上間常正のファッションノート

日本ファッションの可能性と課題を示した4ブランド 2014年春夏東京コレクション

 

 日本のファッションブランドがそろって新作を発表する東京コレクション。以前はパリやミラノのコレクションより面白い時もあった。オタクや「かわいい」感覚に象徴される日本独自の若者文化のせいもあったし、前衛ファッションということでは日本は1980年代から世界をリードし続けていたからだ。しかし最近はそうした特徴がどこか希薄になっていて、全体として精彩に欠けてしまった感がある。

 3月中旬に開かれた2014年秋冬東京コレクションでもそんな印象は否めなかった。とはいえ、日本発ブランドの特徴と次の時代のファッションに向けた可能性を感じさせた力作もいくつかあった。やり方はさまざまだが、そうしたブランドが表現しようとしたことは、ファッションに限らずこれからの日本の物作りへの指針とも共通しているのではないかと思える。

 日本では、ヨーロッパの近代ファッションが成立するずっと前から洗練された服飾文化が育まれていた。世界的に広がった近・現代社会と文化が行き詰まってきた中で、和服の伝統に改めて目を向けてみることは、日本のデザイナーの幸運なアドバンテージでもあり義務でもあるだろう。

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(写真はいずれも2014年秋冬東京コレクションより)

マトフ マトフ

 堀畑裕之と関口真希子がデザインする「マトフ」は、デビュー以来一貫して「和」の美意識をモチーフにした服を発表してきた。今回は和菓子や料理の名称でもある「ふきよせ」をテーマに、秋が深まって落ち葉が吹き寄せられて一枚の布になったような色彩豊かな服を見せた。

 季節の終わりの一瞬の美しさに目を向けようとした彼らの意図はとても評価できる。このような繊細な感覚は、直線的な時間意識や進歩といった西洋近代的な意識とは全く異なるものだ。こうした姿勢での服作りを続けて欲しいと思うのだが、明治を経て急速な近代化を遂げてしまった日本の今の一瞬と過去の時代の一瞬の美意識がどう切り結べるのか。それをさらに深く見つめる視点を定めること、そして服のシルエットと完成度をより高めることが課題だろう。

ミントデザインズ ミントデザインズ

 

 家具などの工業デザインと同じ姿勢で服を作る。そんなポリシーを打ち出しているミントデザインズ(勝井北斗、八木奈央)は、今回はユニセックス、ティーンズ(10代)をテーマにちょっととんがった直線的なデザインのシンプルで楽しげな服を発表した。今のファッション的な服は実際には大量工業製品なのに、それとはかけ離れたイメージを振りまいてきた。彼らの服は、そんな倒錯したファッションの疑似イメージを見直すことを我々に求めている。

 

 タエアシダ(芦田多恵)のショーは、パリやミラノのトップブランドのショーを見る時の空気感を思い起こさせる充実感があった。

タエアシダ タエアシダ

 赤と黒の効果的な色使い、違う素材を高度な切りかえの技術で構築し、それでいてシンプルで上品なジャケットやドレス……。ヨーロッパのショーと錯覚したのは、服の完成度がとても高かったからだ。

 多くの日本ブランドの最大の欠点は、服としての完成度がまだ足りないことだ。若い世代だけではなく広い世代や海外に売ろうとすれば、その点は克服する必要がある。その意味でもタエアシダはそれを示す貴重な存在といえる。これは彼女の父親である芦田淳から受け継いだものだろう。

 

ネ・ネット ネ・ネット

 最後にもう一つ。「カップルで共有する日常着」をコンセプトにブランドを立ち上げたネ・ネット(高島一精)は、今回は「キラキラ」がテーマ。少女漫画家が描いた女の子やネコ、クマなどのプリント柄や、プリーツやフリルを多用したかわいい服だった。ゆるい感じのカジュアル着なのだが、シルエットには無駄がなくて技術的な完成度もなかなか高い。しかし印象としては、十分におしゃれで楽しげな中にどこかさめた気分や、本当の素顔を隠そうとしている気持ちも感じさせる。そんな意味では、このショーは今の東京らしさが最も象徴的に表現されている。

 

 四つのブランドの新作は、これからの日本の服作りに向けた強みと弱みのポイントをかなり的確に示すものだった。課題はまだほかにもあるだろうが、これらのポイントを全体として共有してもっと深めていければ、東京コレクションは世界に先駆ける新しいファッションを打ち出せるように思える。

 4年足らずの間にこのコラムを66回も書き続けてきましたが、今回で終わります。言葉足らずだったり独断的だったりしたことも多かったと反省しきりですが、お読みいただきありがとうございました。

 

上間常正(うえま・つねまさ)

1947年東京都生まれ。東京大学文学部社会学科卒業後、朝日新聞社入社。学芸部記者として教育、文化などを取材し、後半はファッション担当として海外コレクションなどを取材。定年退職後は文化女子大学客員教授としてメディア論やファッションの表象文化論などを講義する傍ら、フリーのジャーナリストとしても活動。また一方で、沖縄の伝統染め織を基盤にした「沖縄ファッションプロジェクト」に取り組んでいる。

◇「上間常正のファッションノート」は今回が最終回となります。ご愛読ありがとうございました。

上間常正氏は、引き続き朝日新聞デジタルのウェブマガジン「&」でコラム「上間常正 @モード」を執筆されます。

 

 

 

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