目指すは100%普及、さらにその先に広がる可能性に期待

 テレビアナログ放送は日本のほとんど全世帯で見られている。従って、デジタル化への完全移行は、国民の理解に基づくことが不可欠だ。国の施策である地デジ化事業の普及促進を担っているデジタル放送推進協会(Dpa)常務理事の浜口哲夫氏に、地デジ化の意味、地デジ完全移行後のメディア界などについて話を聞いた。

9割以上の世帯に普及した地デジ対応、いよいよ完全移行へのラストスパート

――デジタル放送推進協会(Dpa)の組織の概要、これまでの活動について聞かせてください。

浜口哲夫氏 浜口哲夫氏

 国が進める地上デジタル放送とBSデジタル放送の普及を推進するのがDpaです。2008年10月からは「総務省テレビ受信者支援センター」、通称「デジサポ」の運営もDpaが引き受けて全国各都道府県の51カ所で、地デジに関する情報提供、受信状況の調査・把握、受信相談などをしています。デジタル放送への理解と普及の促進が、Dpaのミッションです。中でも、「何のためにテレビ放送をデジタル化するのか」という根本的な目的を国民の皆さまに理解してもらうことが最も重要だと、03年12月1日に地デジ放送が始まって以来、位置づけてきました。

 地デジ化のそもそもの目的は、電波の有効利用です。電波は使える帯域が決まっている、いわば有限資源ですが、最近は携帯電話をはじめ電波を使う新しいメディアがどんどん増えてきて、使える電波帯が不足している状況です。将来、高度情報化社会に向け、電波のニーズはますます高くなっていくでしょう。そこで、最もたくさんの電波帯域を使っているテレビ放送をデジタル化することで圧縮し、空いた帯域を便利な社会機能の開発に使っていく。そうすることで携帯電話がよりつながりやすくなるだけでなく、交通事故を防止するなどの高度道路交通システムや、遠隔地医療といった新たな技術の活用が期待でき、そのための様々な研究と検討が進められています。

 同様の理由で、世界の国々が電波のデジタル化に乗り出しており、日本においても、「国策」として取り組まれているのです。もちろん、デジタル化がもたらす高画質、高音質や、データ放送による双方向機能といった、テレビ放送サービスの向上も大きなメリットです。しかし、それらが大きく扱われてしまったため、本来の目的や意味が伝わりにくくなって、国民の皆さんの理解、認識がなかなか進みませんでした。地デジ完全移行まで半年を切った今、改めて真の理解を促していきたいと思っています。

――地デジへの対応はどの程度進んでいるのでしょうか。

 総務省が昨年9月に発表した浸透度調査では、90.3%の世帯に普及した、という結果が出ています。浸透度調査は、世帯にあるテレビが1台でもデジタル化に対応していれば普及しているとカウントします。現在、国内には5,500万の世帯があると言われているので、単純に計算してもあと550万世帯がまだ対応していない、ということになります。ただし、昨年9月から12月にかけてエコポイントの駆け込み需要などがあったため、現在はもう少し高い数値になっていると見ています。

――どのようなコミュニケーションを展開してきましたか。

 コミュニケーションの手法については、03年度から現在までの約8年間、テレビ、新聞、ラジオ、雑誌、戸別訪問や全戸へのチラシ配布など、あらゆる手を講じて情報発信と理解促進をしてきました。何を伝えるか、については、大きく分けると三つのフェーズで取り組んできました。

 第1期は、3大都市圏(東京、大阪、名古屋)で地デジ放送がスタートした03年12月1日から3年間です。まずはテレビが変わること、現在のままでは見られなくなるということを知ってもらうための情報発信を行いました。

 06年12月にはNHK、民放含め、すべてのテレビ局でデジタル放送が始まりました。ここから08年までが、第2期です。地デジ化後もテレビを見続けるためには何をしなければいけないのか、つまり、受信機器やアンテナ、チューナー、ケーブルテレビでの視聴など、デジタル放送の受信方法をアナウンスし、買い替えの促進を喚起しました。結果、世帯普及率は5割を超えました。

 デジサポ事業がスタートした08年10月から現在までが、第3期です。いよいよ「備えてもらう時期」です。地域によっては電波がきちんと届かない、集合住宅では共同アンテナの改修が必要、ビル陰・山陰などの電波障害対策共聴設備もデジタル向けに変える必要がある……といった具合に、実は地デジ化にはたくさんのハードルがあります。もちろん国民の皆さんに理解してもらい、自ら地デジ対応の準備をしてもらうことが大事ですが、中には経済的な事情があったり、情報が届かなかったり、あるいは技術的に何をどうしたらいいのかがわからないといった問題を抱えていて、自力では解決できない人々がいることも事実です。現在はそうした世帯、人たちを探し出し、対策を行うためのコミュニケーションに力を入れています。

最終フェーズにこそ効果のある新聞広告

2011年1月24日付 朝刊 全5段 2011年1月24日付 朝刊 全5段

――1月24日には、新聞広告を出稿しました。

 あと半年で本当にアナログ放送が終わり、デジタル化していないとテレビが見えなくなる、という事実を宣言した広告です。デジタル対応に踏み切れない人には対応を急いでもらいたいというお願いですが、一方で、先ほどもお話ししたように、何かしらの理由で対応ができないという世帯を探し出し、相談にのったり支援したりしなければなりません。そういった未対応世帯に「でんわ急げ!デジサポへ」を呼びかける告知広告でもありました。

 新聞広告は、最終期に入ってきてから特に重視しています。というのも、テレビCMはリーチは高いのですが、色々と説明しなければ理解してもらえないような情報は、15秒のCMでは難しい。一方、活字媒体である新聞広告は、情報量を増やすことができますし、文字として読めるので理解しやすくなります。実際、地デジコールセンターにかかってくる相談や問い合わせでも、新聞広告を見て電話をかけてきた人のほうが、「何を聞きたいか」が明確です。また、都会と地方の山間部を比較するとデジタル化に関する課題も違うなど、地域間に様々な差があります。そのため、今後も全国紙だけでなく、地方紙の新聞広告も活用していく考えです。

――テレビが地デジ化することで、放送業界を始め、メディア事業はどのように変化していくでしょうか。

 テレビ放送のデジタル化が新しくて便利な社会基盤の開発に貢献することはもちろんですが、40年間放送業界に携わってきたテレビマンとしての私見ではありますが、地デジ化が完了したあとのテレビを含めたメディアの再構築に強い関心があります。たとえば、以前からよく「放送と通信の融合」ということが言われていますが、そうしたことも含めて可能性が追求されていくでしょう。ただ、放送局が多数の視聴者に情報を提供するテレビと、個人が膨大な情報を自ら取りに行くインターネットは、決定的に性質が違います。それぞれの特性、便宜性、有効性をうまく協調させて補完し合う、そして、使う側は一番便利な使い方をしていく。歴史的なハード革命が起こった後に、それを放送事業者や関与する企業がどう有効に活用していくのか。そこにメディア業界の可能性と、ビジネスとしての新たな芽があるのでは、と大きな期待感を持っています。

 私たちDpaとしては、まずは7月24日の完全移行までにデジタル対応世帯を100%にするべく普及を促進するとともに、電波の有効利用によってもたらされる世の中の進化、そして、今よりも魅力的で便利なサービスを提供するテレビの進化など、地デジ化の先に広がる新しい世界への期待感を、国民の皆様に感じてもらえるようなプロモーションを進めていきたいと考えています。