クリエーターインタビュー

SNSでの情報発信にも応用できる広告制作の作法 そのベースは新聞広告にある

アサツー ディ・ケイ クリエイティブディレクター/アートディレクター  阿字地 睦氏

 広告制作の作法を効果的に学べるフィールドは、新聞広告だと思う——そう語るのは、アサツー ディ・ケイ(以下、ADK)のクリエイティブディレクター、阿字地 睦氏。キャッチコピーの言い回しや見せ方など、生活者の心に刺さる「フック」の作り方は、SNSでの情報発信や広告制作にも応用できるという考えだ。自身もマスメディア広告で培った経験を基に、デジタル領域での新たなコミュニケーション方法を追求している。

広告制作は肩ひじ張らず、自由でワクワクできる仕事だと気づいた

阿字地 睦氏

──子どもの頃になりたかった職業は。

 子どもの頃から絵を描くことは大好きで、得意でした。図工の写生大会では誰にも負けたくなくて、小学生なのに徹夜して絵を仕上げたこともあります。

 大学ではグラフィックデザインを学びましたが、本当になりたかったのは日本画家でした。日本画家の東山魁夷さんや平山郁夫さんなどの絵が好きだったんです。日本画に目覚めたのは、美術の教科書で作品を見たことがきっかけだったと思います。中学生や高校生の頃は、図書室で美術書や作家の伝記を読んでいて、アーティストや美術家の生き様に共感しました。その一方で、ポカリスエットやカロリーメイトなどのパッケージデザインも気になっていて、デザインにも興味がありました。

 親には「美大で日本画を勉強したい」と伝えたのですが、「生計を立てるのは容易ではない」と反対されてしまった。同じ美大でも、経済活動の一環であるデザインを学ぶことは許してもらえたので、金沢美術工芸大学の商業デザイン学科を受験しました。

──広告業界に進んだきっかけは。

 広告業界を目指そうと決めたのは、大学でアートディレクターの工藤俊之さんの広告論を受講したことがきっかけです。工藤さんは当時、ライトパブリシティで働いていて(現在は金沢美術工芸大学の教授)、細谷 巖さんや秋山 晶さんが手掛けた仕事を見せながら、広告の仕掛けや表現方法などを解説してくれました。そのとき、工藤さんは「後ろのほうの席にいて作品がよく見えないなら、机に上がってでも見てほしい」と言ったのです。それで、みんなで机に上がって、身を乗り出すようにして授業を受けました。そのとき、広告の仕事は肩ひじ張らず、自由でワクワクするものだと気づき、スイッチが入った。広告業界で働きたいと本気で考えるようになり、卒業制作も広告を作り、細谷 巖さんの「イメージの翼」という本をバイブルのように常に持ち歩いていました。

──卒業後は、パナソニックグループ(当時は松下電器産業の子会社でナショナル宣伝研究所)のクリエイターズグループMACに入社します。

 主に、松下電器産業(現在はパナソニック)の企業広告をはじめ、松下幸之助さんの意思を継いだ「ものづくり」のこだわりや考え方を伝えるための新聞広告や雑誌広告をほぼ毎日、ひたすら制作していました。MACでは6年ほど働いたのですが、その途中で1年半、当時の松下電器産業の宣伝事業部に出向したことがあります。そこでの仕事は、クライアント側として広告会社と接し、ハンドリングしながら完成させた、広告がテレビ事業部やオーディオ事業部のオーダーに合っているかチェックする立場でした。その仕事を通じて、電通や博報堂など広告会社とのやりとりや、ビデオカメラやテレビの大型キャンペーンによって経済が大きく動くことを間近で体感し、自分もアートディレクターとしてキャンペーンなどを手掛けてみたいと思うようになりました。

 その後、シカゴに本社がある外資系の広告会社、レオ・バーネット協同(現在はビーコンコミュニケーションズ)を経て、ADKの前身である第一企画に入社。レオ・バーネットでは、マルボロやラークなどタバコの広告や、ノベルティーなどもデザインしていました。広告で使用する写真素材は、アメリカのクリエイターによる最高のディレクションで撮影されたもの。大量にある素材を使って日本版の広告にアレンジするんです。メディアに応じて何パターンも広告を制作していたので、写真のトリミングやレイアウトの勉強になりました。

──転機となった仕事は。

大塚チルド食品「スゴイダイズ」

 2002年10月から販売している、大塚チルド食品の「スゴイダイズ」の仕事です。ネーミングや味、コンセプトワーク、パッケージデザインなど、商品開発の段階からトータルで携わった商品で、とても思い入れがあります。それまでは広告制作が中心だったので、デザイナーとしての視野を広げるきっかけにもなりました。

 広告は、最大瞬間風速を出すことが役目の一つ。しかし、パッケージはそれ自体がある意味、強いメディアで、長い時間耐えられるデザインが必要です。例えば、新聞広告なら掲載する1日だけのために、時間をかけて丁寧に制作します。もちろん、掲載した広告のイメージが波及していき、商品の印象を高めていったりするので、厳密にいえば1日で終わりではないのですが、掲載自体は1日限り。印刷の立ち会いもして、美しく刷り上がった新聞は、その日の夕方にはたこ焼の包み紙になっていたりする。そうした再利用も新聞の役目だし、あるべき姿であると納得していました。

 その一方で、パッケージデザインは企業と一緒に思いを込めてつくる「プロダクト」です。ヒットすれば、何年も継続して販売される可能性がある。大塚製薬の「SOYJOY」のパッケージデザインも担当していますが、12年目に入ります。

大塚製薬「SOYJOY」

 パッケージデザインの仕事の面白さは、社会への浸透を実感できること。生活者の方々がスーパーやコンビニで競合商品と迷っていたり、最終的には自分がデザインに関わった商品をカゴに入れてレジでお金を払ってくれたりするシーンを実際に見かけると、すなおにうれしい。パッケージがゴミになって落ちていても、売れた証しを見つけた気分になります。そういう意味でパッケージは、売り場から購入され、家庭の冷蔵庫や食卓で消費され、ゴミとして出されるまで、長い時間目に触れ、生活者と関わることのできる強いメディアだと考えてデザインを開発しています。

──パッケージをデザインする上で戸惑うことはありませんでしたか。

 広告制作とパッケージデザインは、それぞれ使う頭の部分が違うことが分かりました。パッケージデザインの仕事は、店頭に競合商品がいくつも並ぶ、シビアな環境が舞台です。店の動線や照明の明るさなどを踏まえ、ロゴの書体やウエイト、情報の配置の仕方、色の設計など考える必要があります。パッケージデザインがブランドのトーン&マナーとなり、その延長線上に広告表現がある。要するに、広告のトーン&マナーは、パッケージが凝縮されたものでもあるべきなのです。パッケージデザインがベースとなり、そこからメディアやターゲットの特性に合わせてその世界観が拡(ひろ)がり、広告のコミュニケーションをいい意味で支配する。それが理想だと思います。

大塚製薬「SOYJOY」「ソイカラ」節分の日 新聞広告0.9MB節分の日の豆まきに履いて使ってもらえる広告。鬼のパンツ自体がメタボ診断になっているもの。履いてパンツが破れたら、それはメタボのしるし。ダイズ製品で体の中の鬼退治をと、生活習慣病の改善を啓発する広告。

紙面から立ち上がってくる力強い表現は、新聞広告だからできること

──2017年1月に朝日新聞朝刊で展開した、大塚製薬「オロナミンC」の広告キャンペーン「20年分のありがとう新聞」をはじめ、新聞に1万円札が挟まっているかのように見せた「振り込め詐欺抑止プロジェクト実行委員会」の広告など、新聞広告の可能性を広げるユニークなクリエイティブは大きな話題となりました。アイデアを生み出す上で工夫していることは。

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大塚製薬「オロナミンC」の広告キャンペーン「20年分のありがとう新聞」

大塚製薬公式YouTube動画はこちら


 新聞広告は新聞を広げながら、パッケージデザインはコンビニやスーパーに行って商品を見ながら考えることが多いです。ファミレスや電車の中など、人が集まっていてガヤガヤした場所にあえて行くこともあります。そこでノートに書いたアイデアとファミレスや電車の中にいる人たちの行動を見比べながら、これだったら世の中に染みこむかもしれない、などとイメージを膨らせたりしています。とはいえ、そんな簡単に面白いアイデアは生まれません。基本的には、脳に汗かきながら考えています。どのクリエイターも言っていますが、制約があるからできるのです。どんな仕事でも、制約の中での一番を目指しています。

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「振り込め詐欺抑止プロジェクト実行委員会」新聞広告

──デジタルメディアが台頭している今、新聞広告の位置付けは。

 新聞は毎日、同じ時間、同じ場所に届けられます。それは、日本の日常であり、平和の象徴です。記者の方々が走って集めた記事が掲載され、朝日新聞サービスアンカー(販売所の配達員)が走って届ける。そんな作り手や届ける人たちの体温が感じられるメディアだと思っています。

 今年、副田高行さんがこれまで制作してきた新聞広告の作品展が開催されました。会場で作品群を見たとき、副田さんがデザインした新聞広告からは体温を超えた生命力のような、各時代の息づかいが感じられて圧倒されました。新聞は手にできるメディアの中で、サイズが最も大きいことが特徴です。その大きな紙面から立ち上がってくる生命力のような力強い表現は、新聞だからこそできることだと思います。

 近年は、新聞広告を制作する機会が残念ながら減ってきています。そのため、新聞広告を手がけたことがないデザイナーも少なくない。作り手の熱を込めたいのに、新聞広告の作法を知らず阿吽(あうん)の呼吸で作業ができないというジレンマがあるのも事実です。

 今、私が所属しているエクスペリエンス・デザインセンターという部署では、世の中にあるデータから生活者のインサイトを拾ったり、行動を読み取ったりしながら、企業のデータドリブンマーケティング等を支援しています。

 たとえば、第一三共ヘルスケアの「パテックス機能性サポーター 腰用」は、主に高齢者や、トラックのドライバーのような腰に負担がかかる仕事をしている男性に向けて販売していました。しかし、さまざまなデータを調べると、特に産後の女性が腰痛に悩まされていることが分かりました。女性は妊娠期間中から腹筋や背筋を酷使し、それが癒えないまま出産。日々、大きくなる赤ちゃんを抱っこし続けています。

 それにも関わらず、腰痛がつらいことをパートナーや周囲の人たちに積極的に伝えていません。その辛さを訴えると、育児を頑張っていないと思われてしまうのでは、と考えてしまうからです。そうした課題を解決するために、パテックス機能性サポーター 腰用のパッケージを女性向けにリニューアルし、「パテサポ」という愛称も考案。腰痛に悩む子育て中の女性達のインサイトを刺激し応援する、オリジナルムービーやウェブサイトの構築まで、チームで一丸となって立案・制作しました。

パテサポWebムービー「キミの重さは愛の重さ」 【第一三共ヘルスケア 公式】

 そうした仕事と並行して、これまで通り、マスメディア広告やブランディングの仕事も手がけているので、3つくらいのエリアを行き来している状況です。長年、マスメディア広告を手がけてきた経験を生かし、デジタルでの表現もなるべく息づかいや体温などを感じさせるものを目指したいと考えています。

──最後に、若手クリエイターへのメッセージをお願いします。

 広告制作の基本的な作法を学ぶフィールドは、新聞広告だと思います。キャッチコピーとビジュアルで構成する新聞広告のフォーマットは、シンプルだけど奥が深い。キャッチコピーの言い回しやデザインをどうするか、ボディーコピーでどう説得させるか。そんな生活者の心に刺さる「フック」の作り方は、ツイッターをはじめとするSNSでの情報発信や広告制作でも応用できると考えています。実作業で新聞広告を制作する機会がない人は、誰でも応募できる朝日広告賞などに応募してみてほしい。実際、新聞広告を制作してみると、それが広告の作法を効果的に学べるフィールドであることをクリエイターであれば実感できるはずです。

阿字地 睦(あじち・むつみ)

アサツー ディ・ケイ エクスペリエンス・デザインセンター EXクリエイティブ室 クリエイティブディレクター/アートディレクター

石川県生まれ。金沢美術工芸大学商業デザイン科卒業後、クリエイターズグループMACにて松下電器産業の企業広告を担当。その後レオ・バーネット協同でMarlboro・Larkキャンペーンを手がけ、現在、アサツー ディ・ケイに所属。クライアントとともにプロダクト・パッケージ開発からブランディングに関わり、その世界観を起点にした幅広いコミュニケーション活動を行ってきた。近年は、データに基づき、生活者の様々なタッチポイントでの体験を作るエクスペリエンス・クリエイティブ室に所属。受賞歴:朝日広告賞最高賞・毎日広告デザイン賞最高賞・ACCゴールド他、Cannes Lions・One Show Design・Spikes Asia・pentawards等、海外広告賞も受賞多数。Cannes Lions審査員(2011)・東北芸術工科大学特別講師。

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