ニーズを先取りしたコンテンツで お客様にコーヒーブレークの気分を届ける

 現在、スターバックス コーヒー ジャパンのツイッター公式アカウントのフォロワー数は約52万人、フェイスブック公式アカウントのファン数は約86万人。最新のキャンペーン情報や新商品、おすすめの飲み方(カスタマイズ)など様々な情報が発信され、日々拡散されている。これだけの支持を集める秘密は何か。ソーシャルメディアの他、社外向けのデジタルメディア全般を担当している同社マーケティング・カテゴリー本部マーケティング コミュニケーション部WEB/CRMグループマネジャーの長見 明さんに、ソーシャルメディアを始めた目的や工夫している点などについて聞いた。

震災で開設を前倒し 最初のつぶやきは被災者へのお見舞いメッセージ

長見明氏 長見 明氏

――ツイッター、フェイスブックを始めた経緯について教えてください。

 ツイッターの公式アカウントを開設したのは、2011年3月16日のことです。2011年度から始めようと準備をしていたのですが、3月11日に震災が起きたことにより、予定を早めてツイッターの公式アカウントを開設しました。震災で一時期、固定電話がつながらない状況もあったので、「有事に全国のスタッフやお客様とつながれるネットワーク」として、クラウド型のサービスであるツイッターを利用しようと考えたのです。

 最初のツイートは、被災された方々へのお見舞いの言葉でした。その後も海外のスターバックスからの支援情報や義援金の情報を中心に発信していました。暗いニュースが続いている状況でもあったので、震災関連の情報の合間に「たまには温かいコーヒーでブレークはいかがですか」という投稿もしていました。

 4月からは商品を通常どおり販売できることが決まり、新商品の紹介やカスタマイズという工夫した飲み方の提案など、マーケティングを意識した投稿に徐々に変えていきました。

 フェイスブックを始めたのは4月に入ってからです。ポータルサイトよりもソーシャルメディアのほうが、ユーザーの滞留時間が延びているという統計が発表されたことも、ツイッターやフェイスブックを始める後押しになりました。弊社のホームページやブログのアクセス数が減ったということはないのですが、今後に向けて企業としてソーシャルメディアにも取り組む必要があるだろうと判断しました。

――投稿する内容について工夫していることは。

 カフェというビジネスは、「売ろう」として接客すると売れなくて、「お客様に喜んでいただきたい」と思って接客していると、お客様の満足度が上がって自然と利益につながる特性があると思っています。それはソーシャルメディアにおいても同様で「どんな情報を発信したら喜んでいただけるか」を第一に考えています。ブログやホームページでの情報発信はすでに行っていましたので、ソーシャルメディアの主な役割は、情報を拡散させる「お知らせ機能」と位置づけました。もちろん、ツイッターやフェイスブックの投稿を見るだけでも、何かしらの情報は得られるように記事は完結しているのですが、必ずホームページやブログへのリンクを貼ることで、知りたい人はプラスアルファの情報も受け取れるようにしています。ソーシャルに限らず、ブログでもホームページでも、リンクをクリックすることは「お客様が何か興味を持ってくれた意思表示」と捉えています。すなわち、情報を発信している私たちにとって「いいこと」という判断です。

スターバックスコーヒージャパン フェイスブックページ スターバックスコーヒージャパン フェイスブックページ

 投稿する記事のトーンにも気を付けていて、お店で働くスタッフの「語り口」を参考にしています。新商品の味や特徴などを説明しながら、「今の時期のおすすめ商品です」というアピールはしますが、強いニュアンスにならないようにしています。文体の柔らかさをどう表現するかは、大事なポイントだと思います。

――ソーシャルメディアには何人が携わっていますか。

 ツイッターとフェイスブックとも、私を含めて2人で担当しています。実作業は1人です。新商品情報などをもとに、原稿は1週間分をまとめて作っておきます。更新するタイミングについては、反応を見ながら変えていて、頻度や時間帯など細かいルールは設けていません。ツイッターは、朝の通勤時間帯に投稿することが多いですね。お客様がスマートフォンでニュースなどをチェックしている合間に、例えば「今日もおいしいカフェ ラテが入っています」というツイートが入るのは、心地いいのではないかという感覚的な判断です。ダイレクトメッセージやお問い合わせを除いてコメントは返していません。

――これまで反応が良かった投稿は。

 シロップやソース、チョコレートチップを追加したり、ミルクを低脂肪乳やソイミルクに変更するオリジナルレシピ「カスタマイズ」の情報は好評です。メニューにはない情報なので、掘り出し物のようなニュースとして受け取られるようで、リンクのアクセス数もぐっと上がります。一番の理想は、その記事を見てお店に足を運んでもらうことですが、フェイスブックの画像を見た人が「季節のドリンクおいしそう」とか「休憩したいな」という気分になってもらえればいいと思っています。効果測定については、フォロワー数、「いいね!」の数、アクセス数といった大きな数字を重要視しています。それ以外の細かい数字は、全体的な傾向を見る程度です。

自社メディアでもしっかりと編集された情報を発信したい

長見明氏

――52万人以上のフォロワー、86万人以上のファンを獲得しています。

 ツイッターを始めたとき、まずは社員やアルバイトの人たちともつながるために社内ポータルでフォローを呼びかけました。すると、約5,000人がフォローしてくれました。その後、お客様向けにホームページでお知らせしたところ、1カ月もしないうちにフォロワーが1万人を超えました。フォロワーやファン数が増えたのは、自社メディアのトータルの力だと考えています。フェイスブックのログを見ると、公式サイトやブログからのアクセスがかなりの割合を占めています。ツイッターからブログに、ブログからフェイスブックにというように、気付くといろいろな記事を読んでいたという状況が作れるように、リンクをうまく貼るようにもしています。こうした工夫が支持されているのではないでしょうか。

 ホームページが登場してから、企業は自社でメディアを持つようになりました。一般的にメディアというのは企業と消費者の間にあるもので、常に視聴者や読者の顔を思い浮かべ、次に何を求めているのか、半歩から一歩先の情報を発信しています。自社メディアもそのスタンスは同じはずで、独占的にスターバックスの情報が扱えるという特性を生かしつつも、読んでくださる方の顔を思い浮かべながら、情報をしっかりと「編集」して出す必要があると思っています。

――今後の取り組みについて。

 「オンラインサービスの拡充」と「コンテンツの充実」の2つを考えています。スターバックス カードというスターバックスのお店でご利用いただける便利なプリペイドカードがあります。昨年からカードをオンライン上で登録すると様々なサービスを受けられるようにしました。今後もこういったサービスの強化をしていきたいと考えています。また、ソーシャルメディアが普及した今、テクノロジーよりもメッセージやコンテンツのクオリティの方が重要になってきていると感じています。今まで以上にコンテンツの充実に力を入れていこうと考えています。