「PEANUTS」65周年へ 小型広告で「ビーグルハグ」を6カ月連載

 米国コミック「PEANUTS」の、スヌーピーをはじめとする人気キャラクターが登場する小型広告シリーズが、昨年7月1日から12月31日付まで、休刊日を除く毎日、朝日新聞朝刊に掲載された。「TODAY’S BEAGLE HUG - 今日は、誰をハグしよう?-」と銘打ったプロジェクトについて、「PEANUTS」の日本のエージェントであるソニー・クリエイティブプロダクツのPEANUTS推進本部に話を聞いた。

「ビーグルハグ」の世界観 ひとコマの体裁で毎日発信

 「『BEAGLE HUG』(ビーグルハグ)とは、『PEANUTS』(ピーナッツ)の作者チャールズ・シュルツさんがコミックの中で生み出した、大切な思いを分かち合うときの合言葉です。原作では、ビーグル犬のスヌーピーはもちろん、他の登場キャラクターが誰かをハグしているシーンがたくさん描かれ、言葉にできない思いを伝えるボディーランゲージのような意味合いで使われています」と話すのは同本部PEANUTS推進部の中村浩子氏。

 同社では「PEANUTS」ブランドの価値を上げ、ライセンシーによる商品展開に結びつけることが重要なミッション。権利元と協働で柱となるメッセージやアートを毎年企画している。2014年は、「ビーグルハグ」の世界観を軸としたコミュニケーションに取り組むことになった。

渡辺恵介氏 渡辺恵介氏

 「2013年に朝日新聞社などが主催した原画展『スヌーピー展 しあわせは、きみをもっと知ること。』が大好評でした。今年はコミック誕生65周年で、記念イベント『It’s Party Time, SNOOPY-スヌーピーと仲間たち大集合!-』展を全国で開催します。原画展の盛り上がりからアニバーサリーイヤーまでをしっかりとつないでいくことが重要と考え、14年は継続的にメッセージを発信していこうと考えました」と本部長の渡辺恵介氏。そして、広告会社からの提案が「新聞で毎日メッセージを発信する」というアイデアだった。

 「『PEANUTS』は1950年、小さなコマのマンガとして新聞で連載をスタートしました。この原点に立ち返り、同時に新しいスタイルで、と考えると、新聞の小型広告の体裁はぴったりだと思いました」と中村氏。さらに「小型広告は広告なんですが、よりコママンガに近い形です。さりげなく、でもしっかりとメッセージを伝えられると考えました」

その日に載せるべき話題は何か?ニュースに応じて差し替えも

左から横関悦子氏、中村浩子氏、渡辺恵介氏 左から横関悦子氏、中村浩子氏、渡辺恵介氏

 「毎日ハグしたい、あるいはハグされるべき何かがある、というのがコンセプトです。その日ならではの内容にすることを重視しました」と、アートディレクターの横関悦子氏。「七夕」「食欲の秋」といった季節もの、「甲子園決勝」「柔道」などのスポーツもの、PEANUTSの仲間がお鍋を囲んだり、ゆず湯に入ったり……。取り上げるテーマは実にバラエティー豊かだ。全米オープンテニスで錦織圭選手が日本勢で96年ぶりにベスト4に進出した9月4日には「日本のエースの渾身(こんしん)のプレーに!」。日本人研究者3人がノーベル物理学賞に輝いた直後の10月10日には「世界をテラス青色の光とたゆまぬ努力に!」と、タイムリーな話題も多い。毎日発行される新聞ならではの展開だ。

 これらの広告は、公式ウェブサイトで184、新聞ではそのうち179が公開されたが、実際にはもっと多くのデザインがあった。「前もって原稿を準備しながら、トピックが発生すると入稿締め切り間際に差し替える態勢をとっていました。できるだけその日にベストなものを掲載しようと、毎日緊張感をもって臨んでいたのです」と横関氏は振り返る。

第1回の掲載紙面(2014年7月1日付 朝刊) 第1回の掲載紙面(2014年7月1日付 朝刊)

 掲載数日前に、当日どのようなニュースが話題になりそうかを検討した上で、その日の夕方には内容を決める。「PEANUTS」の膨大なデータベースから、内容に合った原画を探し出し、背景やアイテムを加えて制作した。コピーワークも同時進行。「読者に一目で伝わることを重視して、グラフィックもコピーもシンプルにしました」と横関氏。

 横関氏は、「『PEANUTS』は、いつも弱い立場の側に寄り添ってきたコミックです。どちらかといえば勝利や受賞といった華々しいニュースでも、それ自体を称賛するのではなく、それまでの努力や惜しくも負けた人の方をハグしたい、という思いなので、それを表現するよう心がけました」と説明する。

 広告の制作では、50年代当時の新聞印刷の雰囲気を出すために、わざと色をずらすなど、印刷ムラを出す細かい工夫も加えられた。これは朝日新聞社の制作チームが連日対応した。「たくさんの人の知恵、目、手間を経て、毎日の紙面を飾ることができました。チームワークのたまものだと思っています」と横関氏。「掲載が終了した今は、ちょっとしたペットロスならぬ『ビーグルハグロス』状態です」(笑)。

 「ビーグルハグ」の意味が浸透してきたころに、特設サイトでは「あなたがハグしたいものは?」と問いかけた。「スヌーピー」や「生まれてくる赤ちゃん」、さらには「地球全部」といった意見も続々と寄せられ、それを広告クリエーティブにも反映させるなど、広がりのあるコミュニケーションが実現した。

ネットにはない印刷物の感触 幅広い読者層と共有

 新聞掲載当日には、特設サイト、フェイスブック、ツイッターにも画像をアップした。公式HPへのアクセス数は、月間250万PV、対前月比80%アップと、通常より飛躍的に伸びた。ソーシャルメディアのコメントには「(最終回の後)終わっちゃうのはさみしい」と惜しむ声も多数寄せられ、楽しみにしていた人が多かったこともうかがえた。「新聞に掲載されたものを切り取って保存している」という愛読者の声も届いたという。

 「新聞は読者層が広いので、すべての年代の心に響く内容にすることは簡単ではなかったですが、『PEANUTS』自体もターゲットが非常に広いので、新聞の特性が生かせたととらえています」と中村氏。横関氏は「『PEANUTS』のアートの世界観には、印刷物の手触りが非常にマッチし、親子で切り取って保存するなど、コミュニケーションにもつながりました。ネットで情報を探すことが主流になりつつある今、ネットでは味わえない紙媒体ならではの感触を届けられた。新聞でやってよかったと思っています」と手ごたえを語った。現在、ビーグルハグは次々と商品化され、ブランド価値の向上と新たなビジネスへの展開という点でも、しっかりと成果を上げている。

 今年は、65周年を記念した全国巡回イベントに加え、「PEANUTS」のCG・3D映画が11月の米国を皮切りに世界中で公開される予定だ(日本は12月公開)。「私たちを含め、世界中の『PEANUTS』に関わる者にとっては非常に重要な一年です。しっかりと盛り上げていきたいですね」と渡辺氏は意気込みを語った。

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★『PEANUTS (ピーナッツ )』について
  スヌーピーで知られるPEANUTSは、1950年10月2日にアメリカの7紙で連載がスタートした新聞連載コミックで、現在も、世界75カ国21の言語、2200紙で掲載されています。日本では谷川俊太郎さんの名訳で知られています。
  PEANUTSアニメーションは季節の風物詩となり、幅広い商品が提供されています。さらにポップカルチャーのアイコンとして現代文化にさまざまな影響を与えています。PEANUTS WORLDWIDE LLC(ピーナッツ・ワールドワイド)がグローバルで版権管理をおこなっており、日本マ―ケットでは、エージェントであるソニー・クリエイティブプロダクツを中心になってライセンスビジネスを展開しています。
  2015年10月2日の連載65周年をお祝いし、65thアニバーサリイヤーがスタートしています。また、2015 年末には、ブルー・スカイタジオ製作、20世紀フォックス映画配給で、初のCG・3D映画『 I LOVE スヌーピーTHE PEANUTS MOVIE』(邦題)」を全世界リース。日本でも12月の公開を予定しており、注目されています。


日本のスヌーピー公式サイト http://www.snoopy.co.jp/