「クールなもの」を事業として根付かせ インバウンド効果も意識

 博報堂は2013年11月、クールジャパン関連事業に対応する組織「クールジャパン推進室」を設立した。この組織を中心に、同グループの強みであるメディアと企業のマッチング、コンテンツ消費動向の調査などを武器に、クールジャパン戦略に一手を打つ。博報堂出版・コンテンツビジネス局の局長でクールジャパン推進室 室長の山本 浩氏に、同グループが推進する取り組みなどについて聞いた。

企業とメディアをつなぐ役割を担う インドのアニメが成功事例

山本 浩氏 山本 浩氏

――「クールジャパン推進室」発足の経緯、狙いを聞かせてください。

 昨年11月、官民合同の「株式会社海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)」が設立されました。博報堂DYグループも同社に出資しています。この機構の一員として、今後様々な事業を進める上で、社内外をつなぐ窓口となる部署として発足したのが「クールジャパン推進室」です。

 クライアントの海外展開のお手伝いはもちろん、クライアントやメディアと組み、当社もプレーヤーとして主体的に事業に取り組むことを視野に入れており、その際もクールジャパン推進室が中心的な役割を果たしていく考えです。

 また、中小企業がクールジャパンのような取り組みをしたくても、リスクやコストを考えると思い切って海外に進出できないケースが多いのが実情です。農産物を含めた地方産品、伝統工芸なども可能性があると思いますが、単体では規模が小さすぎて海外事業として拡大できないケースが多い。そうした小さな取り組みと関連する企業やメディアを結び付けることでプラットホームを作ることが重要で、それこそがわれわれが得意とするところです。このマッチングの役割についても、新部署が中心となって取り組んでいきます。

――これまで博報堂が関わったクールジャパンとしての取り組みは。

 一昨年、博報堂は、講談社とトムス・エンタテインメントと共同でクリケット版「巨人の星」“Suraj The Rising Srar”(スーラジ・ザ・ライジング・スター)をテレビアニメとして制作し、インドで放送しました。このアニメに日本企業がスポンサーとして協賛し、単にCMを流すだけでなく、アニメ本編の中でもスポンサー企業の商品を登場させることで、「日本発のアニメ」ということをさりげなく訴求しました。「コンテンツを中心にいろいろな企業が連携する」という、クールジャパンのわかりやすい事例として経産省からも高く評価されました。

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「Tokyo Girls' Update」ホームページ 「Tokyo Girls' Update」ホームページ

 また、博報堂DYグループでは、2011年から社内公募型ビジネスアイデア募集・育成プログラム「AD+VENTURE(アドベンチャー)」をスタートしました。その最初のプロジェクトの一つが「STORIES・LLC(ストーリーズ)」です。小説、コミック、ゲーム、映画、テレビ番組などの日本のコンテンツやストーリーの映像化権を得て、ハリウッドなど海外市場向けの映画、テレビ番組にリメークする企画制作のベンチャー企業です。すでに複数のタイトルの企画が進んでおり、さらに、拠点が米国ロサンゼルスにある地の利を生かし、日本企業のCMを米国のスタッフを使って制作するといったコンサルタント業務も手掛けています。

 同じくアドベンチャーで13年度に設立したのが「オールブルー」です。日本のガールズポップカルチャーの最新情報を欧米やアジアのファンに向けて発信する情報サイト「Tokyo Girls' Update」を運営、すでに世界中で多くの会員を獲得しています。クールジャパンの「出口」として、実はこの種のプラットホームはありそうでなかったため、多くの反響、問い合わせがあります。今後、クライアント企業のクールジャパンの案件を進めるとき、そのターゲットが「Tokyo Girls' Update」の会員と親和性があれば、このサイトで情報発信をしていくことで、海外においてもコストをかけずにプロモーションを展開することもできるだろうと期待しています。

蓄積された調査データから、何が「クール」かを分析

――顧客企業の反応、反響はいかがですか。

 問い合わせは増えています。「日本市場だけではもはや成長戦略は描けない」という考えが共通しています。一方で、口をそろえて「これまでも海外に出てみたが、大きなビジネスにならない」と。ところが、同じような悩みを抱える各業界の方々を集めて話し合うと、他業種の事例を見て「そういうやり方もあるのか」と違う視点が見えてきます。

 また、「スーラジ・ザ・ライジングスター」の取り組みを通じ、現地で花を開かせるためには現地の優良なパートナーを見つけることが非常に重要だとわかりました。いろいろな企業、業種がそれぞれの立場からアイデアを出し合い、どんなパートナーと組むのがベストなのかを探っていく。これからのクールジャパン戦略を成功に結び付けるために、異業種をつないだり、取りまとめたりといったわれわれの強みを最大限に発揮していきたいと考えています。

――博報堂では、オリジナル生活者調査「Global HABIT(グローバルハビット・注)」を2000年からアジアと欧米の主要34都市で実施するなど、海外での調査の蓄積があるのは大きな強みですね。クールジャパン戦略における調査についての展望を聞かせてください。

 「Global HABIT」に加え、コンテンツに対する消費行動に関する調査をもう少し掘り下げていきたいと考えています。日本国内で博報堂と博報堂DYメディアパートナーズが共同で行っている、エンターテインメントやスポーツなどのコンテンツに対する生活者の消費行動の実態を把握する「コンテンツファン消費行動調査」が非常に興味深い結果を出しています。それをもとにコミュニケーションやプロモーションプランを設計する事例も増えています。このメソッドを活用した調査を東南アジアなどで実施できれば、現地の生活者のニーズや消費行動が把握でき、どんなコンテンツや商品、サービスに消費が生まれるのかなどが明確に見えてくるのではと期待しています。

山本 浩氏

――クールジャパン戦略の今後の展望、課題を聞かせてください。

 「日本人は当たり前で気付いていないが、海外から見たらクールなもの」がこれまでのクールジャパンの定義だったとすれば、これからはさらに「仕組み自体を事業として現地に根付かせていく」ことが重要と考えます。例えば、回転ずしは世界的に広まっていますし、最近ではスーパー銭湯が中国で人気を呼んでいます。日本の技術力と「おもてなし」の精神が支えるサービスなど、その仕組み自体が海外では「クール」と受け入れられているのです。まずは現地のマーケットや生活者のニーズや、どんなものがクールに映るのかを現地調査で把握しながら、必要な形にローカライズやカスタマイズしていくことも重要でしょう。

 クールジャパン戦略が最終的に狙うのは、インバウンドへの効果、つまり国内経済へのプラスの反響です。現地のスーパー銭湯で入浴の楽しさを知り、「じゃあ日本に行って温泉を体験してみよう」となれば、日本を訪れて消費も期待できる。その流れ、仕組みをどう作るかが課題です。2020年の東京オリンピック・パラリンピックという大きな追い風にうまく乗れるように、われわれの強みを生かして取り組んでいく考えです。

(注)「Global HABIT」=博報堂が、2000年から実施している海外生活者調査。世界主要36都市、15-54歳の男女を対象とした、のべ約19万サンプルのデータベースを常に更新し、生活者の最新意識と行動を分析している。