受験は学校でも家庭でも団体戦 受験生の目標を高く保つには?

 ひと昔前とは違って、受験する10代を取り巻く教育環境は、様変わりしている。
例えば「親子でオープンキャンパス」「クラスで教え合う“団体戦”」「大学は保護者やOBへの訴求が不可欠」。 長らく進学情報を扱う大学通信の安田賢治氏が、進学にまつわる最新の事情をひもとく。

学校名にはこだわらない

──まず、今の大学入試を取り巻く変化について教えてください。

安田賢治氏 安田賢治氏

 現役志向、地元志向、安全志向。この3つが、昨今の大きな傾向です。

 第一に、大学は少子化と大学数の増加により、比較的入学しやすくなっています。18歳人口は1992年の205万人をピークに現在120万人まで減少し、将来、100万人を切るスタートとなる「2018年問題」が注視されています。大学数はこの20年で1.5倍ほどに増え、現在約780校。難関校でも競争が少し緩くなり、私大の45%で定員割れが起きています。現役志向には家計の事情もあり、リーマン・ショック以降は特に顕著です。

 地元志向の背景にも、不況の影響がありますね。東大や早慶でも今や6~7割が一都三県からの合格者で、ローカル化が進んでいます。

 安全志向というのは、家庭環境も含めた自身の状況を受け、堅実な選択をするという今の高校生の意向が表れています。東京の私大より慣れ親しんだ地元の国公立大、と考えると地元志向にも関係しています。

──環境変化を踏まえて、地に足の着いた選択をしている印象ですね。

 そうですね。大学名にもこだわらなくなりました。今は「有名校は就職に有利」ということもあまりなく、就職活動で学校名を書かせない企業も増えました。入学後に留学するなど、自分でがんばる風潮があります。

 早稲田大学ならどの学部でも、といった併願もほとんど消え、将来の進路に応じて、レベルの違う複数校の縦の併願が増えています。これは高校のキャリア教育の影響もありますが、将来の仕事を見据えた就職志向が強いことが反映しているといえます。特に最近では看護系の学科が人気で、全国で244校が開設しています。

──高校や中学入試はどうですか?

 高校入試は、不況の影響と、各都道府県で学区制の廃止が進んだこともあり、一時期は人気だった私学から公立に回帰しています。東京都では2001年に指定が開始された「進学指導重点校」も人気です。

 中学入試も「公立のゆとり教育が心配」と私学志向が強かったのですが、家計の事情と、人気の公立中高一貫校の増加もあって、やはり公立回帰が進んでいます。

受験は「孤独」から「団体戦」へ

──今の高校生の情報収集や勉強の仕方について、教えてください。

 まずネットと受験雑誌で情報収集、それからオープンキャンパスへの参加が当たり前になっています。親子での参加も多く、本人よりお母さんの方が積極的だったりしますね。

 勉強の仕方は、昔とはまったく異なります。かつての孤独なイメージはなく、今や受験は「団体戦」。教え合って「クラス皆で合格しよう」といった雰囲気になっています。放課後も、皆で自習室やファストフード店で勉強し、家ではくつろいだり。

 実際、団体戦だと成績も上がるので、高校側もこれを推進しています。さらに「弱気にならなくても大丈夫」と個別に声をかけ、目標を維持させる。実績が伸びた高校に聞くと、やはり皆さん一人ひとりの背中を押すことに力を入れています。

──大学側の学生集めの工夫は?

 通いやすいようにキャンパスの都心移設や、人気の看護や医療系、グローバル系学部の新設の動きがあります。学生寮も経済面、生活面とも保護者に人気なので、増えています。また、Uターン就職のサポートも有効です。地方からも優秀な生徒に来てほしい大学は、地元で就職してほしい保護者に応えるため、地元市役所や企業、OBの組織とのパイプを強化して情報提供に力を入れています。各地で保護者会も行われています。

 大学にとって、保護者と、寄付をしてくれるOBは非常に大きな存在です。彼らへ大学の現状や姿勢をメッセージとして伝えることは大切で、そのためには、やはり広告は有効ですね。特に新聞は、ターゲットの側面からも使いやすいと思います。

──サポートする保護者のポイントは何でしょうか?

 情報収集も含めて、家庭でも団体戦です。高校+塾や知人のセカンドオピニオンを参考にする保護者が多いです。模試の結果を踏まえて、早くに志望校を下げてしまうと、入れそうな学校で満足して元の志望校へは戻れないので、励まし続けて最後に現状に促して調整するといいでしょう。

 ただし、中高の入試も同じですが、本人の第一志望には挑戦させてあげてほしいと思います。「浪人は無理」など事情はあるでしょうが、挑戦しないと悔いが残りますから。

安田 賢治(やすだ・けんじ)

大学通信 常務取締役

1956年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、大学通信入社。現在、常務取締役。大正大学で非常勤講師も務める。自社出版物では、「君はどの大学を選ぶべきか」などの大学案内書・情報誌や、「中高受験年鑑」をはじめとする中学高校案内書・情報誌を編集。
著書に「中学受験のひみつ」(朝日出版)、「笑うに笑えない大学の惨状」(祥伝社)。