上間常正のファッションノート

紳士服のクラシックトレンド、考えるべきダンディズムとは?

 

 男性ファッションの世界ではこのところ、「クラシックスタイル」が注目されているようだ。クラシックといえば、きちんと仕立てられたスーツが基本で、ネクタイも欠かせない。蝶(ちょう)ネクタイを最近よく見かけるのも、その一つの現れかもしれない。この11月には、紳士服業界の各分野の専門家たちが集まってクラシックスタイルを推奨することを目指した「ユナイテッド・キングダム・ジェントルメンズ・クラブ(U.K.G.CLUB)」が設立された。

 東京・神田一橋の学士会館で開かれた発足会での説明によると、その目的はただ一つ、紳士服ファッションビジネスの活性化のため。キーワードがクラシックなのは、男性ファッションは今でもあくまで「スーツが基本」だということ。その基本が服装の自由化、カジュアル化などの流れの中であいまいになり、きちんとしたクラシックスタイルの服の売り上げが長期的に低下。それが男性ファッションビジネス全体の長い低迷につながっている、との考えからだろう。

キャプション① U.K.G.CLUBの発足会で説明する出石尚三会長(右から2番目)
11月9日
キャプション② 雑誌「FOP」の創刊号ダミー

 クラブの会長で服飾評論家の出石尚三さんは「多様化した消費者ニーズを重視し過ぎたことがいけないのでは。正統派のまっとうな服をアピールして伝えていくことが必要だと思う」と語った。メンバーは約50人で、アピールのためのさまざまなイベントやビジネスへの助言をするほか、同人誌的な月刊の雑誌「FOP」を発行・販売する予定という。

 今年初めに開かれた2012年秋冬メンズコレクションでも、「クラシック」がメーンテーマの一つだった。多くのブランドが19世紀末から20世紀の初めにかけてスタイルとして確立された端正な三つぞろいのスーツやコートなどを発表した。このところ続いていたカジュアル化の流れに棹(さお)さしたわけだが、この変化にはどんな意味があるのだろうか?

 例えばプラダは、かっちりしたフロックコートやサルトリア仕立ての正統派スーツ。それを着た年齢や体形もまちまちな個性派男優たちを、モデルとしてショーに登場させた。いつもは派手好みのドルチェ&ガッバーナも、黒のテーラードスーツやコートに黒の蝶ネクタイを付けた男たちをりりしく行進させた。英国発のブランド、バーバリー・プローサムのテーマは、そのものずばりの「ザ・ジェントルマン」。英国紳士たちが田舎の領地で着ていたようなツイードのジャケットなどを並べた。

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2012年秋冬ミラノ・メンズコレクション プラダ プラダ
2012年秋冬ミラノ・メンズコレクション ドルチェ&ガッバーナ ドルチェ&ガッバーナ

撮影=大原広和氏

 報じられた各ブランドやデザイナーの説明をまとめると、こうしたクラシックスタイルは男性本来の力強さをいま改めて表現してみたということらしい。それは確かに、一見するとカッコよくて頼りがいもありそうに映る。だが、もう200年近く前にカッコよかったスタイルが今でもそう見えることがよいのかどうかは別の問題だ。

 いわゆるクラシックスタイルのスーツは、19世紀初めごろに英国で随一の伊達者(だてもの=ダンディー)とうたわれたジョージ・ブランメルによって確立されたとされている。18世紀までの男性の服が女性服と同じように色と装飾が過剰だったのに対して、ブランメルは黒と無装飾で統一した今のスーツの形を自らのスタイルとして打ち出した。彼は貴族でも正業をもつブルジョアでもなかったが、その服装の誰も及ばない洗練度とどんな権威や世の大勢にもおもねらない超然とした冷笑的な生き方に当時の国王さえもがひれ伏した。

 ブランメルの服装スタイルは、シンプルで活動的であり、男性的な権威とセクシーさをも表現していると受け止められた。そしてそれが近代の男性中心の産業社会の中で働く男性の象徴的な制服のようになってしまい、今に至るまで続く結果となった。紳士服のクラシックスタイルをうたうとすれば、それはダンディズムについてどう考えるのかを避けて通るわけにはいかないだろう。

 ブランメルが最も軽蔑して冷笑を浴びせたのは、貪欲(どんよく)や肥満、蓄財、繁栄、そして世の流れに同調することで結果に対して責任から逃れようとする態度だった。彼のこうした批判的な思いは、時代の変わり目だった当時にもまして今の方が必要とされているのではないかと思う。今の政治家や経済人たち、そして不満や不安を感じながらも大勢に同調している多くの働く人たちの姿には、ダンディズムがあまりにも欠けていると思うからだ。

 クラシックスタイルがトレンドだとすれば、それを評価したい理由はもう一つある。シーズンごとの変化にとらわれず、長く着ることにつながることだ。もちろん上質のものを選ぶ必要はあるが、長く着ることが結果として、ものを作り過ぎて資源や環境問題で行き詰まってしまった今の時代をなんとか打開していくためのヒントになるのではないか、と思う。

 

◇上間常正氏は、朝日新聞デジタルのウェブマガジン「&」でもコラムを執筆しています。

上間常正(うえま・つねまさ)

1947年東京都生まれ。東京大学文学部社会学科卒業後、朝日新聞社入社。学芸部記者として教育、文化などを取材し、後半はファッション担当として海外コレクションなどを取材。定年退職後は文化女子大学客員教授としてメディア論やファッションの表象文化論などを講義する傍ら、フリーのジャーナリストとしても活動。また一方で、沖縄の伝統染め織を基盤にした「沖縄ファッションプロジェクト」に取り組んでいる。

 

 

 

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