クリエーターインタビュー

着られるアートで、世界の人々の心をつなぐ

刺繍(ししゅう)アーティスト 二宮 佐和子氏

 1.5メートルもの刺繍を3枚組み合わせた巨大な雪山、独特なタッチで表現された世界の偉人など……。絵画、ファッション、インスタレーションなど、糸と針で多彩な作品を生み出している刺繍アーティストの二宮佐和子氏。インドの貧困地域で女性たちに刺繍を教えたり、ポートランドで日本の文化を紹介する展覧会を企画したりと、多彩な活動をしている。そんな二宮氏にこれまでの活動、刺繍アートの魅力について聞いた。

インドの貧困地域で女性に刺繍を教え、作品を商品化

──『広告朝日』21号では、表紙のためにSDGsをテーマに作品をつくっていただきました。

※作品画像は拡大表示できます 『広告朝日』21号表紙の作品 撮影:金子裕也

 お話をいただき、SDGsの17の目標について改めてじっくり考えてみました。それらはどれも大切なものですが、それぞれ関連しあっています。大きく分けると人間について、地球についての二つの問題に分かれるのではと思います。人間の活動はすべて地球上で行われていて、人類の発展や成長、豊かさは地球に支えられている。そんなことを考えながら、人間と地球、成長と平和が一体化したビジュアルを目指しました。結果的に、豊かな自然と生き物から成り立つ地球を背景に、人が生まれてから成人になり、年老いて死んでいくまでを、人類の進化のようにビジュアル化した作品が生まれました。


──二宮さん自身、SDGsが掲げている持続可能な農業や貧困撲滅につながる取り組みを行っています。

 3年前から毎年11月にインドのオリッサ州カラハンディにある村に出かけ、現地の女の子に刺繍を教えています。綿花の有機栽培への転換を支援しているフェリシモのプロジェクトの一環で、刺繍を教えることで現地の人がより付加価値の高いものを生産できることを目指しています。すでに彼女たちが刺繍をした洋服などがフェリシモのサイトで販売されており、利益の一部が現地に還元されています。

 私が通っている村は、インドでもとくに貧しい地域で、何年か前には人身売買が行われていたといいます。裸足でボロボロな服を着ていて、学校に通えない子もたくさんいます。でもみんな目がキラキラしていて、とても元気で明るい。彼女たちと接すると、いつも「本当の豊かさとは何なんだろう」と考えさせられます。初めての刺繍にもみんな一生懸命取り組んでくれて、上達もとても早い。日本人にはない色彩感覚とセンスに、いつも驚かされています。

──この夏はアメリカ オレゴン州のポートランドで展覧会も開催しました。

 一昨年、ポートランドで雑貨店を営む女性がギャラリーを訪れ、私の作品に興味をもってくれました。お互い意気投合し、彼女のお店で展覧会を開くことになったんです。ポートランドには日本のアートに関心がある人が多いとのことで、私の作品だけでなく、私がキュレーションした作家の作品も展示することにしました。刺繍がきっかけで、このような縁が生まれてとてもうれしいです。私はお客さんと実際に会い、触れあうことが好きなので、このような活動はこれからも続けていきたいと思っています。


人がやっていないこと、見たことがないものをつくりたい

──そもそも刺繍アーティストになったきっかけは。

 もともと専門学校でグラフィックデザインを勉強し、卒業後は友達とユニットを組んでデザインの仕事をしていました。でもやがて自分はデザインより、素材そのものをつくることに興味があることに気づきました。実際に自分の手を使って何かをつくりたいとの思いもありました。そこである日、何となく着ていた服に刺繍をしてみたところ、それがすごく楽しかったんです。まわりからの反応もよく、友人から依頼を受けて作品をつくったり、展覧会に出展したりするようになりました。

──刺繍は誰かから教わったのですか。

 まったくの自己流です。誰からも習ってないし、技法については詳しくありません。単純に針を行ったり来たりさせるだけのシンプルな手法で作品をつくっています。私の場合、刺繍というより、色鉛筆で絵を描く感覚に近いかもしれません。絵を描くための素材が、色鉛筆から糸に変わったという感じです。糸は刺繍用の糸以外に毛糸もよく使います。毛糸はフワフワしたものやラメが入ったものなど種類が豊富にあり、空気を含めて縫って立体感を出すなど、表現の幅がぐっと広がります。

──「雪山」を表現したものなど、立体的な作品も多いですね。

雪山「embroidery mountain“K2”」
雪山「embroidery mountain“K2”」

 人がやっていないことをやりたいと思って立体的な作品をつくり始めたところ、面白くてどんどんはまっていきました。さらに誰も見たことがないものをつくろうと、1.5メートルの刺繍3枚を組み合わせた雪山をつくりました。フラフープのような枠と特注の箸のような針を使い、太い毛糸で3週間ほどかけて縫いました。この作品を一針一針縫っていく時間は、山を一歩一歩登っている感覚に近い気がしました。私の作品は下絵を描いたら、後はひたすら針で縫う作業で、実は根性の部分が大きいんです(笑)。大きな作品をつくっているときは気が遠くなることもあります。でもその分、できあがったときの達成感も大きいです。

──「世界の偉人シリーズ」も人気です。

「世界の偉人シリーズ」

 偉業を成し遂げた人は個性が顔ににじみ出ていて、絵にしやすいし、縫っていて楽しいです。「あなたにとっての偉人を縫います」と呼びかけ、持ってきてもらった写真をもとに、手持ちのアイテムに刺繍をするイベントも開催しました。みなさんにとって思い入れの深い人物を刺繍するわけですから、なかなか大変でした。このシリーズをはじめ、私の刺繍は服に縫うことが多いのですが、実際に着てもらうことで作品の表情が変わります。身につけることで、作品が生きたものになるのです。だから私の作品は、絵画のように室内で鑑賞するのではなく、ぜひ着て外に出かけてほしいんです。外出してもらうことで、作品も色々なところに行けます。そこで誰かに見てもらえ、私の知らないところへと広がっていきます。今回のSDGsの刺繍のようなテーマ性をもったものを服として身につけてもらえば、様々な場所で様々な人の目にとまります。それが、普段はあまり話すことがないけど、大切なことを話すきっかけになれば嬉しいです。

──刺繍はコミュニケーションのツールでもあるわけですね。

二宮佐和子氏

 針を刺して糸を引っ張るだけなので、刺繍は誰でも簡単にできます。私のワークショップには男性の参加者も多く、小学生から年配者まで、性別や世代に関わらず、おしゃべりをしながら楽しんでいます。言葉の通じない海外でも、身ぶり手ぶりで教え、一緒に楽しむことができます。1本の糸を通じて年齢、性別関係なく、さまざまな人がコミュニケーションでき、つながることができるのです。世界中の人でつくる部分を分担し、みんなで巨大な山脈をつくったり、世界中の人に同じテーマで刺繍してもらってその違い、多様性を感じたりする。そんなプロジェクトも機会があればぜひやってみたいです。

二宮佐和子(にのみや・さわこ)

刺繍アーティスト

1980年大分県出身。絵画、ファッション、インスタレーション、平面、立体、空間と、あらゆるものを糸と針で縫い刺しする刺繍アーティスト。企業とのコラボによる商品やプロジェクト、国内外でのワークショップや展覧会の開催など、多彩な活動を展開。代表作に特注の針で制作した雪山「embroidery mountain“K2”」「世界の偉人シリーズ」などがある。
http://sawakopurega.tumblr.com/

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