マーケティングのデジタル化 カギ握る 共感できるコンテンツマーケティング

 ITやビッグデータを活用した「マーケティングのデジタル化」が急速に進んでいる。 電通ビジネス・クリエーション・センター事業開発室事業プロデュース2部シニア・デジタル・プランニング・マネージャーの魚住高志氏は、「ここ1、2年で、マスメディア広告からリテンション(顧客維持)までを一気通貫できるようになった」と話す。デジタル化するマーケティングの現状、広告会社やメディアビジネスの潮流などについて聞いた。

デジタル化で一気通貫のマーケティングが可能に

──マーケティングのデジタル化が進んだことで、広告やメディアの世界にはどのような変化、潮流がありますか。

魚住高志氏 魚住高志氏

 マス広告などでユーザーの認知を得て、顧客を獲得し、最終的にロイヤルティの高い顧客に育てるという、マーケティングの一連のフレームワークがあります(図1)。「広告マーケティング領域」においては、デジタル化が進んだことでターゲティングの精度が格段に上がり、本当に狙いたいユーザーに対して最適な広告を配信できるようになってきています。

 一方、新規顧客が購入や契約に至ったり、さらには再び利用してもらったりするためのアフターフォローのサービスが、「営業マーケティング領域」です。この領域では、コールセンターや営業スタッフなど、顧客との最終的な接点においてどのようなコミュニケーションが効果的かつ最適かを、デジタルマーケティングやAIなどのIT技術によって分析できるようになりました。

 それぞれがデジタル化によって進歩したものの、これまで多くの企業でこの二つのマーケティング領域は分離していました。ところがここ1、2年で、様々なデータを統合、管理するプラットフォームDMPの普及などにより、マス広告からリテンション(顧客維持)までを一気通貫できるようになったのです。

──具体的にはどのような事例がありますか。

 たとえば自動車会社の顧客情報連携による、業務効率化があります(図2)。これまで、広告マーケティング領域はメーカー側、営業マーケティング領域は販売店側が主に担い、各社が保有するデータも完全に分離していました。同じ顧客なのに、それぞれ別人として登録されているというケースさえありました。

 その各社のデータを統合・共有することで何が起きたか。クルマの購入を検討するユーザーが、メーカーのウェブサイトで検索したログという行動履歴を販売店が共有できれば、来店時にふさわしい車種を提案するなど最適な営業活動につながります。

 一方メーカー側は、どのようなユーザーにどんなプロモーションを仕掛ければ購買に結びつきやすいかを把握でき、ウェブ広告の最適なターゲティングが可能になります。さらに上流の、マス広告も効果的にプランニングできる。「一気通貫」したマーケティング施策を行えるようになるのです。

共感できるコンテンツマーケティングがカギ

──そうした広告主の動きを受け、広告会社はどのようなコンサルティングやソリューションを提供しているのでしょうか。

 広告会社はこれまで、広告マーケティング領域が主戦場で、その先の営業マーケティング領域まではサポートしきれていませんでした。しかし、クラウドサービスなどITが身近になったことにより、すべての領域を対象にできるようになりました。

 当社ではこの8月、対面型営業活動の効率化をデジタルマーケティングで支援するサービスを開始しました。自動車や保険、不動産など対面型営業をする業種では、顧客自身がウェブで情報収集をするようになり、さらに住宅や企業のセキュリティー対策などで、営業スタッフが「お客さまに会えない」という課題を抱えています。対面型営業はライフステージが変わる時が大きな商機ですが、会えなければ状況もニーズもわからない。そこで、非対面データの活用を通じ、顧客ニーズを把握できるようにするのがこのサービスです。

 一方顧客からすると、One to Oneになればなるほど「気持ち悪さ」も感じてしまいがちです。距離感の取り方や表現は、実はクリエーティブが力を発揮します。そういう意味で、広告会社の強みを生かせると考えています。

──メディアのデジタル化が進み、メディアビジネスは今後どのように変化していくと見ていますか。

 メディアが持つコンテンツの周辺に広告を掲載するのが、従来の広告モデルです。それは、一過性の認知を獲得するためには有効な施策です。しかし現在のマーケティングでは、顧客との関係構築、維持、強化に力点が置かれるようになってきています。そうした中で、今後は「コンテンツマーケティング」がメディアビジネスのカギになると見ています。

 新聞社を例にすると、記事や主催イベントといったコンテンツに付随する広告枠を単純に提供するという考え方から、コンテンツのファンを広告主の潜在客として管理し、広告主も「同じ立場のファン」と見える形で潜在客に情報を提供する。ファンにとって、コンテンツ同様に広告主を好きになってもらうような場を、新聞社側が提供することが重要と考えます。そのためには、認知レベルだけでなく、「共感できるコンテンツ」を開発し、そこに集うファン(潜在客)と広告主がつながるようなマーケティングの提案が求められるでしょう。

魚住高志(うおずみ・たかし)

電通ビジネス・クリエーション・センター事業開発室事業プロデュース2部シニア・デジタル・プランニング・マネージャー

2004年電通入社。ビッグデータ領域での事業プロデュースやクライアントコンサルティングに従事。特に、ITベンダーやベンチャー企業とのアライアンス推進や、O2O(オンライン・ツー・オフライン)やメディア測定領域での電通オリジナルのビッグデータソリューション開発を推進。日本マーケティング協会「マーケティングマスター」。