あのころの若者を再びゲレンデへ ファミリー向けのスノーリゾートに

 日本経済が好景気にわいた1980年代後半から90年初頭にスキーブームをけん引し、若者たちのあこがれの的であったプリンスホテルのスノーリゾート。志賀高原プリンスホテルや万座プリンスホテルは、87年公開の映画『私をスキーに連れてって』の舞台にもなった。事業企画部課長(スキー事業チーム)の安齋義直氏に、当時の様子と、好景気世代をターゲットとした現在の新しい取り組みについて聞いた。

トレンドに敏感な若者がスノーリゾートに殺到 男女の出会いの場としても人気に

──第2次スキーブームと言われた好景気の頃、プリンスホテルのスノーリゾートが大人気でした。

安齋義直氏 安齋義直氏

 増え続けるお客様に対応するため、各スキー場でゲレンデを拡張した他、シングルリフトが当たり前だった時代に、4人乗りリフトやゴンドラ、大型ロープウェーなどを積極的に導入しました。それでもリフト待ちの列が絶えない人気ぶりでした。

 首都圏からのアクセスも充実を図り、バス網を持つ西武グループの強みを生かしてスキー場直行の高速バスを走らせたり、JRと協力し、プリンスホテルのリゾートを利用されるお客様専用の「スキートレイン」を妙高高原などに走らせました。

──プリンスホテルのリゾートがそこまで人気を博した要因は何でしょうか。

 当時はネットがないので、個人のお客様のホテル予約は電話で受け付けていましたが、苗場プリンスホテルでは電話が一日中鳴りっぱなしだったと聞いています。立地の良さ、安心・安全なスキー環境に加え、ゲレンデと宿泊施設が隣接していたことが大きな強みになっていたと思います。民宿やロッジからゲレンデまで重いスキーをかついで行くスタイルが主流だった時代に、ホテルの目の前がゲレンデというロケーションは魅力的でした。当社はスキー場とホテルを一体として開発運営しているため、立地がいいのです。

 もう一つの大きな特徴は、スキースクールやスノーボードスクールが充実していることです。第一線で活躍した選手が指導にあたるスクールもあります。

──当時、若い世代のニーズをどのように捉えていましたか。

 トレンドにとても敏感で、スキー板やウエアを毎年買い替えるのが当たり前という時代でした。当社としては、スキーウエアや道具のレンタルも最新のトレンドのものをそろえていました。それは今も変わっていません。

 また、男女の出会いの場をゲレンデに求める人も多かったようです。当社のスノーリゾートで生まれたカップルが、後に都内などのプリンスホテルで結婚式を挙げるといったことも多くありました。

 男女が一緒に楽しめるイベントなども人を集めました。81年に始まった苗場プリンスホテルでの松任谷由実さんのコンサートは今日まで30年以上続いています。同ホテルには当時ディスコがあり、アフタースキーの楽しみとして連日大変なにぎわいを見せていました。

※画像は拡大します

リフト待ちの列が長く伸びる苗場スキー場(1990年1月 本社撮影) リフト待ちの列が長く伸びる苗場スキー場
(1990年1月 本社撮影)
2011年に50周年を迎えた苗場スキー場の特設サイト スキーウエアの変遷など懐かしい画像が見られる 2011年に50周年を迎えた苗場スキー場の特設サイト
スキーウエアの変遷など懐かしい画像が見られる

子どもをターゲットとした施策が奏功し、スキー人口増の明るい兆し

──しかし、ある時期から、スキー・スノーボード人口は、減少傾向が続きました。

 「レジャー白書」によれば、スキー・スノーボード人口のピークは1,890万人を記録した1993年で、それ以降、減少の一途をたどり、2007年には960万人まで落ち込みました。当社として打開策を探る中で、好景気当時のスキー経験者層が子育て世代になったことに着目し、昨シーズンより「キッズフリープログラム」を実施しました。

 スキーは、親御さんがお子さんの幼いうちに教えて始めるケースが多いスポーツなので、ゴルフなどと違って30代、40代から始めるにはややハードルが高いスポーツです。その分、幼少期に親しむ環境をいかに提供できるかが将来へのカギになります。結果、昨シーズンのお子様利用合計は前年比で約1.5倍に、利用客全体の合計は約4%増となりました。

──「キッズフリープログラム」の具体的な内容は。

 小学生以下のお子様のリフト料金無料のほか、特定日・人数限定ではありますが、スキー用品のレンタル料金、レッスン料金などを無料にしました。今シーズンは、価格的なサービスに加え、貸し切りゲレンデや物づくり体験など、祖父母世代も含めた3世代で楽しめる企画も充実させました。

 「パンダルマンマジックレッスン」など、子ども向けのレッスンも工夫をこらしています。レッスンのオリジナルキャラクターである「パンダルマン」というキャラクターは、お子様たちに大人気です。

苗場プリンスホテルに新設されたファミリールーム(写真提供:プリンスホテル) 苗場プリンスホテルに新設された
ファミリールーム
(写真提供:プリンスホテル)

──ホテルにおける施策は。

 苗場プリンスホテルでは昨年大規模な改装を行い、室内にハンモック、お絵かき用の黒板、ミニクライミングボードなどがあるファミリールームを設け、大変ご好評をいただいています。

──ソチ五輪を契機にウインタースポーツへの関心が高まっています。この機を捉えた施策は。

 ソチ五輪では、様々な種目で日本人選手が活躍しました。当社のスノーリゾートにはモーグルバーンやハーフパイプなどの施設やレッスンも充実していますが、まだまだ知らない方も多いので、ウェブサイトなどを通じて訴求を強化していきたいと考えています。

──好景気当時に若者だった40代後半から50代の、現在の消費行動をどのように見ていますか。

 趣味やレジャーなど余暇の充実や、お子さまやお孫さまにかける出費を惜しまない方が多い印象があります。当社では、スノーリゾート以外にも、いわゆるバブル世代をターゲットとした企画を行いました。例えば、グランドプリンスホテル新高輪では、「PRINCE DISCO」と銘打ったディスコイベントを開催。音楽、ファッションなど80年代のカルチャーを楽しめるイベントで、大変盛況でした。

──今後の課題は。

 親子や3世代向けの施策に加え、20歳前後の若年層のスキー・スノーボード人口の拡大も目指していきます。学割や3月の平日限定「20才リフト¥1,000」、バレンタインデーのオールナイト営業、ゲレンデでの合コン「ゲレコン」なども行っています。また、「インバウンド」対策にも力を入れています。あらゆる施策を通じて、スキーの活性化を図っていきたいですね。