「書くこと」と、読者の人生のシーンがつながる企業広告

 「書く」という文化を通じて、人と人とのコミュニケーションを支える。その思いを製品作りに込めた90余年の歴史を持つ筆記具メーカー、パイロットコーポレーション(以下、パイロット)は9月上旬、ブランドメッセージ「書く、を支える。」をテーマとした企業広告を朝日新聞朝刊にシリーズで掲載した。

手書き文字が生む、人の体温のある共感

渡辺広基氏

 パイロットが9月上旬に新聞などを使った企業広告キャンペーンを行うのは、今回で4年目。この時期は高価格帯筆記具の商戦シーズンとなる年末から来春に向けた新製品の発表時期にあたり、同社では例年9月第1週に新製品発表会を行っている。企業広告は取り扱いディーラーなどに向けたB to B的な意味合いも強いが、ペンを使い、書くことの意義を広く社会に問うメッセージは、その先にあるユーザーの心に響くものだ。

 渡辺広基社長は、「筆記具メーカーとしてのパイロットのブランド力を高めていく中で、企業広告の役割は非常に重要だと思っています」と、新聞広告の意義を語る。今年3月に社長に就任した渡辺氏は営業企画部長時代から、企業広告の企画にも携わってきた。

 「商品にはその裏側にコンセプトがあります。この時期に企業広告を出すことで、そういった物語の部分を製品の特長などと併せてメッセージすることが、お得意様のより深い商品理解につながると思っています」

 また同時に、『書く、を支える。』というメッセージにパイロットが込めた企業理念を、多くの消費者に向けて訴求することも企業広告の大きな役割だ。

 「それは書く人を支えることであり、書く文化を支えるということです。書くことで生まれる楽しさや大切さ、人と人とのつながりを、企業として支えてきたという自負が私たちにはあります。その思いを毎年時代の空気に合わせながら伝えるようにしています。新聞の活字は残るもの。書かれていることに責任を負っているメディアだと思っています。責任のある紙面づくりの姿勢は、我々が求めている媒体の信頼性につながるものですし、書くための道具を作っている企業として非常に親和性の高い媒体です」

 クリエーティブの面で今年の大きな特徴となっているのは、人の体温が伝わるような手書きの文字と、写真の情感にあふれた使い方だ。商品を前面に出すのではなく、人生のさまざまな喜怒哀楽の中で「書きたくなる」という人の思いにまず注目し、写真の使い方にも読者の想像が広がるような工夫がされている。

 「読者の方々にとって、より身近で、ご自身の体験や記憶と重ねて何かを感じていただけるようなコミュニケーションにしたいと思いました。これまでの企業広告も、よい表現ができていたと思いますが、ともすると商品に対する自信が表に出過ぎていた部分があったかもしれません。今回、商品から一歩引いたところで、よりお客様目線の言葉で語りかけることができたのは、当社が創業以来の社是としている、消費者の利益、販売店の利益、製造元である当社の利益を互いに分かち合うという『三者鼎立(ていりつ)』の思想をもとに、ここ数年来推進している顧客主義の姿勢が浸透してきた表れでもあると思っています」

 例年、この企業広告シリーズは社員や得意先から期待が高いそうだが、今回は特に評判が高く、「店のポスターにしたい」という声も多数聞かれているという。

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2009年9月2日 朝刊 2009年9月2日 朝刊
2009年9月3日 朝刊 2009年9月3日 朝刊
2009年9月6日 朝刊 2009年9月6日 朝刊

創業100周年に向けて、顧客満足度世界一を目指す

 さまざまな情報ツールが登場し、文字を残す道具、書く道具が多様化している現状について、「どんなものでも、使って、書くという文化が広がるのはよいこと」と渡辺社長は語る。また一方で、万年筆という筆記具の持つ特別な価値を語ることも忘れない。

 「私自身の経験上、最終的に自分の個性や、自分の思いがより強く伝わる筆記具は、やはり万年筆だと思います。何かを伝えたい時に、自分の文字で、手書きで伝えたいと思うことは、若い人たちにもあるでしょう。時代に合わせて商品のバリエーションを増やしたり、あるいは万年筆へとつながるような筆記具を提供したりすることが必要だと思います。どういう場面で、どういった筆記具を欲しているか、ユーザーの気持ちを改めてくみ取り、それに合わせたコミュニケーションを考えなくてはいけないでしょう」

 今年、パイロットグループは創業91年を迎え、2018年の創業100周年に向けた航海の水先案内人の役割を渡辺社長は託されている。パイロットには、「ドクターグリップ」や「ハイテックC」、「フリクションボール」のような先進的な商品ブランドが多数あるが、高級万年筆から身近なボールペンまで、さまざまな筆記具を提供しているパイロットという企業のブランドをどう構築していくかは、大きな課題だ。

 「創業100周年に向けた目標は、顧客満足度において世界一の筆記具メーカーになるということです。筆記具業界は中国などから入ってくる低価格な商品によって価格競争が起こっていますが、価格というのは本来お客様が決めるものです。パイロットが目指すのは、品質、付加価値、あらゆる面でお客様に『これはいいね』『こんな筆記具が欲しかった』と思っていただける商品をつくることです。そのためには今後も生産を海外に移すことは考えていませんし、お客様のニーズをより注意深く聞いていきたいと思います」