消費を賢く楽しむスマートリッチな70代に注目

 博報堂DYメディアパートナーズは、首都圏に「メディア接触に積極的で消費を賢く楽しむスマートリッチな70代」がある程度の世帯数で存在することを調査で明らかにした。同社統合コミュニケーションデザインセンター メディア・コンテンツマーケティング部ナレッジディレクターの新美妙子氏と、メディア環境研究所研究員の馬場小百合氏に、調査設計のポイントや調査から得られた考察について聞いた。

日本の社会と経済を築いてきた70代はパワフルで賢くメリハリをつけて消費する

新美妙子氏 新美妙子氏

――メディア接触と消費行動に関して調査を実施した経緯を聞かせてください。

 高齢化が進み、シニア層に対するマーケットの注目、期待感は高まっています。しかし、シニアといえば「団塊の世代」が注目されることが多く、従来の調査は69歳までのものがほとんどで、70歳以上の生活者の実態がわかりませんでした。シニアマーケットの広がりを把握するためにも、首都圏に暮らす70代に焦点を合わせた調査を行うことにしたのです。

 現在の70代の生活者は、戦時中に幼少期を過ごし、男性は企業戦士として高度経済成長を支え、女性はそんな夫を専業主婦として支えました。いわばゼロから今の日本社会を築いてきたという自負を持つタフでパワフルな人たちです。さらに、バブル期に働き盛りだったこともあり、消費の魅力も知っていて、現在も比較的自由に使える金額があるだろう、と予測しました。

 また、シニアは言うまでもなくマスメディアの進化、発展とともに年齢を重ねてきて、現在もマスメディアと親和性が高い世代です。シニアが元気で消費にも意欲的な姿がはっきり見えてくると、広告媒体としてのマスメディアも効果的ということが見えてくるかもしれない。広告会社としては、そういった期待感もあり、調査に乗り出しました。

――調査から明らかになった70代の消費行動はどのようなものでしょうか。

 調査は2年にわたって実施しました。まず、シニアの新しい生き方をけん引していくと思われるリーダー層=「アクティブ層」を探るために、2011年に、首都圏在住の70~79歳の「生活レベルが中以上で、デジタルスキルがある人」を対象に日記式調査とインタビュー形式による定性調査を行いました。その結果、

  1. 人生の残り時間を意識して「いま楽しまなくて、いつ楽しむの?」という「カケコミ消費」
  2. 食事や旅行は「量より質が大事」という「ホンモノ消費」
  3. 「自分のために、好きなものを買う」という「イケイケ消費」
  4. 限られたお金を、使うべきところに使う「メリハリ消費」

 という4つのキーワードを導き出しました。

 この定性調査の結果をもとに、2012年、定量調査を実施したところ、約7割が「好きなものを買って楽しんでいる」、約6割が「楽しめるうちに買い物を楽しみたいと思う」「買い物は質にこだわる方だ」「旅行は金額よりも内容を重視することが多い」と考えていることがわかりました。買い物を楽しみ、質にこだわるホンモノ志向の「スマートリッチな70代」の姿が浮き彫りになり、定性調査の4つのキーワードを裏付ける結果となりました。また、定性調査の対象だったアクティブ層は、調査した70代全体の約3割いることが明らかになりました。

 今回、70代の「自由に使えるお金は月平均52,600円」との結果が得られました。あくまで参考値ですが、博報堂HABIT調査によると、現役世代の有職者の小遣いは平均34,400円となっていることから、70代は現役世代より自由に使えるお金を持っていると考えて良いと思います。とはいえ、年金以外の収入がないなど「お財布」は限られているので、「特別の日の食事にはお金をかける方だ」(65.2%)などと、メリハリをつけて賢く消費しています。「残りの人生を楽しみたいし、お金に余裕はあるけれど、大きな出費もいとわない」というわけでもないようです。「今後、何歳まで生きられるのか、どれくらいお金が必要なのかがわからない」という不安と、体力が落ちて健康に不安を感じていることと、2つの理由があるようです。また、「子どもや孫にはかなり出費をしていることがわかりましたが、教育上の理由から子どもたちにたくさんの財産を残そうと考えているわけでもないようです。そうだとすると、逆に日常の小さな楽しみの消費にビジネス機会があるのではないかととらえています。

※画像は拡大します。

マスメディアの接触時間は他世代と比べてダントツ
デジタルへの興味も高く、パソコンや携帯電話を使いこなす人も

馬場小百合氏 馬場小百合氏

――メディア接触についてはどうでしょうか。

 テレビ、新聞、ラジオ、雑誌への接触は、いずれも長時間にわたっていることがわかり、まさに「70代はマスメディア世代」ということが裏付けられました。

 テレビは、1日当たりの平均視聴時間は211.8分。4人に1人が5時間以上視聴していました。新聞は、1日当たりの平均閲読時間は57.6分。3人に1人が1時間以上閲読しています。「テレビは見ない」は0.5%、「新聞は読まない」は3.6%と、多くの70代がテレビや新聞には毎日長く接触していることがわかります。インタビューでも、「新聞がなくなったら非常に困る」という意見も多く、マスメディアは生活必需品のようです。男性については、仕事をしていた現役時代の習慣で、今でも自分が勤めていた企業やライバル会社のことが気になって記事や広告をチェックするというように、「社会とのつながり」として新聞を積極的に読んでいる人が多いようです。

 ラジオや雑誌についても、習慣的に接触している人が多く、今後の利用意向も高い結果となっています。ただし、雑誌に関しては、特に女性が「自分の年齢に合う雑誌がない」と感じていることがインタビューでわかりました。

 そして、買い物するときに「広告が参考になる」と答えた人が約7割、「テレビや新聞、雑誌、ラジオなどのメディアを見聴きして商品(サービス)を買うことがある」人が6割以上と、買い物行動に対するマスメディアの影響力は大きく、広告も効いていることが明らかになりました。

――デジタルメディアへの接触はいかがでしたか。

 非常に積極的ということがわかりました。特に男性は、現役時代に仕事でパソコンを使っていた経験のある人も多く、半数近くが「利用している」と答えています。携帯電話については7割が所有しており、その6割以上が「5年以上」使っています。主な用途は電話とメールで、女性は絵文字もどんどん使って、友人や家族と積極的にコミュニケーションしている姿が見えてきました。

 時間に余裕のある70代は、デジタルの利用時間が増えたからといって、マスメディアに接触する時間が激減することは考えにくい。そういう意味では、シニアへのコミュニケーションの可能性は、オンラインもオフラインも今後ますます広がるのではと期待しています。

――今回の調査から見えた課題などを聞かせてください。

 70代は、個人差はあるものの、アクティブで消費や情報摂取についても積極的な人が多く、企業にとってもメディアにとっても魅力的な層であることがわかりました。では、そこに対して響くコミュニケーションができているか、というと、そこにはまだ課題があるように感じます。これはインタビューの際に出た話ですが、シニアを対象にしたパソコン教室のチラシが、「認知症防止」というようなコピーを使っていたら、誰も受講者が来なかったが、「知的好奇心を刺激する」とコピーを変えたら受講者が増えたというコメントが出ました。元気な70代は気持ちも若々しく、年寄り扱いされることに違和感を持っているようです。この世代とのより効果的なコミュニケーション方法を探る必要がありますし、新たな開拓の余地があるとも期待しています。

 今回の調査では、70代も生活者として非常に可能性のある層だとわかりました。今後は70代に限らず「シニア」をもう少し広くとらえながら、消費行動やメディアとの関係を調べていきたいと考えています。

博報堂DYメディアパートナーズ
70代のメディア接触と消費行動に関する調査報告

【調査対象者】70~79歳の男女
【調査地域】首都圏
【サンプル数】201サンプル
※平成22年国勢調査結果から性年代別構成比を算出し、ウェイトバックを行った
【調査手法】郵送調査
【調査時期】2011年11月
【調査企画実施】博報堂DYメディアパートナーズ
【調査実施機関】リサーチ・アンド・ディベロプメント

博報堂DYメディアパートナーズ
70代の生活意識、消費行動、メディア接触に関する調査報告

【調査目的】シニアの新しい生き方を牽引していくと思われるリーダー層を探るため、生活レベルは中以上で、デジタルスキルがある人に調査を実施
【生活実態調査】70歳代男女16名(男性8名、女性8名)に対する日記式調査(2010年10月実施)
【グループインタビュー】70歳代男女13名(男性6名、女性7名)に対するグループインタビュー(2010年11月実施)

博報堂DYメディアパートナーズの調査について、詳しくはこちらをご覧下さい。
(博報堂DYメディアパートナーズ ニュースリリース)