クリエーターインタビュー

下積み時代に習得した引き込むタイプのクリエイティブ。今も広告づくりの指針に

博報堂 クリエイティブディレクター/CMプラナー 川島章弘氏

 先人たちがつくった広告手法を基に、持ち前の発想力で視聴者や読者を自然と引き込み印象に残るテレビCMや新聞広告を生みだしている博報堂の川島章弘氏。広告賞も数多く受賞し、クライアントからの信頼も厚い。そんな川島氏の原点は、面白いアイデアを考えることが好きだったという中学生の頃までさかのぼる。

近畿大学「固定概念を、ぶっ壊す。」965KB

広告制作の原体験は 中学生の頃から始めた雑誌の投稿

──クリエイティブな仕事を目指したきっかけは。

川島章弘氏

 中学生の頃から、性格がゆがんでいたからか(笑)、面白いアイデアを考えることが好きでした。今だったら思いついた面白いことをウェブやSNSをつかって個人で発信できるかもしれませんが、当時はそんなツールはありません。当時の僕は、「マイコンBASICマガジン」などいろんな雑誌に投稿をして楽しんでいました。たとえば、週刊少年ジャンプのような漫画雑誌の読者ハガキのコーナーに投稿したり、シンキングラビットというゲーム会社のシナリオコンテストに応募して優秀賞を受賞したりしたこともあります。

 現在も続いている週刊朝日の著名人の似顔絵を投稿する「山藤章二の似顔絵塾」には20回くらい掲載されたことがあり、年間優秀賞を2回いただきました。この似顔絵塾は、そっくりに描けば評価されるものではなく、アイデア勝負。そのため、僕が描いていた似顔絵のタッチはバラバラで、アイデアによって表現の仕方を変えていました。

 似顔絵塾に応募する似顔絵を描くことを分析すると、著名人の顔のポイントなど要素を抽出して、表現に置きかえる作業であることが分かります。それは、コンセプトが重要で、広告制作と通じる部分があるんです。このときの経験をむりやり広告に結びつけるとすれば、今の仕事の原点は、もしかしたら似顔絵にあるのかもしれません。

 マイコンBASICマガジンというパソコン雑誌では、読者はがきのコーナーにマンガ「ジョジョの奇妙な冒険」の絵のネタを送って掲載されたことがあります。パソコン雑誌とは一切関係ない投稿をしたのですが、それには理由がありました。記事を読んでいたら語尾などの一部が、「ジョジョと奇妙な冒険」の中で使われている言葉、通称「ジョジョ語」になっていることに気付き、編集部で「ジョジョと奇妙な冒険」が流行(はや)っているのではないかと思ったからです。実際、僕の投稿は採用され、その翌月号には同じようにパソコンとは関係のないマンガやアニメのネタを投稿する人が出てきました。さらに、2カ月後には専用のコーナーができたんです。

 当時、僕はまだ10代でしたが、大げさにいうと世の中を動かしたような手応えがあったことを覚えています。この経験も、広告制作に近い。世の中の動きや流行の兆しを自分で発見し、それを面白く表現して世の中に送り出す。そんな原体験があったことも、クリエーティブな仕事を目指すきっかけになったのかもしれません。

──大学卒業後、博報堂に入社してCMプラナーとして活躍されます。

 入社後は、クリエイティブディレクターの黒須美彦さんのチームに配属され、CMを制作していました。黒須さんからは、広告制作における志や手法をたたき込まれ、それらは今も仕事をする上での指針になっています。黒須さんに認められたいという気持ちがあり、教えをずっと守ってきました。

 教わったことは数え切れないほどありますが、特に影響を受けたことは「人を引き込むタイプのクリエイティブの強さ」です。例えば、黒須さんがつくるサウンドロゴやCM内の音楽は、平板なものが多い。だけど、不思議と記憶に残る。そんな強さがあるんです。

──川島さんが手がけた、KINCHOの虫よけスプレー「プレシャワー」のテレビCMも派手さはありませんが、とても印象に残ります。

KINCHO プレシャワー TVCM

 プレシャワーのアンドロイドが出てくるシリーズは、引き込むタイプに仕上がったテレビCMの1つです。アンドロイドだからといって大げさに話すのではなく、淡々とメッセージを読ませました。特にアンドロイドと人間の女性が出てくる2人バージョンのCMは、現場のリアリティーを重視して、女性には「2人で話す」とだけ伝え、相手がアンドロイドであることを現場で知るというシチュエーションにしたんです。ドキュメント感を出しつつ、アンドロイドは淡々とメッセージを繰り返す。その温度差がユニークさにつながると考えました。このCMは、黒須さんにほめてもらえたので、特に印象に残っています。

つかみと着地点が離れているほど カタルシスが感じられる

──近畿大学「ぶっ壊す」や小学館「九十歳。何がめでたい」など、新聞広告も手がけられ、広告賞なども受賞されています。新聞広告を制作する上でのポイントなどあれば、教えてください。

 新聞広告に限らず、広告は、2段構成でできていると思っています。コピーでいうと「キャッチコピー」と「ボディーコピー」、構成でいうと「つかみ」と「着地点」で、最初に何かつかむポイントがあり、それがどういう意味か、広告する内容に合わせて着地させるという手法です。「つかみ」と「着地点」が離れているほど、カタルシスが感じられ、その2段構成を特にわかりやすく表現できるのが、新聞広告だと思います。

近畿大学「近大をぶっ壊す。」1.3MB

小学館「何がめでたい」371KB

 近畿大学の新聞広告も、「近大をぶっ壊す。」というインパクトのあるコピーとビジュアルで「これは何?」とつかみ、ボディーコピーを読むと「そういうことか」と理解できる構造ですし、小学館の正月広告も同様です。1月1日のおめでたい日だからこそ、「何がめでたい」というコピーと余白の多いデザインは目立ちます。デザインはいろいろ試しましたが、情報を詰め込みすぎず、抜けがあるほうが目を引くと考えました。そしてボディーコピーを読むと、佐藤愛子さんの著書「九十歳。何がめでたい」という書籍のタイトルであることが分かり、読んでもみたくなる。いずれの広告も、最大限に違和感を持たせていますが、伝えるべきことをできるだけシンプルに、かつ魅力的に感じられるように表現しました。

──小学館の「九十歳。何がめでたい」のマーケティング活動は、ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSの「マーケティング・エフェクティブネス部門」でゴールドを受賞されました。

 マーケティング・エフェクティブネス部門は、クリエーティブ主体ではなく企業のマーケティング活動に与えられる賞で、近年、注目を集めています。僕は新聞広告とテレビCMを手がけたこともあり、プレゼンテーションを担当しました。評価されたポイントは、書店1店単位でPOSデータを手作業で集計したり、1万通以上の愛読者はがきすべてに目を通したりした、その地道なマーケティングです。「九十歳。何がめでたい」の書籍用の新聞広告も、掲載する時期やエリアによって表現の仕方を変え、僕はコピーの制作にも協力しました。実際、新聞広告を掲載すると、その地域の書店の売り上げが伸びたそうです。

 プレゼンテーションでは、ビッグデータを基にしたマーケティングも重要ですが、その一方でコツコツ積み重ねていく作業によって得られる情報も大事なことをアピールしました。それは、地道にコツコツ人生を積み重ねて長生きしましょう、という書籍のメッセージと重なる部分がありました。

──最後に若手クリエイターにメッセージを。

 働き方改革やAI技術の進化によって、今後ますます個人の能力や個性より、組織やチーム力による効率が求められていくと思います。実際、最近の広告は、作り手の顔が見えにくかったり、誰が考えたか分からないものも増えているような気がします。だけど、とことん追究した広告からは、個性なんか出そうとしなくても、にじみ出る、はみ出るものが個性です。AIにできないことは、個性や個のゆがみだと思うので個性が強い人ほど、個性を消したときうまくいくこともあるかもしれない。

 かつては、できるかぎり時間をつかってアイデアを考えよう、というスタンスでした。だけど、これからは時間を区切ってテクニカルに組織的にやっていく中で、自分らしさをだしていく時代になっていくのだと思います。もちろん、いい広告をつくろうと努力することは、クリエイターとして必要です。僕はラジオCMを手がけたとき、2カ月くらいかけて過去の受賞作品などから「ラジオCMの型」を探し出し、それを必死で覚えました。その後、つくったラジオCMはとても評判が良く、広告賞も受賞できたんです。こういった成功体験を得るためにも、個人の能力を高める努力は必要だと思います。

川島章弘(かわしま・あきひろ)

博報堂 クリエイティブディレクター/CMプラナー

東京大学卒、1994年博報堂入社、関西支社で15年勤務。主な仕事は、小学館「九十歳。何がめでたい」、近畿大学「ぶっ壊すシリーズ」、J:COM「ざっくシリーズ」、KINCHOなど。第45回やってみなはれ佐治敬三賞、朝日広告賞ほか各社新聞賞、ACCマーケティング・エフェクティブネスゴールド他 ACCフィルム・RCM・地域賞、TCC新人賞、ギャラクシー賞など受賞。現在、第三クリエイティブ局動画クリエイティブ部。

この記事にいいね!

下積み時代に習得した引き込むタイプのクリエイティブ。今も広告づくりの指針に

クリエーターインタビュー新着記事

PAGE TOP