取引先だけでなく社会の様々な「組織」とのコミュニケーションを意識

 日本B to B広告協会は、1969年に設立されたB to B企業のコミュニケーション活動を支援する専門団体。発足当初から、B to B広告の知識、技術の向上、人材育成のための施策を展開し、産業界および広告界の発展に寄与している。同協会の副会長を務める堀場製作所の河内英司氏に、協会の活動内容や最近のB to Bコミュニケーションの潮流について話を聞いた。

個人もバーチャルな「組織」に所属 広がる「B to B」の定義

――日本B to B広告協会の活動内容を教えてください。

河内英司氏 河内英司氏

 当協会では、B to B広告の発展に寄与するため、各種の教育、啓発活動ならびに情報交換を行っています。現在の会員数は104社です。業界情報を発信する媒体として、専門誌「B to Bコミュニケーション」を毎月発行し、会員に無料で配布しています。また、主要上場企業および協会広告主会員から約2,500社を抽出し、B to B広告に関する実態調査を行い、そのリポートを提供しています。

 人材教育にも力を入れており、「B to Bコミュニケーション大学」という基礎講座や「B to Bコミュニケーションセミナー」なども開催しています。「大学」は、B to Bコミュニケーションを実践する上で必要な理論を体系的に習得できる集中講座で、東京と大阪で開催しています。全24講座で、概論から始まり、販売に結びつくカタログの作り方、営業担当のための顧客プレゼン手法など、大学教授や第一線で活躍されている専門家が講師を務めているので、彼らの実践に即した経験談などを聞くこともできます。

 本大学は「BMC広告マスター」という資格試験ともリンクしています。これは、協会が認定するB to Bコミュニケーションのスペシャリストのことで、これまで約300人の認定者が輩出しています。その他、日本B to B広告賞、B to B広告テクノコピー賞などの賞も毎年、実施しています。

――最近のB to Bコミュニケーションの潮流は。

 最近のように景気が停滞している時にはブランディング広告が増える傾向があります。これはCSRの名のもとで行われることが多いですが、企業の商品購入予算が抑えられた状況で、いくら商品広告を出稿しても結果が伴わないことがその要因です。一方で、景気回復時に一気にトレンドに乗る準備段階とも捉えられ、企業の信頼性を培うことのできる企業ブランド広告に力点を置こうという視点もあります。

 そもそも、B to Bのコミュニケーションは、ビジネスの相手となる特定の企業に向けたコミュニケーション戦略と思われがちなので、新聞やテレビなどで展開するような目立った広告活動をしていない企業も多いのが現状です。ただ、企業を取り巻く環境が、取引先企業との関係にとどまらず、ステークホルダーへの配慮や社会貢献などを重視する傾向にあるのは事実で、そのために一般向けのコミュニケーションを重視する企業も増えていると感じています。

――B to Bコミュニケーションと日本の社会について。

 今日の日本社会は個人が確立していて、普通はB to C社会だと考えられています。けれども、実は誰でもが何かの組織に属しているB to B社会という見方もできます。家族も組織の一つと考えられますし、友人とは今はネットワークでつながっていることが多く、フェイスブック、ツイッターなど、それぞれが一つの組織のようにみなすこともできます。すなわち、B to Bコミュニケーションといっても、Bである「組織」は企業に限ったものではなく、バーチャルな「組織」もあることは見過ごしてはなりません。

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 最近の若い人は、欲しいものがあるときに、自分が属する組織、例えばソーシャルメディアで「これ、どう思う?」と友人に尋ねて、買うかどうかを決めることもあるようです。つまり、個人の価値観よりも、属している集団の価値観を優先する傾向が徐々に強くなってきています。これはまさにB to B分野での意思決定や購買のメカニズムそのものです。そうした現状を踏まえると、B to C企業でも、対組織つまりB to B的なコミュニケーションを意識することが必要で、商品戦略やプロモーションにおいて、まずターゲットが属する組織(集まり)の価値観を知ることが大切になるのではないでしょうか。

情報が整理されて届く新聞の特性にあらためて気付く

――コミュニケーション手段のうち、新聞の役割についてはいかがでしょう。

 実は2年ほど前から新聞の講読をやめていました。ネット上の新聞社サイトが充実していますから、それで足りると思っていたのです。ところが、ある新聞がお試し講読として1週間、無料でポストに届けられ、あらためて紙の新聞を読み始めました。そして、重大なことに気付きました。ネットの新聞サイトの情報と紙の新聞を併読していたのですが、数日して頭の中がきれいに整理されていました。昨日の事件や政治情勢などを思い返す時も、まず新聞紙面が浮かび、「あのページの左上の記事だった」と、おぼろげながら思い出しました。さらに「見出しはこんな風で、写真が1点あった」とか、次々と記憶がよみがえってきたのです。

おそらく、新聞1日分の情報が「パターン認識」でインプットされていて、自然と整理されていたのだと思います。それは、記事の軽重があまり明確でないネット上の情報では得られない、新聞の大きな強みではないでしょうか。記憶再生に効率的な「パターン認識」ができ、しかも一日ごとにアーカイブして頭の中に整理できる新聞の、メディアとしての価値は依然として強力であり、そこに掲載される新聞広告の有効性も高いと考えられます。

――B to Bコミュニケーションの今後についてはどう考えますか。

 セールス対象となる企業、組織にはそれぞれ独自の価値観があり、企業風土、意思決定プロセスなどを考慮しながら、対象企業ごとにマーケティング手法を選択することが必要だということは当然です。さらに企業や組織には様々な組織人が存在しており、これらの人たちを介して最終購買決定がなされることを考えると、組織人の特性に見合ったプロモーションの仕方を研究する必要もあります。つまり、様式化されたワンパターンの手法でプロモーションするのではなく、組織人に合った手法をカスタマイズできる柔軟な考え方が求められます。その一方で、取引先だけでなく、広く社会に対しても自社のブランド価値をいかに周知していくか、浸透させていくかということも忘れてはいけません。社会には目に見えない仮想の組織が数多くあるわけですから。
メディアやその他のコミュニケーション手段をいかに巧みに組み合わせていくかの提言も含めて、協会が果たすべき役割は今後ますます大きくなっていくと思います。