伝えるべき相手とテーマに応じ多様化する政府広報の表現

 広告紙面のカラー化による注目喚起、読み物的な要素の付加による興味の促進、ホワイトスペースを生かしたビジュアル表現。近年の政府広報は従来的な知識提供型の表現に留まらず、手法を多様化させながら効果の最大化を目指している。内閣府大臣官房政府広報室 参事官補佐(企画調整担当)の坂本眞一氏にお話をうかがった。

負担を求める理由を説明する

坂本眞一氏 坂本眞一氏

── 多くの政治課題がある中で、政府広報として取り上げる政策や情報をどう選択していますか。

 今の政府全体から見てどういう課題を手厚く伝えていくかといった調整を行うのは、内閣官房の内閣広報室です。また各省からも、「このテーマがこの時期に重要なので取り上げてほしい」といった希望が寄せられますから、これらの関係機関と十分に相談して広報テーマを決めていくのが形式的な流れになります。

 昨年度あたりから特に重点的に取り上げてきたテーマを挙げますと、税源移譲の話や、年金記録問題、C型肝炎の問題、最近では長寿医療制度などがあります。それと今年はサミットがありましたから、昨年度から北海道洞爺湖サミットの広報に力を入れてきました。

 これらは国民生活に密接なテーマですが、新たな負担を国民にお願いする内容が増えているのが特徴です。なぜ負担が必要か十分説明し、政策について理解していただく必要性が非常に高まりました。

重要テーマは重層的に発信

── 広報のテーマとメディア選択との関係については。

 政府広報としてはメディアの選択ということより、重要な政策については重層的に取り上げ、国民の方々の接触機会を増やすことが大切だと考えています。

 もちろん各省庁からは、メディアの選択に対する希望は伝えられています。例えば、制度の説明が重要なものは、適当なスペースなり文章量なりが必要です。ですから新聞広告や、昨年度から本格的に利用している新聞の折り込み広告で扱ってほしいという希望が多く寄せられます。また地域再生の話など、現場を取材して取り上げてほしいテーマでは、テレビをはじめとする放送媒体がよく希望されます。

 最近ではインターネットの希望も増えています。内閣府では「政府インターネットテレビ」というサイトを立ち上げ、政府の施策や各大臣のメッセージなどを動画で紹介しています。

── 多様化する政府広報において、新聞メディアの役割は。

 新聞媒体は政府広報の基本だと思っています。その理由の一点は、十分なスペースを割いて説明ができること。保存性もポイントで、年金に関する記事下広告などでは、切り取ってそのまま保存しているといった声も聞いています。もう一点は、広告会社と協議しながら制作した、政府としての意図を反映した原稿で直接お伝えできるということです。

「伝える」から「目に留まる」へ

── 新聞広告から最近の事例をいくつかご紹介いただけますか。

 今年5月に横浜で行なわれた「第4回アフリカ開発会議」に関連して、アフリカ諸国と日本との意外に密接な関係を紹介する広告を掲載しました。多くの若者にとってアフリカはなじみの薄い地域です。そこで野口英世博士と女優の鶴田真由さんが同じ写真の中に登場する、「なんだろう」と思っていただけるビジュアルの工夫をしたり、日常的な食品の原料がアフリカから輸入されているといった、身近なエピソードを紹介。とにかく見て読んでもらえる広告を目指しました。

 また、「ねんきん特別便」に関する広告はこれまで複数回掲載していますが、外枠を帯で囲んだデザインでシリーズ感をもたせ、以前の掲載をご記憶の方が、これは年金のお知らせだと気づきやすくしました。年金記録問題はお伝えしなくてはいけないことがたくさんありますが、この広告では「ねんきん特別便が届いたら、必ず回答をお願いします」といった最重要の一点に情報を絞り込んでいます。

 また昨年10月の「薬と健康の週間」には、「効き目があるのが、くすり。副作用があるのも、くすり。」というコピーと薬瓶だけを配し、薬害の危険について考えていただく広告を掲載しました。「政府広報は、ちゃんと文章で説明すべきだ」というご意見もありましたが、ひとつのメッセージが印象的に届くように、あえて情報を削って余白をもたせるといった冒険も、テーマによっては必要だと思います。

── 新聞広告では一面の突き出し広告もなじみ深いものです。

 新聞のカラー化が進む中で、広告が埋没しないよう最近は突き出し広告でもカラーを使っています。例えば本年4月に暫定税率が下がり、ガソリンの買いだめが危惧(きぐ)された時期には、「ガソリンの保管は危険です」というコピーを赤字にして、強い注意を促しました。新聞一面は多くの方の目に留まるスペースですし、ニュース性の高い話題を簡潔に伝えるのに適しています。

── 環境問題をはじめ、政府と企業、民間団体などとの協調が重要となる政策が今後増える中で、媒体社とタイアップの手法をとった広報の可能性は。

 クロスメディアで展開する広報が望ましいと考えているテーマはたくさんありますが、限られた広報予算の中で実現が難しいのが現実です。タイアップ企画については、優れたご提案があれば検討したいと思いますが、政府広報としては、なぜ特定の新聞のみに広告を打つのかという説明は、常に求められます。例えば、新聞の環境特集とのタイアップを考えた場合、企画は複数の新聞で考えられるわけですから、特定紙とのタイアップに理由が必要なことは、公の広報としての大前提だと思います。

2007年 10/17 朝刊
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