クリエーターインタビュー

社会課題の解決に向けて一歩踏み出す、その勇気を支える映像作り

FIRST APARTMENT ドキュメンタリスト 高島太士氏

 見ていると自然に共感し、胸が熱くなる――そんなソーシャルグッドな映像作品を生み出しているのが、ドキュメンタリストという肩書で活動している高島太士氏だ。単に社会課題を浮き彫りにするのではなく、課題を抱える人に寄り添い、並走しながら解決につながる糸口を一緒に探し出す。「人は、勇気を出す瞬間が美しい」という言葉をモットーに、社会課題の解決に向けて一歩を踏み出す人々とともに映像作品を制作している。

映像を効果的に活用すれば 人の心にメッセージは届く

──映像制作の仕事を始めたきっかけは。

高島太士氏

 映像の仕事を始めたのは、縁があって入社した会社が映像制作をしていたことがきっかけです。本当はグラフィックデザイナーになりたいと思っていて、アートディレクターのタナカノリユキさんに憧れていました。「映像を見るのも撮るのも好き」とか「映画制作が夢」といったような、映像への強い思い入れはありませんでした。気付いたら、映像制作が仕事になっていた、という感じなんです。今も、自分が表現したいことに適しているから映像を制作していますが、映像が大好きかと聞かれたら、決してそうとは言い切れません。ただ、映像を効果的に活用すれば、伝えたいメッセージを人の心に届けることができます。そのことは、素晴らしいことだと思っています。

──社会課題と向き合ったソーシャルグッドな映像作品を制作しています。いつ頃から手がけるようになったのでしょうか。

 映像の仕事を始めた当初は、企業のホームページで公開する会社案内用の動画や、新商品発表会で流す映像などを制作していました。3年ほど大阪で働き、退社後はフリーランスに。デザイン業界への憧れがあったので、プロダクトデザイナーが制作した商品のコンセプトムービーなどを制作していた時期もあります。

 社会課題をテーマにした映像を制作するようになったのは、東日本大震災以降です。最初に取り組んだことは、東北の復興のために広告会社が中心となって立ち上げた「東北六魂祭」という祭りのテレビCMの制作です。東北六魂祭は、青森のねぶた祭や山形の花笠まつりなど、東北6県の祭りが一つの県に集まるお祭りで、国道を封鎖して行うパレードがメインイベント。パレードの模様を記録として撮影し、その映像を使って翌年のテレビCMを制作していました。

 この仕事をしてから、社会問題を題材にした映像制作の仕事の依頼が増えました。その一つが、福島県いわき市が取り組んだ放射能の汚染問題を「見える化」するプロジェクトです。放射能検査のシステムや検査内容などをウェブサイトで公開するために、農家を取材し、市外の方々がバスで農家をめぐる様子などを1年間、記録しました。そのときの映像がカンヌライオンズで受賞したんです。この時期から日本の広告業界ではソーシャルグッドな映像作品を広告賞に出品するという流れが生まれたように思います。

 作品は評価されましたが、この頃はまだ「ソーシャルグッドな映像作品を作ることが自分のやるべきことだ」といった実感はありませんでした。ただ、映像を見た方々から「祭りのテレビCMを見たら泣けた」とか「頑張ろうって思えたよ」などと言われるようになり、自分が表現したかったことが見る人に届くことの喜びのようなものを、少しずつ感じるようになりました。

──ターニングポイントとなった仕事は。

 6年前に制作した、P&Gパンパースの「ママも1歳、おめでとう」という作品です。「ママも1歳、おめでとう」という言葉が先に決まっていて、どういった切り口で表現するか、そのアイデアを考える段階から参加しました。いろいろ考えた中で思いついたことが、病院で1歳児健診を終えたママたちをサプライズでパパたちがお祝いし、感謝の気持ちを伝えるというストーリーです。初めての育児は楽しいことばかりではなく、戸惑ったり不安だったりしますよね。そんな同じ境遇の人たちが共感できて、ちょっとでも心が軽くなるような映像を目指そうと提案しました。印象的だったのは、制作チームの熱量が非常に高かったことです。僕自身も、この表現は正しいと確信しながら演出ができた。とても幸せな現場だった上、作品がウェブで公開されると、想像以上に育児をしている母親や父親たちが共感してくれました。とてもうれしかったし、自信にもなった。そして、今後もこうした作品を制作していくべきなのだと思うようになりました。

課題を浮き彫りにするだけでなく 解決する糸口を見つけ出す

──現在、ドキュメンタリストという肩書で活動し、妊活や特別養子縁組といった繊細なテーマにも取り組んでいます。

 ドキュメンタリストとは、ドキュメンタリー映像を専門的に制作する人、という意味ではありません。僕は単に問題を浮き彫りにするのではなく、解決の糸口を一緒に見つけたり、導いたりすることを目指しています。たとえば、就職活動がうまくいかず悩んでいる人に密着して、その様子を記録した映像からは「就職活動の厳しさや難しさ」は伝わるでしょう。しかし、その人の課題は何一つ解決しませんよね。僕は、それが嫌なのです。

 僕の場合、取材相手とはとことん話し合い、一緒に課題と向き合い、「こういうところを改善すれば、もしかしたらうまくいくかもしれない」という解決に近づくための仮説を立てる。そして、解決に向けて挑戦している様子を撮ります。たとえ、そのときの挑戦では解決できなかったとしても、何かしらの手応えがあれば、その人は自走できるようになり、次はもっと頑張れるはずです。映像を見ている人が共感するのは、問題と向き合っている人が何かを乗り越えようとしている姿。勇気を出した瞬間の表情は、とても美しいからです。僕はそのことに気づいてから「人は、勇気を出す瞬間が美しい」という言葉をモットーに映像を制作しています。

 問題が繊細であればあるほど、取材するとき相手に気をつかうものです。しかし僕は、きっと聞かれたくないことだと思っても遠慮せずに聞く。もちろん、僕自身が課題を解決することはできませんが、話を聞いたからには責任を持って並走します。撮影前の準備も入念に行い、出演していただく方がどういう姿勢で撮影に臨んだらいいか理解してもらっています。実際、「ママも1歳、おめでとう」を制作するときは、60人ほどの父親である男性と会話をし、出演していただいた方とは合計10時間以上、話し合いました。

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──高島さんの作品は、画面に登場する人だけに注目させる1ショットの映像が多い印象があります。なにかこだわりなどあるのでしょうか。

 あまり意識したことはなかったのですが、情報量を減らすために1ショットの映像を使うことが多いのかもしれません。たとえば、夫婦2人一緒に撮影して女性だけが話しているとき、隣にいる男性は何げなく動いていたりする。視聴者によっては、女性の話の内容よりも、話していない人の動きに注目してしまう人もいるはず。そのことからも、1ショットの映像のほうが、話に注目してもらえやすいと言えるでしょう。

──現在はどんなテーマに取り組んでいるのですか。

 まだ企画段階ですが、関心を持っているテーマは若年層の自殺問題です。日本は、30歳までの死亡原因1位が自殺という悲しい現実があります。世界的にも日本は上位。その問題を何とかしようと動いているNPO団体も増えています。繊細な問題も、それと向き合う人や賛同する人が増えてくると、徐々にセンシティブではなくなります。LGBTは、その代表的な例です。そんな風に、僕が制作する映像を通じて、若年層の自殺という重いテーマも日常的に話せるようになり、みんなで解決していこうという空気をつくり出せないか。そんなことを考えています。

──今後の展望をお聞かせください。

 今後、企業広告も社会課題をテーマにしたドキュメンタリーテイストやストーリー仕立てのものが増えていくと思います。朝日新聞デジタルの「&W」で展開したロイヤルコペンハーゲンの動画は、共働き夫婦のすれ違いや家事の分担といった問題をストーリー仕立てで表現し、間接的にロイヤルコペンハーゲンの魅力を伝える新しい広告の形だと思います。これまでプロモーションは、売り上げと結びつけることが最重要課題でした。しかし、SDGsが浸透しはじめ、20代や30代の若い世代ほど社会課題に関心が高い。企業が取り組む社会的な活動の内容も、商品のファンになるきっかけの一つになるはずです。

 個人的な目標は、ドキュメンタリストを増やすことです。これまで映像制作を仕事にするためには、映画業界や広告業界などクリエーティブな分野で下積みをする必要があり、狭き門でした。でも、今後は変わっていくはずです。理想は企業の広報部に映像を制作できる人がいて、広報活動はもちろん、社員のモチベーションを考えたインナーブランディングを統率すること。動画で伝えられることが多いからこそ、これからは社内で映像を作ることが当たり前になっていくと思います。

高島太士(たかしま・ふとし)

FIRST APARTMENT ドキュメンタリスト

人の一度しかない瞬間や感情を引きだし、映像に切りとる。心を動かす強さと透明感のあるメッセージが特徴。課題解決に特化した演出で、これまで手がけた作品は国内はもとより海外広告祭での受賞も多数。最近の取り組みは、社会課題解決の分野で映像の知見を活用すること。

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