クリエーターインタビュー

見方を変えれば、世界が変わる。 コピーライターが提案する「解釈」のしかた

電通コンテンツビジネス・デザイン・センター/コピーライター  阿部広太郎氏

 2021年5月に『それ、勝手な決めつけかもよ?だれかの正解にしばられない「解釈」の練習』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を刊行した、電通コンテンツビジネス・デザイン・センター 阿部広太郎氏。コピーライターとして、企画講座の主宰として、「言葉」を軸に活躍する阿部氏が今、考えていることとは。話題のクリエーターの想いをお聞きしました。

言葉の力を考え続ける

阿部広太郎氏

――書籍の刊行や企画についての連続講座「企画でメシを食っていく」主宰など、幅広い人に向けて「言葉の力」を積極的に発信している阿部さん。Twitterで「#広告空論」というハッシュタグをつけて気になる広告を紹介されています。ときどきの新聞広告にも注目していただいていますが、どんなところに新聞メディアの魅力を感じますか。

 なによりの魅力はモーメントだと思います。その日に広告を出すことに意味が生まれて、最大瞬間風速を起こせる可能性がある。新聞は毎日発行されていて、日付が打刻されている。見た人が「今日は何の日」と思い起こす。メッセージを届けたい人はモーメントをとらえることが大事だと思います。また、歴史もあり「堅さのある場所」であるからこそ、紙面でおもしろい情報が発信されるとギャップに惹かれる、この点も魅力ですね。新聞社のTwitterアカウントからの発信もよく見ています。

――ご自身のお仕事としてコピーライティングを考えるとき大切にしていることをおしえてください。

 なにを目的とするのか、どうしてそれをするのか、常にゴールとスタートを確認しながら、仕事相手との思いの「真ん中」を探していきます。お互いの勘どころをすり合わせる感じですね。そして、締め切りギリギリまで考えます。明日打ち合わせがあるなら明日まで考えますし、一週間後であれば一週間後まで考えています。これはずっとデスクに向かっているという意味ではなくて、締め切りまでは頭の片隅でそのテーマが暮らしているような感覚なんです。頭の中がシェアハウスみたいになっていて、新しく仕事が来たらそこに入居してもらって、締め切りの日が退去日みたいな感じですね。

――考えても考えてもいいコピーが浮かばないときはどうされていますか。

 まず、「よし、いい感じだぞ」と思うようにします。自分を追いつめない。そして、一度立ち止まって、「なぜ出てこないんだろう?」と考えます。出てこないということは、物事の見方を固定してしまっている可能性がある。こういうときは頭の中のカメラの向きを少し変えて、別の方向から見るようにします。また、カメラで自撮りするみたいに「なぜ、コピーが書けないのか?」というこの状況をとことん書いてみるのもありです。コピーが出てこない理由を一生懸命書くと、不思議なんですけど、その中に案外コピーが生まれたりしておすすめです。

発信することでだれかの手をひっぱりたい

――積極的な発信のきっかけは何だったのでしょうか。

 今でこそこうして積極的に発言していますが、じつは昔、SNSのアカウントにカギをかけていました。ぼやきも含めて、自分の思うことをただつぶやいていただけなのですが、当時、親であったり、誰かに自分のツイートが見られていることが恥ずかしいなと思っていたんです。しかしある日友人から「なんでカギをかけてるの?表現したり伝えたりする仕事をしてるんだよね?見たい人いるんじゃないかな?」と言われたんです。これにはハッとしました。そこからですね、小さくてもいいから、自分の声を自分の言葉で届けようと考え始めたのは。ひょっとすると誰かの役に立つかもしれませんし、そうでないとしても、ぼやくのではなく、日々、自分自身を応援する記録になればいいなと思い、SNSでの発信の仕方を決めてカギを開けました。

――阿部さんのメッセージに影響を受けた人も多いと思います。

 だとするとうれしいですし、ありがたいです。僕自身がたくさんの人に手をひっぱってもらって今があるので、だれかの手をひっぱれたらいいな、と思っています。今はSNSが当たり前のように使われる時代になったことで、誰もが発信できる。表現する舞台が増えたのはうれしいことですが、難しい面も。いわばソーシャル上がお茶の間化したからこそ、一人ひとりの言葉への意識が問われていると思います。「その言葉、大切な人に見せられる?」という投げかけを大事にしています。恋人でも家族でも友人でもいいのですが、大切な人に胸をはって「自分が書いた」と言える言葉を発信できたらと思います。

――発信されるようになって、変わったことはありますか。

 「こんなことを考えています」とボールを投げると、自分でも思ってもみなかった言葉がやまびこのように返ってくる。いただいた感想に、思わず「おお!」と思うことはたびたびあります。たとえば僕が「事実というのは存在しない。存在するのは解釈だけである」というニーチェの言葉を引用して、今“解釈”について熱心に考えていると伝えた時に、「解釈は咀嚼することと似ていると思いました」と感想をいただけたんです。物事をよく味わう、これは確かにそうだなと、ぐっときました。

かけた時間の量が自分らしいクリエーションにつながる

――新刊『それ、勝手な決めつけかもよ?だれかの正解にしばられない「解釈」の練習』も、阿部さんの講座に参加した方からの提案で生まれたと聞きました。

「それ、勝手な決めつけかもよ?だれかの正解にしばられない「解釈」の練習」

 2019年、「言葉の企画」という連続講座に参加してくださった方の中に出版社の方がいらっしゃったんです。すべての講座が終わって、参加者のみなさんと一緒に親睦会をしたとき、その彼女から手紙をいただいて。帰り道の電車の中、緊張しながら手紙を開くと、「阿部さんの本が作りたいです」と。彼女なりに一歩を踏み出して、講座のその先に行こうという決意がすごくうれしかったのを覚えています。

――こうして著書の話が立ち上がったときに、ちょうど新型コロナウイルスの感染拡大がはじまったんですね。

 「ステイホーム」で家にずっといたときは不安がぐるぐると心に渦巻いて落ち込みました。ただ、オンラインでいろんなイベントに登壇させてもらって、はたと気付いたんです。今こそ「解釈」が必要なんじゃないかなと。ステイホームで増えた時間も、“待ち時間”ではなくて未来への “持ち時間”ととらえようとか。ちょうどオンラインでの“打ち合わせ”が当たり前になっていったときだったので、この機会に普段は気軽に会えないような人たちとオンライン上でつながれば、いつか“待ち合わせ”ができるんじゃないかとか、解釈をし直すことで少しずつ自分の視界が開けていったんです。こうした気づきや感覚こそ、コロナ禍のいま求められているのではと感じて本の刊行に向けて進み始めました。

――書き始めてからはスムーズに書き続けられましたか?

 2行書いては1行消すみたいな、地道に積み重ねていった感じでしたね。マラソンでも途中に給水所や、沿道に応援の人がいてくれるから走り続けられるように、講座などを通じてたくさんの方と交流できていたから駆け抜けられたのだと思います。これまで講座やワークショップに参加してくれた人がヒントをくれたり、声をかけたりしてくれたからこそ頑張れた。新刊は「みんなで作り上げた」という気持ちが非常に強いです。

――刊行されたいまのお気持ちは。

 書き上げて終わりではなく、届けて伝わってこそ完成だと思っているので、一人でも多くの人に読んでもらって本を育てていけたらと思っているところです。そのなかからまた発見することもあるでしょうし。これからもコピーはもちろん、作詞をするのも講座の活動も、言葉の求心力を活(い)かした表現活動を長く続けていきたいという気持ちが強くあります。

――最後にクリエーターを目指す次世代に向けてメッセージをお願いします。

 SNSの投稿しかり、買い物しかり、何かを選んだり、組み合わせたりというのは誰でも当たり前にしていることだと思います。生きること自体がクリエーティブなことだと忘れないでほしい。ただそこから一歩抜き出て、この道を探求していきたいという思いが見つかれば、物を言うのは、才能やセンスあるなしではなく、どれだけのめりこめるかだと思います。自分がいいなと思うクリエーターの作品を追いかけたり、好きな趣味を掘り下げたり、そういう時間を1分1秒でも長くかけた先に、あなたにしかできないクリエーションがあると僕は思っています。

 阿部広太郎(あべ・こうたろう)

電通コンテンツビジネス・デザイン・センター/コピーライター

「企画でメシを食っていく」主宰。電通入社後、人事局に配属されるも、クリエーティブ試験を突破し、入社2年目からコピーライターとして活動を開始。作詞家として「向井太一」「円神-エンジン-」「さくらしめじ」に詞を提供。パーソナリティーを務めるラジオ番組「#好きに就活 『好き』に進もう羅針盤ラジオ」がAuDeeで放送中。著書に『待っていても、はじまらない。―潔く前に進め』(弘文堂)、『コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術』(ダイヤモンド社)、『それ、勝手な決めつけかもよ? だれかの正解にしばられない「解釈」の練習』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。@KotaroA

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