企業とメディアをマッチング クールジャパンをビジネスに

 電通は11月25日、クールジャパン関連事業に全社を横断する組織で対応、支援するプロジェクト「チーム・クールジャパン」を始動させた。これまでもコンテンツやイベントなどの海外展開を積極的に進めてきた同社が新組織で旗印とする、これからの「クールジャパン戦略」とは。同チームのリーダーで、ラジオテレビ&エンタテインメント局 部長の野上 章氏に話を聞いた。

「日本的ないいもの」を現地でビジネスとして花咲かせることが使命

――「チーム・クールジャパン」を創設した経緯、組織の概要を聞かせてください。

野上 章氏 野上 章氏

 2013年11月、官民共同で運営する株式会社海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)が発足しました。「チーム・クールジャパン」は、この国を挙げた動きをきっかけに創設したプロジェクトチームです。メンバーは40人余り。海外展開しているクライアントの担当営業に加え、メディア関連や様々なソリューションを提供する部署から各1、2人が集まり、テーマに合わせてユニットを編成し、情報の共有と具体的なビジネス展開に向けた議論を行っています。

――電通ではこれまでも、いわゆる「クールジャパン」といえるプロジェクトに積極的に取り組んできました。現地での実績や反響はどうでしたか。

 一例をあげますと、担当者がチーム・クールジャパンのメンバーにもなっていますが、2011年、インドネシアのジャカルタでAKB48の海外姉妹グループ「JKT48」が結成され、その立ち上げを支援しました。拠点となる劇場を作ることから、ダンス指導、コミュニケーションに至るまで、AKB48を担当していた人材を派遣するなど、日本でのノウハウを活用して運営しています。結成から2年余り経ちましたが、現地メディアが主催するアワードを多数受賞するなど、人気、実力とも国民的なアーティストに成長しつつあります。日系企業の現地法人がスポンサーとして同グループを支援、現地でのコミュニケーションに起用する事例も増えてきました。インドネシアは世界的に見ても人口が多く、若年層も多い。JKT48を通じて日本の文化や日本的なものに触れてもらうことで、日本に興味を持ってもらう入り口になればいいですね。今後は、さらにエリアを拡大していく構想もあります。

※画像は拡大します。

「JKT48」 AKB48からの留学生3人を含みメンバー総勢47人(12月20日現在) 「JKT48」 AKB48からの留学生3人を含みメンバー総勢47人(12月20日現在)

 また、2013年2月には、日本コンテンツ専門のテレビチャンネル「Hello! Japan」をシンガポールに立ち上げました。これまでも日本の番組数本を現地のチャンネルで放送していますが、日本の放送局と連携した「専門チャンネル」というプラットフォームそのものを立ち上げるというのは新しい試み。2013年夏の調査では、おおむね順調に視聴者を獲得してきているようです。東南アジアのハブであるシンガポールを基点に、こちらも順次放送エリアを広げていく予定です。

 いずれも事業として十分な収益を上げるにはもう少し時間がかかる見込みですが、「日本イズムで結成した現地のアーティスト」「放送局というプラットフォーム」という形態でスタートしていることに大きな意義があると思います。今後、クールジャパンを現地産業として構築していくには、非常にいい流れでスタートを切れたととらえています。

――「クールジャパン」の新しい動き、潮流は。

 よりビジネス的な視点でとらえられるようになったと、私は解釈しています。以前は「『日本的ないいもの』に光を当て、海外の人にも知ってもらおう」で終わっていましたが、最近は「知ってもらった上で、それに付随したビジネスとマッチングし、日本企業が海外マーケットを獲得する仕組みをどう作るか」というところまでを意識するようになりました。かつて、日本のコンテンツが海外で流行したにもかかわらず、残念ながらそれが経済的な枠組みの獲得まで至らなかったことなどが礎になっているのかもしれません。

国内外の事業を同じフィールドで見渡し日本国内へのインバウンドにつなげる

――クライアント企業の反応は。

 クールジャパン機構が発足したことで、関心も意識も高まり、当社への相談や問い合わせも増えています。ただ、特に大企業は、国内事業と海外事業を統括するラインが分かれているなど、社内でもマッチングする態勢が整っていない企業が多いようです。そもそもクールジャパン戦略は「日本ならではの魅力を海外で展開し、日本企業が海外市場を獲得すると同時に、それによって国内へのインバウンドにも結び付けていく」ことが根本にあります。これまでは、海外進出の際には日本のやり方ではなくローカライズして……といった具合に国内事業と切り離して考えていた企業も、今後は国内と海外を同じフィールドで見渡し、判断する必要が出てくる。実際、そういった機運は今後どんどん高まっていくのでは、と見ています。

――今後の課題、展望を聞かせてください。

 コンテンツ、商品、サービスはもちろん、農業、教育、科学技術、ヘルスケア、インフラなど、クールジャパンの分野は多岐にわたります。しかし、「日本的ないいもの」も、ただ海外に持って行くだけでは産業として成り立たない。付随するビジネスと結び付け、海外市場を獲得していくことが大きな課題です。また、中小企業や地方にあるクールジャパンの要素をどうビジネスに集約していくかという点も課題です。チーム・クールジャパンでは、①大企業②中小企業③メディアコンテンツ企業、という三つの柱を立て、各分野ごとの支援を積極的に進めていきます。

 ビジネスとして構築していくことはもちろん重要ですが、同時に、未来の日本のために取り組んでいくべきだと考えています。クライアント企業の皆さんが国の戦略と連携することでビジネスを拡大させ、日本経済の活性化はもとより、ひいては世界における日本のブランディングにつなげていかなくてはなりません。ようやく官民が一体となって「クールジャパン」という方向に向かおうとしている今、クライアントである民間企業、国、そして「先兵」となるコンテンツ業界ともつながりがある当社は、様々な業界や企業の意向や情報を集約し、それをマッチングさせていく役割を担っていかないといけないと思います。

Hallo!Japan Hallo!Japan

 さらに、JKT48や「Hello! Japan」のように、電通自体が事業に深く関与したり、ときには事業主体になったりする取り組みをもっと増やしていければと考えています。例えば今、私が注目しているのは「教育」です。日本的な商品・サービスの良さは実は日本的な価値観に支えられている部分が大きいと思っています。日本の国内ではその価値観は前提にできるので、各企業は差別化のレイヤーで品質やサービスの研究やコミュニケーションを設計していることが多いと思います。しかし、海外ではその前提となる価値観や習慣がない場合が多く、日本で設計した商品・サービスをもっと受け入れてもらうには、商品・サービス自体の理解を深めるコミュニケーションの前に、その価値観・習慣のズレを埋めるコンテクスト(文脈)を作る「教育的コミュニケーション」が必要だと考えています。デジタル教科書の取り組みが日本を含め各国でも始まっていますが、スマホやタブレット端末を教育ツールとしてそのようなことが取り込めないか、現在構想中です。今後、様々な事業構築に向けてチーム・クールジャパンがハブの役割を果たし、社内の情報やノウハウを結集して推し進めていきます。