地域の魅力づくり 成功のカギは民間を交えネットワークを広げること

 地方創生に対する意識は、少しずつ高まってきているという。地方は自立したフロー経済を目指し「稼ぐ」という意欲が芽生え始め、民間企業は「そろそろ地方で事業を興さないと」と思われるようになったと、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局・内閣参事官の村上敬亮氏は語る。地域をとりまく現状の課題と、具体的な事例について聞いた。

「かっこいい」 の循環で地域を活性化

──地方創生を推し進める上で、地域の課題を教えてください。

村上敬亮氏 村上敬亮氏

 地方創生の一番の問題は、地方が困っていると思っていないこと。例えば、地域の暮らしを大切にしている人は、土地を簡単に売りません。土地にひもづいた人だけが暮らしていける社会的な積み上げがあり、それを孫の代まで維持しようとする。ファミリービジネスと同じような構造です。すなわち地方は、東京のようなフローベースの経済ではなく、ストックベースの経済で成り立っていました。

 しかし、土地を譲るはずの子どもたちは、家に戻っていないのが現状です。地方から東京圏への人口流出は、安定して年間10万人を超えています(総務省調べ)。30人未満の事業所の離職率は、4割以上とのデータもあります(厚生労働省調べ)。その結果、地方では何が起きているかと言えば、高齢化と働き手の不足です。人口減少の時代に突入し、国が地方を支えるだけの財政的余裕もなくなってきた。もはや、ストックベースの経済では立ちゆかなくなっています。補助金に頼らず地方が自立するためには、東京のようなフロー経済を目指す必要があるのです。

 私たちは、自らの地域資源を活用し、若者が働きたいと思える新しい仕事は、地方でも作れるのではないかと考えています。けれども、地方ではリアリティがなく、「困っている」と思っていないのです。

 地方経済の疲弊と人口減少を食い止めるためには、若者が働きたいと思える新しい仕事が必要です。役人らしくないことを言えば、仕事はかっこよくないとダメ。10年後の大きな夢に対して、今日や明日のモチベーションを維持できる立派な人は少ないからです。そのとき何が支えるかと言えば、人間関係や自分が「かっこいい」と思えるかどうか。若者に注目されるような仕事ができれば、人も集まりやすくなる。人が来れば、さらに仕事も増える。その循環が確立すれば、地域も徐々に活性化されていくはずです。

地域の魅力をつくる民間を支えたネットワーク

──具体的に何か動きはあるのでしょうか。

 ここ1、2年で、地方創生に対する風向きは変わってきました。地方自治体も「稼ぐ」という意欲が芽生えてきていると思います。一部上場企業では「地方創生」や「まち・ひと・しごと創生」といった名称の組織が明らかに増えてきました。政府が主導する地方創生の流れが継続するのではないか、と期待を寄せ始めていることが分かります。だからこそ、政府は、その信頼にどう応えていくかが問われています。

──成功している事例があれば教えてください。

宮崎県日南市油津商店街の「アブラツコーヒー」<br>(c)油津応援団 宮崎県日南市油津商店街の「アブラツコーヒー」
(c)油津応援団

 宮崎県の日南市は「創客創人」というコンセプトで、地方創生に取り組んでいます。3年ほど前、日南市は、シャッター通りと化していた油津商店街を立て直そうと、月給90万円で街のコーディネーターを募集しました。条件はただ1つ、4年でテナントを20店誘致すること。すると、333人の応募がありました。3年経った今、15店が出店しています。

 コーディネーターに選ばれた木藤亮太さんは、街のコンサルティングを手がけていた方です。最初の1年は、アーケードをレーンに見立てた「商店街ボウリング」や親子で参加する「運動会」など、地域の人が商店街に思い出が残るようなイベントを開催していました。「商店街が気になって仕方ない」という人を商店街の外側に量産したのです。他にも、若い社員が働いているIT企業も誘致し、6つ事業所を開くことが決まりました。商店街は「自由に楽しんでいい場所なんだ」という空気になり、次から次へと出店が決まるという好循環が生まれています。ハードの改革は、廃業していたスーパーの真ん中に広場を作り、屋台や店舗スペースを新しく設けるなど、特別なことはしていません。

青森県佐井村「ヒラメの豊盃粕漬け」 青森県佐井村「ヒラメの豊盃粕漬け」

 青森県佐井村では、市役所の職員と地域プロデューサーがタッグを組み、村の特産品「ヒラメの豊盃粕漬け」をシャープのウォーターオーブン「ヘルシオ」とコラボレーションをして販売しました。そのニュースが朝日新聞に掲載されて話題となり、IT企業の社内販売商品にもなりました。

──地域の魅力をつくるために大事なことは。

 ネットワークが重要です。日南市も佐井村も、民間の力を借りてネットワークを広げています。内輪で考えていては、新しいことは生み出せないのです。それは、東京でも地方でも同じ。東京で民間企業が事業を興すとき、まずは詳しい人に話を聞きに行き、外部から資金を集めてこいと言われます。しかし、地域の人は、今のメンバーで何をしようか考え、メインバンクに行って融資の相談をする。それでは、東京でもうまくいきません。

 地域で活躍できる人材の育成は課題の1つです。政府では「地方創生カレッジ」というバーチャルな専門機関を創設する計画です。地方創生の成功事例や、既存のプログラムなどを共有するだけでなく、海外の最新プログラムを翻訳して提供する予定です。

 個人的には、20代や30代の人たちが地域で事業を興して成功したら大企業が引き抜いて幹部にするような人事システムがあったらいいな、と思っています。地域での成功がグローバルの仕事につながったら、若者も将来に希望が持てるはずです。

村上敬亮(むらかみ・けいすけ)

内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局内閣参事官

1990年通商産業省(現経済産業省)入省。メディア・コンテンツ課長、地球環境対策室長、資源エネルギー庁新エネルギー対策課長を経て、2014年より現職。