クリエーターインタビュー

制約があるから、それを乗り越える表現に達成感

電通 クリエーティブ・ディレクター / アートディレクター 高橋秀明さん

 今年の6月7日と21日に掲載された本田技研工業(Honda)の「アコード ハイブリッド」の新聞広告を手がけた電通のクリエーティブ・ディレクターの高橋秀明氏さんに、制作の過程や広告制作への思いを聞いた。

新技術も飾らず武骨に それがHondaらしさ

高橋秀明氏 高橋秀明氏

――「未来を変えろ。」「セダン愛。」というキャッチコピーで始まる2つの広告の役割について教えてください。

 6月に掲載された二つの広告では、新しいセダンのライン「EARTH DREAMS セダンシリーズ」の第1弾としてアコード ハイブリッドを紹介しています。私は約1年前から戦略チームに加わり、どういうターゲットに向けて、どんな切り口で表現していくかなど、コミュニケーションの設計図を考えていきました。

 ここ数年、ファミリーカーといえばミニバン型が主流です。そこで、セダンユーザーについて研究、調査していく中で、「実はセダンに乗りたい」と思っている人たちがいることもわかってきました。最終的には、子育てが一段落した40代後半から60代くらいまでの男性をターゲットとして捉えています。

 二つの広告の役割としては、まず、発売前のティーザー(予告)として、「未来を変えろ。」というキャッチコピーの広告を作りました。「開発は革命だ。」「Hondaの新しいセダンシリーズは、快適も上質も何ひとつあきらめない」といったリードコピーで、EARTH DREAMS セダンシリーズの方向性を示しています。コピーの下に配したクルマの写真は、期待値を上げるためにも、あえて全景が見えない正面からのものを採用しました。テレビCMでは、ハイブリッドシステムに関係の深いパーツなどを宇宙船のように見せるためにテグスでつり下げて撮影し、CGを使わずに不思議な浮遊感を演出。環境性能の高いクルマであることをアピールしています。

 発売日である6月21日に掲載した「セダン愛。」というキャッチコピーの広告では、潜在的なセダンファンに訴えかけるために、セダン特有のシルエットが美しく見えるオーセンティック(正統的)な写真を使用しました。テレビCMでは、地球と人間の調和をテーマに雲や雨、稲妻や星空などをクルマに映り込ませて、本格セダンの上質感を描いています。

――キャッチコピーが新聞1ページの横幅いっぱいに大きく配されていて、とても目を引くデザインでした。

 そもそも、上級セダンは一般的に走りを重視し、燃料も消費する大きくて重いクルマというイメージがあると思います。けれども「EARTH DREAMS セダンシリーズ」として発売されたこのセダンは、快適でありながら2モーター・ハイブリッド・システムによって、燃費が抜群にいい。そのことをできるだけ飾らず、ストレートに「ゴロっと出す」のが、Hondaらしいのではと考えました。オイルで汚れた手が世の中を変える、そんな愚直で武骨なのがHondaらしさのひとつでもあるからこそ、シンプルな表現にこだわりました。メッセージ性の強いコピーは、2012年の企業広告「負けるもんか。」、50周年の企業広告「答えを出す。」の流れを汲むものです。タレントを使わず、プロダクトとメッセージで勝負する表現は、競合他社との差別化にもつながっていると思います。

2013年6月7日付 朝刊 本田技研工業 2013年6月7日付 朝刊
2013年6月21日付 朝刊 本田技研工業 2013年6月21日付 朝刊

新聞だからこそ コピーで読ませるデザインに

――「セダン愛。」というコピーもインパクトがあって印象的でした

 セダンという言葉を前面に出すことについては、社内でも賛否両論がありました。けれども、ミニバンや軽自動車・コンパクトカーの時代に、「セダン」という言葉を使うことはかえって新しく、「EARTH DREAMS セダンシリーズ」の第1弾として意気込みを表すのには一番適していると判断しました。人間愛のようなイメージで、今までのセダンを超越したものであることを表しています。

――新聞広告に求めたことは。

 今回のクルマのターゲット層と新聞読者層は合致しています。「EARTH DREAMS セダンシリーズ」が始まることを周知させることが一番の目的で、読むメディアでもある新聞だからこそ、1ページの半分近くをコピーにするという大胆なデザインを考えました。発売後は問い合わせが殺到し、予想を上回る売り上げだったそうです。

──そうした結果は、広告の仕事のだいご味でもあると思います。 

 たくさんの制約があり、いろいろな人の意見があり、様々な壁を乗り越えて作った広告が評価されることは、達成感があり喜びでもあります。もし、何もお題がなく自分が好きなように表現していいと言われてしまったら、かえって困るかもしれません。世の中、ありとあらゆる表現で広告が作られているからこそ、「自分だったらこうしたい」「違うことはできないか」と発想できる部分もあるんです。素直にカッコイイと憧れる広告もあれば、悔しさを感じるものもあります。そういった反動のようなものがあるからこそ、飽きずに続けていられるのかもしれません。また、今日はファッション、明日はパンクバンド、明後日はチョコレートなど、携わる仕事のジャンルもバラバラなので、ルーチンワークにならないのも自分には合っているのだと思います。

──最後に新聞広告に対する意見を。

 当たり前のことではありますが、日付が限定でき、確実に手元に届くという波及力は、他のメディアにはない特性ですよね。雑誌やタブレットでは実現できないサイズ感も魅力があるし、新聞広告を作るときはいまだにテンションが上がります。やってみたいこととしては、全30段よりも大きなサイズになる変形型とか、たとえば穴をあけてみるとか、アートディレクター出身なのでデザインにこだわってアッと驚かせるような新聞広告を作ってみたいですね。

芯の太いシャープペンと電通オリジナルの方眼紙

芯の太いシャープペンと電通オリジナルの方眼紙 芯の太いシャープペンと電通オリジナルの方眼紙

「芯の太いデッサン用のシャープペンは、アイデアを考える時に使っています。芯の太さは2ミリで、それ以上太いタイプのものもあります。方眼紙は社内の備品です。5ミリ方眼だとロゴのデザインを考えるのも便利なので愛用しています」(高橋氏)

高橋秀明(たかはし・しゅうめい)

電通 クリエーティブ・ディレクター / アートディレクター

1989年金沢美術工芸大学商業デザイン学科卒。同年電通に入社。現在、第5CRプランニング局に所属。明治、日本航空、UCC、フジテレビジョン、富士急ハイランド、サントリー、大塚製薬などの広告を担当。最近の仕事に、マキシマム ザ ホルモン「予襲復讐」、ソネットNURO光「NURO DEVILMAN」など。NYADC賞、毎日広告デザイン賞、日経広告賞、スパイクスアジアなど受賞多数。

※新聞広告を手がけるクリエーターにインタビューする、朝日新聞夕刊連載の広告特集「新聞広告仕事人」に、高橋秀明さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「新聞広告仕事人」Vol.40(2013年12月3日付夕刊 東京本社版)

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