クリエーターインタビュー

描き損じも表現の一つ、幻想的で生々しい唯一無二なアニメーション

アニメーション作家 加藤 隆氏

 加藤 隆氏は、ドローイングの技法を生かしたアニメーションを制作している映像作家だ。2016年からはテレビ朝日のニュース番組「報道ステーション」のオープニング映像を担当している。描き損じた部分も表現として受け入れる、幻想的で生々しいアーティスティックな作品は唯一無二。レミオロメンやMr.Children、槇原敬之氏、米津玄師氏など、ミュージシャンとの仕事も数多く、ミュージックビデオやライブ映像なども手掛けている。

絵の具の染みが鳥に見えた瞬間、余白は空に

──テレビ朝日のニュース番組「報道ステーション」のオープニング映像を2016年から手掛けています。きっかけは。

 テレビ朝日の方から、報道ステーションのオープニング映像制作のコンペに参加しないか、と声をかけていただきました。映像作家を100人紹介する2015年版の書籍に僕も掲載され、それをきっかけに作品を見てくれたようで「パワフルさが気になった」と言われました。メインキャスターが交代するタイミングだったのですが、その方はこれまでニュースの現場を飛びまわり、現地からの生の情報を伝えてきたそうです。そのため、オープニング映像も「現場感やライブ感を大事にしたい」というリクエストがありました。

──手描きによる独特な質感があり、とても印象的です。

 アニメーションは、何枚もの紙に絵を描いて仕立てることが一般的です。しかし、報道ステーションのアニメーションは、一枚の紙に絵を描いては消してを何回も繰り返しながらコマ撮りするという、アナログな手法で制作しています。たとえば、2016年版のオープニング映像は、羽ばたく鳥を1羽描いて1コマ撮影したら、その次の動きを想像して同じ鳥を描き、1コマ目の鳥は白い絵の具で塗り消す。その消し跡も、そのまま表現に生かしています。

──とても特殊な手法だと思います。

 この手法は、2011年に制作したPeople In The Boxというロックバンドの「ニムロッド」という曲のミュージックビデオのアニメーションを制作したときに見いだしました。アナログで描いた絵をコンピューターで編集して作り込んでいくと、いくらでも完成度を高めることができます。それがなんか、噓(うそ)くさいと思ってしまったのです。そんな思いが芽生えたのは、「ニムロッド」のアニメーションを制作する少し前に、東日本大震災を経験したことも影響しているような気がします。物事は変わっていくという当たり前のことを痛感し、自分の作品については描き損じた部分も表現として受け入れ、一発勝負で描いてみたくなったんです。

 それで、試しに1枚の紙に絵を描いては消してを繰り返しながら、同時にコマ撮りしてみました。その手法自体は、特に深い意味があったわけではなく、とにかくやってみたかった。ただ、実際作品として仕上げるのは大変です。絵が乾くと次の絵の具がのらなくなるので、1つのシーンを描き始めたら完成させるまで休みなく描き続けなければなりません。

──キャンバスに見立てた本の中から空が広がり、鳥が飛び立ち、馬が駆け抜け、人々が街を歩き、最後は巨大なクジラが空を泳ぐ――。リアリティーがありつつ幻想的なストーリーは、どうやって考えたのですか。

 絵の具の「染み」のような絵が鳥に見えた瞬間、余白は空だと思えるようになる。そんな始まりにしたいと考えました。映像の長さは約18秒で、大枠の構成や色づかいなどは、テレビ朝日の方々と相談しながら決めていきました。スカーレットとターコイズブルーの2色にしたのは、テレビ朝日のデザイナーの方からの提案です。この2色は、People In The Boxの「ダンスダンスダンス」という曲のミュージックビデオのアニメーションでも使用しています。

 当初は、青1色で考えていたのですが、それだとクールな印象になり過ぎるから、赤っぽい色と合わせようと検討していました。そのとき「ダンスダンスダンス」の2色の対比がいいね、という話になったんです。

動きのあるイメージをそのまま形にする面白さ

──アニメーション制作をはじめたきっかけは。

 大学ではデザインを勉強していて、アニメーションの授業もありました。その授業で先生がロシアやカナダのアニメーションを見せてくれたのです。その作品はどれも、セルアニメではないアニメーションで、個人作家が制作したものでした。手描きの絵や切り絵をコマ撮りしたアナログな表現で、それを見たとき絵を描くことの延長として自分でもできる感じがしたんです。それで1枚1枚、紙に絵を描いてアニメーションを制作するようになりました。「around」という作品は、学生の頃に制作したものです。

──ドローイングの技法を生かしたアニメーションを制作し続けています。アニメーションのどんなところに引かれたのでしょうか。

 もともと絵を描くことが好きなのですが、絵画による新しい表現を追求することは難しいと思っています。既にあらゆる画家が表現を追求し、やり尽くしていると思うからです。そうした状況の中で僕は何ができるか。今の時代だからこそできる表現を考えたとき、映像ではないかと考えました。とはいえ、いまは映像表現も飽和し始めているので、何が新しい表現なのか見極めは難しくなっています。

 学生の頃からアニメーション制作を続けているのは、単純に面白いからです。頭の中にあるイメージを、そのまま形にできることが特に面白い。人間は時間の中で生きていて、何かを想像するものも動いていることが自然です。

 最近は、人間を描きたいという気持ちが強い。抽象的な言い方になってしまいますが、作品の中心に人間がいて、動いていてほしいのです。1本の描線で人間という存在を描き、その線のタッチで人の感触のようなものを表現する。そんな実感のあるものを作っていきたいと考えています。

──映像作家として仕事をするようになったきっかけは。

 学生の頃、映像制作会社で働いている大学の先輩や友だちに「仕事を手伝って」と言われ、バイトをするようになりました。映像作家や映像ディレクターなど知り合いも増え、メディア芸術祭やコンペに出品した卒業制作のアニメーション作品を見てもらう機会もあり、少しずつ個人的に仕事を頼まれるようになったんです。最初に手がけた音楽関連の仕事は、レミオロメンのライブで流す映像の制作でした。それも友人の紹介だったと思います。

──印象深い仕事は。

 20代の頃、芸術は自分自身を描いたり、内面の苦しみをはき出したりすることだと思っていました。だけど、そこにこだわりすぎず、たとえば他者や世の中について考えたりしながら、もっと自然に表現してもいいのではないかと気付いた時期があります。それがPeople In The Boxの「ダンスダンスダンス」を制作していた頃だったんです。だから、個人的な思い入れではありますが、「ダンスダンスダンス」は転機になった作品の1つだと思っています。

──ミュージシャンの米津玄師さんのミュージックビデオも制作しています。

 出会いは、僕が米津さんのツイッターをフォローしたら、フォローし返してくれたのがきっかけです。そのつながりから僕の作品を見てくれて、米津さんがライブに招待してくれました。そのときが初対面で「いつか何か一緒にできたらいいですね」と話していたのですが、その後、本当に仕事を依頼されたんです。

 新曲のミュージックビデオの制作で、打ち合わせをしたら「隆さんの思うように表現していいよ」と任せてくれました。その帰り道、歌詞やメロディーから絵コンテがすぐに頭に浮かんだので、話し合いをする上でのたたき台になればいいかな、と思ってすぐに作って見せました。そのときは、特に修正などもなく、原案どおりに制作しました。

 僕の世界観は、ちょっとクセがあるので、それが嫌いだったら依頼されないと思います。もちろん、イメージが違うと言われることが全くないわけではない。そういうときは、ちゃんと話し合いや議論を重ねて、完成させています。

──最後に、映像作家を目指すクリエーターにメッセージをお願いします。

加藤 隆氏

 これから映像作家を目指す人は、名刺代わりになる自分らしい作品が必要だと思います。たいしたことがない作品を10個そろえるより、自分の作風が分かるものが一つあるほうが、営業しやすいはず。数を増やすことよりも、質を高める。そのことに集中することが、結果として仕事につながる可能性があると思います。

加藤 隆(かとう・りゅう)

アニメーション作家

2004年多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。2007年東京藝術大学大学院デザイン科修了。絵画、ドローイングの技法を活かしたアニメーション表現を軸にして活動中。人の手から生まれる躍動感や偶然性を重視しながら映像を制作している。代表作「報道ステーション」オープニング、米津玄師「ゆめくいしょうじょ」MV、Foorin「パプリカ」CDジャケット、People In The Box「ニムロッド」MV、「ダンス、ダンス、ダンス」MVなど。

この記事にいいね!

描き損じも表現の一つ、幻想的で生々しい唯一無二なアニメーション

クリエーターインタビュー新着記事

PAGE TOP