クリエーターインタビュー

企画の広がりを運任せにしない。拡散させる仕掛けも含めて企画する

電通 クリエーティブプランナー 花田礼氏

 電通のクリエーティブプランナーの花田礼氏は、広がる仕掛けを含めた企画を次々と生みだしている、注目のクリエーターだ。モットーは、企画の広がりを運任せにしないこと。それが実現できるのは、今の生活者の興味や好みを知るために、日々膨大な情報をインプットし、分析を行っているからだ。

挫折から始まったクリエーター人生

──広告業界を目指したきっかけは。

花田礼氏

 高校生の頃、YouTubeで面白い動画をあさるように見ていました。そのとき、衝撃を受けた動画があります。それは、ホットペッパーのテレビCMで、関西弁でアフレコをするシリーズです。テレビのエンタメ番組や映画とは違って、わずか15秒で笑わせる。アイデアで勝負していることが、とてもかっこいいと思いました。それが広告業界に興味を持ったきっかけです。ホットペッパーのテレビCMは、当時、電通に所属されていたCMプランナーの山崎隆明さん(現在はワトソン・クリック)が手掛けた仕事です。それで自分も憧れの山崎さんと同じ会社で働きたいと、電通を目指すことにしました。


 それから広告業界について、インターネットで調べられることは全て調べて、山崎さんをはじめ、一流のクリエーターの方々のインタビューを片っ端から読みまくり、話題となっている国内外の面白いCMを見まくりました。情報をあびるように得ることは、当時も今も好きで、情報収集の時間は幸せのひとときなんです。大学生になってからは、山崎さんが審査員を担当しているCMコンテストにも応募し、勉強そっちのけでCM制作に没頭。その結果、1年目は最終審査まで残り、2年目はグランプリを受賞することもできました。

──希望通り、大学卒業後は電通に入社しました。

 たしかに電通に入社できたのですが、配属はウェブサイトを制作する部署でした。山崎さんと同じCMプランナーを志していたので落胆してしまい、入社してから1、2年は仕事に身が入らなかった。そのときプライベートで夢中になったのが、ドローンでの写真撮影です。海外の方がドローンで撮影した絶景写真を見たことがきっかけです。ドローンが出始めた頃で、空撮によって今までにないアングルで風景を美しく切り取っていました。それからドローン撮影にはまり、写真集をつくりたいと出版社に売り込みに行きました。そうしたら、2017年に写真集を出版し、渋谷のヒカリエで写真展も開催することができたんです。

──ターニングポイントとなった仕事は。

 ドローン写真の発信にはSNSも活用していたので、一部の先輩から「SNSやデジタルの使い方も得意なやつ」と認識いただくようになりました。そして任せられたのが、「リポビタンD」のデジタルコミュニケーションでした。

 最初はウェブサイトを使った企画を主にやっていましたが、しばらくしてウェブ動画の制作を提案してみることにしました。それが「ファイト不発」という動画です。リポビタンDと言えば、危機的な状況で「ファイトー!」と一人が手を伸ばし、もう一人が「イッパーツ!」と言いながらその手をつかむ、という定番のCMがありますよね。そのパロディー版として、伸ばした手をつかまず、自力で危機を脱するというストーリーをプレゼンしたところ、実施が決まりました。

大正製薬「ファイト不発」

 この動画がTwitterで4万件くらいリツイートされたことをきっかけに、ウェブやテレビで多く取り上げられました。フジテレビの「ワイドナショー」にも取り上げられ、憧れの松本人志さんに笑っていただいたのが嬉しかったです。こうして、⾃分の関わった企画が世の中に広がっていく様子をリアルタイムで体感できたので、思い出深い仕事です。それ以降、仕事の幅も広がっていきました。

──現在、電通関西でクリエーティブプランナーという肩書で仕事をされています。仕事をする上で心掛けていることは何でしょうか。

 当たり前のことですが、企画の段階から完成するまで、生活者目線を持ち続けることだと思っています。もちろん、つくり手も生活者の一人です。ただ、自分の意見だけではサンプル数は1で、ターゲットや属性が違うことのほうが多い。僕自身、主婦の気持ちは実感として分かりません。だからこそ、多くの生活者目線を自分にインプットすることが重要だと考えています。

──生活者目線は、どうやってインプットするのでしょうか。

 僕が活用しているツールの一つが、Twitterです。何かの物事に対して発言している内容や属性をチェックしています。例えば、昨年の初めに、あるアイドル事務所初のバーチャルユーチューバーが誕生した、というニュースがありました。それに対してクリエーターである自分は、時代に合ったいい企画だと思っていたのですが、Twitterをチェックすると、アイドル好きの多くは批判していたんです。ファン度合いや立場、属性によっても感想は異なり、僕とは全く違った意見があることが分かりました。

 日頃から一般の人たちの意見を無数にインプットしていると、タイプによって批判したり称賛したりする企画の傾向も見えてきます。もちろん、Twitterだけではなく、映画やドラマを見たり、人と会って話しをしたり、とにかく自分以外の人の意見をインプットすることを、常に意識しながら生活しています。

──インプットした情報は、どのようにストックし、どうやって仕事に生かしているのでしょうか。

 TwitterやYouTube、テレビ、雑誌など、気になったことや面白かった情報は、Evernoteにストックしています。ストックした情報は、既に数千個あるはずです。単にストックするのではなく、例えばバズっているツイートを自分なりに要素を分解し、「アート」や「つくり方の開発」「現象」「ソーシャルグッド」など、タグをつけて保存しています。そして、企画を考える段階で、課題に応じてストックしておいた情報をひっぱり出す。いくつかの要素を組み合わせながら、アイデアのヒントとして活用しています。

良いアイデアは膨大なインプットから

──美容室専売の化粧品メーカー、727の新聞広告も話題となりました。

 まず、国内外の広告の事例から「WordやPowerPoint、薬袋やカレンダーなど、みんなが知っているモチーフをそのまま広告に使うと斬新に見える」という仮説を立てました。それと、6面立体パズルを全面クリアできそうな雰囲気で得意げにやっておきながら、ぐちゃぐちゃのまま終わるという一般人のバズ動画から「真顔でボケ切ると面白い」という仮説を立てました。そして、2つの仮説を組み合わせて考えたものが、真面目なメディアである新聞広告に、727のWikipedia情報をそのまま掲載するというアイデアです。クライアントには自主提案し、実現しました。

2019年1月7日付 大阪本社版 朝刊288KB

 掲載後、クライアントの取引先からは「新聞広告を見たよ」と声を掛けられ、社員からは「自分たちの会社が面白いことをやっている」と喜びの反響があったそうです。インナーコミュニケーションを活発にすることは、企画の段階から狙っていたことなので達成できて良かったです。

──新聞広告を活用したのはなぜですか?

 広告にはフォーマットがありますが、それを破壊的に超える「予想外」な表現が好きなんです。新聞は信頼性が高いメディアなので、壊しがいがあり、予想外をつくりやすい。新聞広告の可能性は感じていて、やりがいもあると思っています。特に新聞で有効だと思うのは、意見広告。社会を良くしていくための意見広告は、やはり新聞が最適なはず。ただ、海外だと意見を言う企業は称賛されますが、日本人は意見を言う人を嫌う風潮があります。そうした日本人の性質を踏まえて考える必要はありますが、世の中がちょっと前進するような意見広告を新聞で展開してみたいですね。

──花⽥さんが⼿掛ける事例は、高確率で拡散されています。ただ、拡散を狙いすぎた企画は、受け手側が冷めてしまう可能性も高い。そのさじ加減については、どのようにお考えですか。

 まず一般的に、投稿されたばかりで誰も「いいね」や「リツイート」していないツイートに、反応するのは勇気がいるものです。しかし、既に1万リツイートされているツイートには、「みんながいいと言っているから、反応しても恥ずかしくない」という心理が働き、一般の人たちが安心して拡散する傾向があります。要するに、より多くの一般の人たちに拡散してもらうためには、ある程度広がった状態にしておく必要があるんです。その手法はいくつもあるのですが、一つは、絶対に反応してくれるファンがいる人たちに、広告に参加してもらうというもの。例えば、人気アニメやアイドルグループ、声優、ミュージシャン、イラストレーターなどが参加した企画の場合、それぞれのファンが拡散してくれるので、自然とリツイートの数が上がっていきます。そうすると、一般の人たちが話題になっていることに気付いて反応し、さらに拡散されていくという流れです。

 Twitterに注目するようになって、気づいたことがあります。それは、一般の人の多くは「いい企画だから拡散されているのではなく、拡散されているからいい企画」と捉えていることです。もちろん、偶然バズることもあります。ただ、素晴らしいアイデアであればあるほど、運任せにするのは、もったいない。運任せにしないためにも、橋渡しとなる仕掛けを考えることは、大事なことだと思っています。

──ハウスウェルネスフーズの「ウコンの力」のサンプリングイベントで8月に「いい感じの力のやつ」、12月には「超いい感じの力のやつ」というコピーの巨大モニュメントを設置し、これらの情報もTwitterで2万リツイート以上、拡散されていました。

「ウコンの力」巨大モニュメント(JR品川駅構内)

 この企画では、Twitterのフォロワーが5万⼈以上いる書道家クリエーター、もにゃゐずみさんにキャッチフレーズを達筆な字で書いてもらいました。結果、もにゃゐずみさんが企画についてTwitterで発信してくださったのをキッカケに拡散し、多くの方にリーチしました。このように、制作段階から「拡がる出口」を考えて企画を立てています。


──最後に、広告業界で活躍を目指す方々へメッセージをお願いします。

 ⼤学⽣の頃は、アイデアは突如舞い降りてくるものだと勘違いしてました。決してそんなことはありません。アイデアを生むための一番の近道は大量かつ質の高いインプットだと思います。広告の成功事例だけを集めるのでは、数が足りません。広告以外でも良いアイデアの種は、例えばTwitterを見ているだけでも、無数にあることに気づくはずです。膨大にインプットして、要素分解をして仮説を立てる。その繰り返しによって、良いアイデアは作れると思っています。最近は、企画を世に出してうまくいかないことがだいぶ減ってきました。それは、過去にうまくいかなかったことと真正⾯から向き合い、失敗しない方法に転換させているからだと思います。

 あと、好きなことを究めることは、クリエーターとしてステップアップするきっかけになることが多い。僕は絶景写真が好きで、自分でドローン撮影をして写真集を出したことが、仕事の幅を広げることにつながりました。日々の仕事でやり切れない思いを抱えている方は、まず好きなことで何かしらアウトプットを作ってみることをおすすめします。自分もまだ、何も成し遂げていないので頑張ります。

花田礼(はなだ・れい)

電通 クリエーティブ・プランナー

2014年入社。「趣味は仕事」の広告好き。ドローンフォトグラファーとしても活動し2017年に写真集を発売。2019年、関西の広告クリエイターを表彰する佐治敬三賞で史上最年少グランプリに選出。事務処理を大の苦手とし、克服に励んでいる。

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