動機付けで埋めることができると見ています。

価格訴求をしのぐロイヤルティーを
「選ばれるサイト」を目指す

――マスメディア広告も展開されていますが、そのねらいは。また、その中で新聞広告に期待する効果は。

 現在、新聞広告とテレビCM、新聞の折り込みチラシを、カタログの定期購読を告知するキャンペーン時に展開しています。メディアが多様化してそれぞれの媒体への注目は分散してしまっているとは思いますが、高い取材力を持つマスメディアは、情報ソースとしてやはり強いと思います。つまり、広告価値も高いということ。

 紙媒体には、テレビの15秒では伝えきれないことを伝えられるだけの情報量があります。新聞は、やはりカタログ同様、商品への思いをきちんと読んでもらうには最もふさわしい媒体だと思っています。最近は本紙だけでなく題字付きのエリア広告も活用しています。カラーが指定できたり、厚い紙を選べたりするなど、自由度が高いので使い勝手がいい媒体ですね。

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2010年1月18日付 朝刊 カタログハウス 2010年1月18日付 朝刊

――今後の展望、課題などについて聞かせてください。

 ダイレクトマーケティングにおいて、ネットの存在はもはや無視できません。ですから、繰り返しになりますが、最大の課題はウェブサイトへの取り組みです。カタログとしての「通販生活」が定着しているうちに、ウェブサイトとしての「通販生活」を固定化させ、お客さまに選ばれるサイトを目指さなければなりません。当社に限らず、カタログ通販の企業はまさに過渡期にあります。カタログやマスメディアでの広告などとサイトのキャンペーンを連動させるような見せ方や企画も、今後模索していく考えです。