新商品の魅力を伝えた15段シリーズ

情緒的なビジュアル表現で電波時計の新しい価値を訴求

 紙面いっぱいに文字板のアップ。プロダクトが持つ圧倒的な迫力が伝わってくる。セイコーウオッチが昨年末に展開したシリーズ広告だ。

 商品名は「ブライツ」。二つの異なった時刻を同時表示するアナログ式の「デュアルタイム」、世界3エリアの標準電波受信機能、ワールドタイム表示機能などを搭載した最新鋭のソーラー電波時計だ。

屋外ロケを敢行しシズル感を追求

 高橋修司氏 高橋修司氏

 「電波時計は日本のメーカーが得意とし、とりわけ競争が激しい市場。今や普及期に入り、目新しさのアピールから、いかに付加価値をつけるかという段階に移行しています」とは、広報宣伝部長の高橋修司氏。そうした中、技術の粋を集めたこのハイスペック商品が生まれた。

 シリーズは計3回。プロダクトの力強さは共通の印象だが、文字板の顔つきがそれぞれ違う。無機質なパーツから成る時計が実に表情豊かだ。文字や数字の情報がはっきり映し出されているので、搭載機能も想像できる。

 「素材や形状をわかりやすく見せるためのカタログ写真とは趣を異にし、情緒的でシズル感のある表現を目指しました」

 時計の撮影は、河口湖、木曽の山中、南アルプスの渓谷と、風光明媚(ふうこうめいび)な屋外で行われた。水辺の青、苔(こけ)の緑、大地の茶……。自然の色がメタリックな文字板に美しく映り込んでいる。

 「商品が紙面からはみ出すほどの異例のビジュアルでしたが、文字板の美しさ、”精緻(せいち)感”を一つのブランドイメージとして伝えることができたと思います。従来のセイコーウオッチは、技術力と品質の高さが評価されていましたが、広告を通じて新たにデザイン力もアピールできたのでは」

新聞広告が奏功 異例のヒット商品に

 「新登場。セイコーの電波時計は、新しい領域へ。」「古い羅針盤では、世界へ漕ぎだせない。新しい針を、持とうと思う。」

 こうしたコピーには、セカンドステージに入った電波時計市場において、さらに一歩先を行く技術力、デザイン力への自信を込めた。ソーラー時計の文字板は、光の透過を前提とするため樹脂が用いられる。同社は立体的な文字板に金属被膜を施し、メタリックな輝きを放つ文字板を実現させた。シリーズを通して使った「新しい針」という言葉にはそうした意味も含んでいる。

 読者への情報提供にも心を砕いた。紙面の下に機能的なベネフィットを連ね、最新鋭のソーラー電波時計の魅力をアピールした。

 「新聞はじっくり読んでもらえるメディア。特性を生かし、伝えたい情報は文字でしっかりとおさえました。URLを掲載し、自社ホームページへの入り口として機能させる狙いもありました」

 初回掲載は発売翌日の10月26日。直後から問い合わせや購入が相次ぎ、大手販売店では売り切れが続出。急きょ増産し、クリスマス商戦にあわせて12月にも2回出稿したが、同じく反響は大きく、店頭に並べたそばから売れる事態となった。

 「電波時計は普及期に入ったという危機感から始まっているので、これほどヒットするとは全く予想していませんでした」

 新聞広告15段カラーの影響力を改めて実感したという。

 「最近、高級ブランドの新聞広告が増えていますが、ブランディングメディアとしての新聞の役割を、当社も改めて重視しています。時計は、かつては生活必需品という認識でしたが、今は嗜好(しこう)品としての色合いが強く、ブランディングは不可欠です。新聞広告15段を3回に絞って展開するという決断が幸いし、異例のヒットにつながったのだと思います」

 腕時計の市場は、海外ブランドの占有率が高い高価格帯、国産時計や電波時計が多い中価格帯、ファッション・カジュアルウオッチが属する普及価格帯と、大きく三つに分かれる。同社は、各価格帯で商品展開しているが、中でも高級品を強化し、海外ブランドからのシェア奪回を最大のミッションとしている。

 「資材価格の高騰の影響もあり、高級品の価格はさらに上昇傾向にあります。当社としては、高級品に注力する一方、ちょっと頑張ってお金を貯(た)めれば手が届く、10~30万円ぐらいの良質な時計を提案し、高級品市場のすそ野を広げたいと考えています。今後もメディアの特性をうまく活用し、効果的なコミュニケーションを模索していきたいですね」

 2007年10月26日付 朝刊
 2007年12月6日付 朝刊
 2007年12月12日付 朝刊

それぞれの原稿は、渓谷や山などの自然を背景にしている。上は実際の撮影に使われた場所。