上間常正のファッションノート

地域と伝統に根ざしたブランドの小ぶりなモノ作り

 

 株価の上昇と円安が進んでいるためか、一部では妙に浮き立った気分が広がってきているようだ。内閣府の先週の発表によると、今年1~3月のGDP(国内総生産)は前の3カ月と比べて実質0.9%増えたとのこと。このまま行けば、年率換算では3.9%の成長になる見込みだという。これはかなりの伸び率で、またぞろ勇ましげな“成長戦略”が語られ始めている。だが、もし成長するとしても、それはいつまでも続くものなのか?

 そもそも成長とは、誕生から死までの一つのサイクルの間で、成熟・衰退の前のある時期のことだったはず。経済だけが例外と考えるのは、スポーツ選手に死ぬまで記録更新を期待するのと同じことだ。日本の経済はもうとっくに停滞が長く続いていて、急にまた成長段階に戻ると思う方がむしろおかしいのだ。経済の成長段階が終わろうとしていることは、1970年代の初めごろから、ローマ・クラブの「成長の限界」やシューマッハーの「スモール・イズ・ビューティフル」などの本でも、いくつも理由を挙げて指摘されてきた。それでも経済成長が続いたのは、先進国でもまだ人々が欲しいモノがあり、それを手に入れれば幸せになると思っていたからだ。

 成長から成熟へ。最近は、特に先進国での人口減少に注目し、むしろそこに積極的な今後の打開策を見いだそうとする本の出版や識者の発言が増えてきている。人口減は働く人が減ることで、それを上回る生産性の向上がなければ経済縮小につながらざるを得ない。これに対する社会・経済政策は論者によって様々だが、いくつかの共通点もある。

 まずその一つは、進むべき方向が「モノの量的拡大から、内的・文化的発展」に転換すること。そして、たとえば「どこが、誰がより進んでいる」というような「時間」的尺度ではなく、「空間」や「地理」がより重視されるようになる。つまり各地域の身近でローカルな価値を見直すことだ。最近の若者は内向きだとの批判は、この意味では的外れだといってよいだろう。

 地域を重視することは、そこでのコミュニティーのあり方が重視されることになる。思い浮かぶイメージでいえば、みんなで助け合いながら楽しく働き、安心して暮らすこと。すでにそうした考え方に基づく新しい経済学の理論作りも実際はかなり進んでいる。人口減少やGDPの右肩下がりは、必ずしも悲観すべき停滞や行き詰まりというわけではない。
    経済的に見れば日本という国は、外への借金はほとんど無くて内外にかなりの資産をもっている。人に例えれば、ぜいたくを言わなければ老後までも十分に生活できて、これからはあくせくせずに好きなことをして、楽しくかつ美しく暮らしていきたいと思っている熟年世代、とみなすこともできるのだ。

 ファッションは長らく、新しいモノやスタイルを次から次へと作りだしてきた。それは逆にモノを次々と古くさせ、結果的には大量なモノ作りを推し進めた。しかし2000年代になってからは、もう新しさも出尽くしてしまい、先進国市場では売り上げも停滞・下降を続けている。だがそうした中で、伝統や出発点を見直し、モノとしての価値が分かる層に的を絞ったマーケティングや製品作りにかじを切ったメーカーも増え始めている。

 最近はまた、一つの地域で明確なコンセプトを守りながらモノ作りを続ける“小ぶりな”ブランドへの関心も高まっている。フランスのシャンパーニュ地方にあるトロワという町で、120年前から続く「プチバトー(PETIT BATEAU)」もその一つだ。もともとは下着、子供服メーカーだが、今ではレディース、メンズのファッションブランドとしての評価も高まっている。

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プチバトーの2013年春夏の新作 プチバトーの2013年春夏の新作
伝統の細い縞柄のTシャツ 伝統の細い縞柄のTシャツ

 このブランドの特徴は、肌にやさしい着心地の良さと品質へのこだわりで、繊維製品の国際的安全基準「エコテックス」も早くから取得している。シンプルでベーシックな品目が中心だが、丁寧に糸を編み込んだ独特の細いボーダーやシックな色使いに魅力がある。製品のこうした魅力は、トロワの自社工場で働く人たちの働きぶりや雰囲気と無縁ではないだろう。

 東京・表参道で開かれた今年の春夏物の新作展示会では、工場の各部門で働く社員たちが自分の仕事をエスプリたっぷりに表現した27枚の写真パネルが展示されていた。撮影は、世界の各地域で懸命に生きる人たちの姿を撮り続けているステファン・ラマエル。今回の写真は、まるで子供の遊び場のように楽しげだが、彼・彼女らの仕事への思いをじんわりと感じさせるものだった。

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工場で働く人たちの写真 工場で働く人たちの写真(撮影・ステファン・ラマエル)

 こうした素地、伝統に加え、去年はパリを起点に活躍中の若手ブランド「メゾン・キツネ」の黒木理也とジルダ・ロアエックの二人をアーティスティックディレクターに迎えた。春夏の新作からは、若くはつらつとした生命力といった感じの新たな魅力も感じさせる。

 このようなモノ作りのあり方が、人口減少社会を迎えた日本でのこれからのビジネスモデルの一つといえるのではないだろうか。

 

◇上間常正氏は、朝日新聞デジタルのウェブマガジン「&」でもコラムを執筆しています。

上間常正(うえま・つねまさ)

1947年東京都生まれ。東京大学文学部社会学科卒業後、朝日新聞社入社。学芸部記者として教育、文化などを取材し、後半はファッション担当として海外コレクションなどを取材。定年退職後は文化女子大学客員教授としてメディア論やファッションの表象文化論などを講義する傍ら、フリーのジャーナリストとしても活動。また一方で、沖縄の伝統染め織を基盤にした「沖縄ファッションプロジェクト」に取り組んでいる。

 

 

 

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