クリエーターインタビュー

「いい広告」の概念を広げていく

電通 コピーライター 橋口幸生氏

 2021年4月に新刊『100案思考』を上梓、アイデアに天性の才能はいらない、ノウハウだ、と独自の方法をまとめた電通・コピーライターの橋口幸生氏。自身を ‘普通の人’と評し、だからこそ、どんな仕事もインプットと大量のアウトプットを欠かさないことで多くの人に響く言葉を生み出し続けています。新聞メディアにも造詣が深い橋口氏だから見えてきた、今の時代ならではの新聞メディアの特色とは。変化し続ける広告の在り方についてもお話をうかがいました。

ターゲティングができないからこそ、みんなに伝わる

――直近では3月21日、世界ダウン症の日にあわせて掲載された岸田奈美さん著書『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』の新聞広告を手掛けられました。掲載後感じたことがあれば教えてください。

 改めて「社会的なメッセージを伝えたいときに、新聞という媒体はすごく向いている」と感じました。世界ダウン症の日、まさに当日モーメントに合わせてメッセージを発信できるのも、同じことができる媒体は他にないなというのが実感です。

2021年3月21日 東京本社版朝刊 2021年3月21日 東京本社版朝刊
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――新聞広告はなぜ社会的メッセージの発信に向いているのでしょうか。

橋口氏橋口幸生氏

 ターゲティングができないことが新聞の魅力であり価値だと思います。デジタルを中心に細かくターゲティングできる媒体が増えたからこそ、みんなに広く伝えることが、かえって武器になっている。ソーシャルでのキャンペーンは反響の数値こそ見えやすいですが、リアクションする人は世の中の一部分であり、数字で見えるばかりが反響ではないと感じています。世の中全体に発信したい、特に社会的なメッセージこそ新聞は威力を発揮すると思います。海外ではすでにメジャーですが今後、日本でもハンディキャップをテーマにした広告が増えていくといいな、とも考えています。

――特にコピーライターとして、魅力に感じるポイントがあればお聞かせください。

 コピーをしっかり読んでもらえる、という点はとても魅力的です。若手の頃、先輩から「ボディコピーは100人いれば1人読むか読まないか。でもその1人が、すごくおもしろかったと感想文を送ってくれるかもしれない。その1人のために書け」と言われました。3月の新聞広告掲載の際も、反響を見てコピーをしっかり読んでもらえた、伝わったと感じました。文字を読むことに慣れている新聞読者には、コピーがしっかり伝わる実感がありますね。

才能やセンスがないこともクリエーターの武器

――これまで『言葉ダイエット』『100案思考 「書けない」「思いつかない」「通らない」がなくなる』と2冊の書籍を出版されています。執筆のきっかけについて教えてください。

 ネガティブ思考が、アイデアの種になっています。『言葉ダイエット』は、メールだったり、企画書だったり、ビジネスで接する文章のなかに、長くて読みにくいものが多いなと思ったのがきっかけです。本として出版すれば、みんなイシューとして注目してくれるかなと考えました。言葉にして印刷する―そういう意味では新聞と近いかもしれません。 “紙”という物体を通じてより多くの人に広まることを期待しました。

――『100案思考』ではインプットすること、アウトプットすることの重要性も触れていらっしゃいますね。

 アイデアって才能やセンスがある人が出せるもの、と考えている人が多いんです。でも僕は、すべての人にはアイデアが必要だと思うし、アイデアはノウハウだと思っています。ポンポンと名案がうかぶ魔法なんてどこにもなくて、インプットを日常化し、たくさんの案を出してから絞り込むことが必要。ただ日本にはアイデアのノウハウを学ぶ機会が少ない。ひとつの助けになればと思って本書を書きました。

――橋口さんご自身も、仕事に取り組まれる際はインプットから?

 はい、まずは調べるところから始めます。そもそも僕には、何もインプットしなくても思い浮かぶような才能はないんです。自分のなかにあるものは“たかだかしれている”という自覚があるからこそ、外にあるおもしろいものを見つける作業を大切にしています。これはコピーライターに限らず、多くの広告クリエーターが持っている感覚だと思います。

――クリエーターの世界はまさに才能やセンスがある人だけが活躍する世界だと考えていました。

 一見、才能やセンスで活躍しているように見える人でも、見えないところでものすごく努力をしていると思います。僕がなにも調べずに机に向かったとしたら、普通に3、4個アイデアを書いたあたりで手が止まります。つまり凡人なんですね(笑)。しかし世の中の99%は僕と同じ凡人なわけですから、その人たちの気持ちを想像するのは、いわゆる天才よりも僕の方が得意なはず。才能やセンスがないことも、じつはクリエーターの武器になると思っています。

嫌われることを気にせずに自分らしくいてほしい

――変化し続ける社会をどのように見ていますか。

 企業も広告も、在り方の変化が加速していると感じています。「いい広告」の定義がどんどん変わってきている。日本ではまだ、コピーはコピー、デザインならデザインで、専門性の枠内で完成度を高めようとする傾向が強い。しかし、たとえばThe Breakthrough Company GOの三浦崇宏氏の「新聞広告の日プロジェクト 朝日新聞社×左ききのエレン Powered by JINS」のように、既存の枠にとらわれない、現代的な試みが登場しています。

 企業も同じで、今後、ますますメッセージを発信していく存在になるでしょう。その時、企業にも人格を持つことが求められます。いまは多くの人は、モノを売ることだけが広告の目的だと誤解しています。しかし、人格を形作ることも、広告の機能のひとつ。そんなとき、新聞広告は重要な器になり得るのではないでしょうか。

――広告の概念自体が、拡がっていくんですね。

 すでに変わりつつあると思いますよ。クリエーターにしても、おそらくこの先、糸井重里さんのようにスターコピーライターは出てこないと思います。しかし違う形でそれぞれの個性を活かした新しいスターはどんどん出てきている。広告が役立つことはもっとたくさんあるのだと、解釈を拡げていく必要もあるし、そのための取り組みをもっと評価していっていいと思います。

――最後にクリエーターを目指す次世代に向けてメッセージをお願いします。

 何か言葉を贈るとすると、「嫌われてもいいじゃないか」ですね。「させていただけないでしょうか?」といった妙な敬語が広まっていることからも分かりますが、嫌われたくないという思いが世の中に広がっているように見えます。もちろん家族や恋人、友達に嫌われると困りますが、仕事は利益や目的のためにするもの。嫌われることを過度に気にせず、自分らしく生きて表現して欲しい。嫌われる/嫌われないという他人のものさしではなく、自分のものさしを持つほうがいいと思います。

 また、人生って、手持ちのカードで何とかするしかないんですよね。持ってもいないカードを切ろうとしても意味がない。それもまた、楽しんでほしいと思います。

 橋口幸生(はしぐち・ゆきお)

電通 コピーライター

株式会社 電通所属。コピーライター、クリエーティブディレクター。
最近の代表作はロッテ ガーナチョコレート、鬼平犯科帳25周年記念ポスター、出前館など。著書に「100案思考」「言葉ダイエット」がある。

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