ネーミングの妙と“具だくさんラー油”の意外性で消費者の情報発信欲を喚起

 昨年8月の発売以来、クチコミがクチコミを呼んで爆発的なヒットとなった「辛そうで辛くない少し辛いラー油」。追随商品も現れ、ブームは過熱。ネットを中心に、食べた感想や料理レシピなど、消費者の情報発信がさかんに行われた。営業企画室・課長代理の森本豊彦氏に、開発の背景やプロモーション戦略について聞いた。

 

ウェブを活用しクチコミ効果をねらう

――商品開発の背景は。

桃屋 森本豊彦氏 桃屋 森本豊彦氏

 当社がエスニック系の商品展開を始めたのは、高度成長期で食卓が豊かになりつつあった1960年代後半です。最初はザーサイやメンマといった中華食材でしたが、1975年に「キムチの素」が大ヒット。以来“ピリ辛商品”を数々開発し、1987年にはラー油味の「穂先メンマ やわらぎ」がヒットしました。一方、料理の下ごしらえから仕上げまで、さまざまなタイミングで使えるビン詰めの開発が進み、2001年に発売した「きざみにんにく」が毎年2ケタ台の伸びを記録。これに自信を深め、ノウハウのあるラー油と汎用性のあるビン詰めの特性をかけ合わせた同商品を考案したのです。試作品をモニター調査にかけたところ、「いろんな料理の調味料に使える」「ごはんにかけて食べてもおいしい」と大変評価が高く、発売に至りました。

――ユニークなネーミングも話題になりました。

 商品名は、会長兼社長自らが考えました。そもそも、のりのつくだ煮に口語体の商品名をつけて世間を驚かせた「ごはんですよ!」も社長考案です。「辛そうで辛くない少し辛いラー油」というネーミングは、実はほとんどの社員が反対していました。流通が管理しやすい簡潔な名前にすべきだと。代わりに「食べるラー油」というコンセプトのネーミング案がたくさん出されましたが、「使われるシーンを限定せず、商品を見て、口にした時の感想を素直に反映させるべき」とのトップの判断で名前が決まりました。

「辛そうで辛くない少し辛いラー油」 「辛そうで辛くない少し辛いラー油」

――プロモーションおよび広告戦略は。

 当社としては初めてウェブを活用したプロモーションを実施。昨年8月18日の発売時、サンプリングと商品告知をかねて、「モラタメ」「サンプル百貨店」「もぐナビ」という3つのサイトに情報を展開し、抽選でプレゼントも行いました。サイト利用者の中には自分のブログで新しい商品情報を発信される方も多く、期待通りそうした動きも見られました。翌9月にはより幅広い層に浸透をはかるため、朝日新聞社発行の『アスパラ NEXT-AGE』など主に紙媒体を活用しました。さらに10月、スーパーの棚が秋冬仕様に入れ替わり、商品が店頭にそろった時期を見はからってテレビCMを放映しました。

――消費者の反響は。

 商品に対するコメントが週に500件を超える勢いで消費者のブログに次々とアップされ、SNSやツイッターでも大変な話題となりました。内容は、「ネーミングが絶妙。まさに辛そうで辛くない味のバランスが見事」「気がつけば、ごはん2杯食べていた」「炭水化物に合う。ごはん、パン、パスタ、うどん、オールOK」など、商品の魅力を的確に表現してくれるものばかりで、商品や商品を愛する人を称して「桃ラー」という言葉も生まれました。とうとう品薄状態となり、テレビCMは放映開始から12日間で中止する事態となりました。

テレビCM「辛そうで辛くない少し辛いラー油 うまい!!篇」

桃屋 テレビCM「辛そうで辛くない少し辛いラー油」
桃屋 テレビCM「辛そうで辛くない少し辛いラー油」
桃屋 テレビCM「辛そうで辛くない少し辛いラー油」

 

成功体験を他商品のプロモーションに反映

――ヒットの要因をどのように分析されますか。

 他社のラー油とは明確に差別化された商品であること、ビン詰めなので豊富な具材の中身が一見してわかること、いろんな食べ方ができること、ネーミングがユニークで“突っ込みどころ”があり、クチコミがさらに広がったことなど、第一に商品力が挙げられると思います。減塩や薄味など健康志向とあいまって“ピリ辛味”が好まれていること、経済状況から家で食事する人が増えていることも背景にあると思います。予想外だったのは、品薄状態だという情報もウェブ上で話題となったことや、他社から次々と追随商品が出されると、“食べるラー油のさきがけ”として脚光を浴びたことでした。

「塩だしつゆ」 「塩だしつゆ」

――成功体験を他の商品プロモーションにどのように生かしていますか。

 「辛そうで辛くない少し辛いラー油」と同日発売の「塩だしつゆ」という商品があり、前者ほどの爆発的ヒットでないにしても、前月比2ケタ台の伸びを続けています。この商品のプロモーションでは、消費者の意見が購買行動に結びついたラー油の成功例をふまえ、読者アンケートやモニター調査を重視する雑誌『Mart』(光文社)とのタイアッププロモーションを実施。さらに同誌のメルマガや、「Mart編集部ブログ」「Martスーパーミセスブログ」など、『Mart』が持つさまざまなメディアで商品の魅力に迫り、コラボレーションCMも展開しました。さらに当社ウェブサイトに「塩だしつゆレシピカレンダー」というページを設け、『Mart』の読者に考えていただいたオリジナルレシピを今年3月から毎日更新しています。『Mart』の読者は自身でブログを立ち上げている人も多く、「しょうゆを使っていないので、素材の色合いや風味が生きる」「和・洋・中・エスニック、どんな料理にも使える」など、うれしい声が続々とアップされています。

桃屋×『Mart』 スペシャルコラボ

桃屋×『Mart』コラボレーションCM
桃屋 塩だしつゆレシピカレンダー

――マスメディアに期待することは。

 お客様の支持をいただき、「辛そうで辛くない少し辛いラー油」は桃屋の新しい顔となりました。しかし、クチコミは自然発生のものばかりではなく、当社のコミュニケーション戦略に端を発してクチコミが広がった点も見逃せません。マスメディアにはクチコミの起点となることを期待し、今後は、情報発信の仕方をさらにブラッシュアップしていきたいと考えています。

――今後の課題や展望は。

 桃屋は今年創業90 周年を迎えました。過去にもヒット商品は数々ありますが、「辛そうで辛くない少し辛いラー油」のような爆発的なヒットは初めてのことです。ただそれは、商品のオリジナリティーにこだわり、長い歴史の中でノウハウを培ってきたからこそ。今後も変わらぬ姿勢を貫いていきたいですね。
なお、「辛そうで辛くない少し辛いラー油」は特殊な製法で生産し、他社がまねできない味や食感を実現しています。そのため量産が難しく品薄状態が続いていますが、増産体制を敷き、お客様の期待にこたえていくつもりです。