今、ウェブ・既存メディアの関係性を本気で問い直すとき

 インターネットによって、私たちの情報摂取行動は昨今大きく変わってきた。昨年は「電子書籍元年」と言われ、今後の紙媒体のあり方についても議論されている。ソーシャルメディアが一般化し、企業と消費者の関係性に大きな変化が起きている。そのような今、企業は生活者にどのように情報を届けていったらいいのだろうか。メディアというものをどうとらえていくべきなのか。

 今年設立から12年目を迎えるクリエーティブエージェンシー「TUGBOAT」のクリエーティブディレクター・岡康道さんとアートディレクター・川口清勝さんは「広告の今」をどう見えているのか、4マス時代からの流れを踏まえながら語ってもらった。

宣伝担当者のウェブへの理解の深化が必要

――現在のメディア環境と広告業界の状況をTUGBOATはどうとらえていますか。

岡康道氏 岡康道氏

岡さん(以下、岡) まず、メディア環境の変化に関して、クライアントもメディアも望んでいなかったと思っています。「紙媒体からウェブへ移行させていくぞ」という誰かの熱い思いがあってこうなったわけではないというのがポイントです。だから、メディアもクライアントも対応が遅い。とはいえ、誰もこの状況を止めることもできない。

――広告業界の人たちも望んでいない?

岡 誰も望んでいないんじゃないかな。果敢にチャレンジしているメディアもないですよね。インターネットという受け皿はあるけれど、雑誌がウェブ版になる程度で革命的な何かが起きているわけでもない。

――では、具体的にどのようにメディアが変化していると思いますか?

岡 ここ10年くらい、TUGBOATでは川口がいち早く察していて、僕らのステージが小さなものになるらしいと、そんな気配を感じていた。とはいえ、どこかの集団や個人が「変わるぞ」と言っているわけじゃなく、「なんとなく、こうなるらしい」という感じでした。実際、新聞15段の意味合いは変わってきています。僕らが活動する広告業界を川に例えると、これまでは急流でかっこよかった川が、いつの間にか川幅が広がって、もうすぐ海に出てしまうような状況なんです。海には海なりの表現の仕方があるんだろうけど、今のやり方を急に変えるのは簡単なことじゃないと思います。

――どのようなことから実感しますか?

 たとえば広告費が確実に削減されていることからですね。新聞広告はクライアントにとって新しい商品やサービスをはじめることを“宣言”するものとして、5年前までは当たり前に出稿しているものでした。けれども、今は違う。雑誌にも出稿せず、インターネットだけで展開します、という企業も増えてきた。それでもTUGBOATに依頼があるときは、ある程度に予算を持って作ろうとしているときだから、僕らは実際、そんなに影響はないんですけど。一般的にはクライアントの広告費の予算は下がっています。
そのためにも既存のメディアはインターネットとどう絡んでいくのか、本気で考える必要があると思います。雑誌、テレビなどのマスとのクロスメディアのほか、ウェブ同士など新たな関係も生まれている。10年くらい前までは新聞とテレビが連動していることが重要でしたが、今は全く違ってきている。

LIFECARD テレビCM LIFECARD テレビCM

――以前TUGBOATが手がけた「LIFE CARD」のテレビCMは、ウェブと連動させた広告でしたね。

 2005年頃の仕事ですね。あれはテレビとウェブのうまいクロスメディアの事例の一つですね。

――なぜ、うまくいったのでしょう?

岡 それはテレビと同じくらいの予算をウェブにもかけたからです。以後、そのような成功を見かけない。すなわち、そこまで予算をかけている企業がないということだと思う。ウェブの広告費は極端に安いですからね。テレビの10分の1くらいじゃない?テレビCMや新聞広告を見てウェブをチェックすると、肩すかし感があるのはそのせいです。情報を得るためにウェブをチェックする人にとっては、どんなデザインでも、たとえ価格が一覧表になっているだけでも読み込みますからね。企業のことを一生懸命知ろうとする就活している人も同様。一般の人がマスメディアを通して知った企業やブランドをウェブでチェックしたとき、違和感を持たないようにすることは、ウェブの緊急課題じゃないでしょうか。

川口清勝氏 川口清勝氏

川口さん(以下、川口) 企業のウェブ担当者が出世しないと、この現状は変わらないかも。CM制作にかける億単位の予算の決済ができる人は、企業の中では、たとえば役員か部長以上。一般的にはデジタルに精通した世代ではありません。たいていウェブの担当は、大学を卒業して4、5年くらいの若い世代です。彼らにはテレビCMにかけるような金額は決済できないのが現状です。

岡 人事とすごい関係あるよね。

川口 新聞は部長決裁、雑誌は課長決裁とかね。会社のヒエラルキーと密接に関係していると思います。でも、徐々にそう言っていられない現実になってきている。

――デジタル化が加速するということでしょうか。

川口 たしかに、作り手側はデジタル化を欲しているわけではない。けれども、ユーザーは一度手にした便利なツールは、手放せなくなるんです。たとえば、雷が落ちて焼けたイノシシを食べたら、生で食べる肉もうまいけど、焼けた肉はもっとうまいことに気づく。腐りかけた肉も焼けば食べられるし、いいんじゃないかと思うわけですよ。火は新しいツール。一度使ったら、早々元には戻れない。どんなアナログ人間でも、すでにパソコンを使わず仕事をすることって、難しい。それが消費者のニーズなんです。

 ヒエラルキーの話でいえば、若くて優秀な人たちはたくさんいると思う。彼らは自分たちで自由に使えるメディアがないか探すわけです。それがたまたまデジタルだった、という気がしています。極端な話、決裁権を持つ上役の人たち、たとえば大手新聞社が50歳定年制にして、若い人を対象に求人したらデジタルは失速するんじゃないかと思います。現状のまま進めば、既存のメディアとウェブが融合して、新しいものができるはずですが。

岡 え、失速するの?

川口 だって、上役がいなくなれば若者にとってより多くの予算を決済できるポジションが空くんだもん。新聞は元気がないと言っても、発行部数や影響力は雑誌やウェブとはケタが違う。それをデジタル化によってなくす必要なんてないでしょう。連動させながら活性化させることを考えるほうが、やりがいがある。けれども、若手は簡単にそのポジションを与えてもらうことはできない。だから新しい場所を作るしかない。それがウェブ。実際のところウェブ業界で話題になっている広告やコンテンツは数々あるけれど、それは業界全体から見るとほんの小さなウェーブ。川で言えば、限りなく細い。だから、クライアントもメディアも、いまだにウェブを疑っているんだと思う。

岡 だって、誰も望んでいないからね。

マス広告の基本を知らずして未来の広告は担えない

川口 ウェブの世界で成り上がろうとしている人たちの中では、既存メディアの作法やモラルは通用しない。旧人類のように刀しか持っていない人に向かって、鉄砲をばんばん撃ってくる。とはいえ、火縄銃の効果はそろそろ出てきていて、企業もウェブの力に関心を寄せ始めていると思います。

岡 その設定だと、TUGBOATはどういう立場になるのかな? 忍者? 老兵とか(笑)

川口 刀が使えて道場も開けるくらいの剣客じゃない?

岡 でも、僕らは鉄砲が入ってきたら「鉄砲も便利だからいいよね」と簡単に流される(笑)。でも、刀は常に研いでいる、ような。

川口 実際、未来を決めるのは刀を使える人だと思う。明治維新の後、鉄砲や大砲を扱う人の先生となったのは、武道家。剣客としてのモラルや統率する能力を戦術としてディレクションする必要があったらしいです。

――クライアントも刀しか使わないのは、まずいと思い始めているのですか?

川口 そもそもクライアントは刀だけで戦っている実感がないんですよ。まだ鉄砲使ってないの? という感じだと思う。クライアントはユーザーに近いから、デジタルの扉を10年以上前から精神的には開けなくちゃいけないとは思っているんです。でも実際には自主的に扉をあけていなかったのが現実。しかし今、デジタルの扉は確実に開き始めているので、そろそろ鉄砲役の出番なんです。

岡 通信販売のようなB to C の企業は、デジタルの対応が早かった。電話からパソコンでのクリックに変わるだけだから、感覚的にも抵抗が少ないんだと思う。でもB to Bの企業なんかはさっきも言ったとおりウェブにお金をかけないから出遅れているんじゃないかな。

川口 クライアントからよく言われるのは、テレビCMや新聞広告は「見たよ」というリアクションをたくさん受けるけど、ウェブでどんなに成功しても身近で知る人が少ないよねって。自分の娘すら「見たことないとか言われた」とか。

――コアなターゲットに浸透させる力はウェブの持ち味でもありますよね。

川口 そう。もちろん効果は大事だけど、今までとリアクションが違いすぎるから戸惑うんだと思う。でも一度に多くの人に発信するには、やっぱりテレビや新聞。ユニクロの「UNIQLOCK(ユニクロック)」くらい話題になればいいんだけど、そのためにはある程度の予算も必要。それはどの企業の宣伝部の人もわかっていると思います。

デジタルネーティブ世代が社会の中核を成すときが本当の変わり目

川口清勝氏

岡 テレビや新聞が以前のように活気づくことは、これからはないと思う。朝日新聞の記事にもあったけれど、今の中学生や高校生の多くはパソコンを見ていないだって。ケータイかテレビ。そうなると、ウェブの在り方も今のままでいいとは言えない。

川口 ひまさえあればケータイばっかり見ているわけでしょ。今、本気で焦っているのはメディアと広告会社だよね。でも、そんなにナーバスになりすぎなくてもいいと思う。クライアントはなんとかなると思っているし。多くの企業は今までも世の中の変化に対応してきたという自信があるから。

――では、どのように変わっていくと思いますか?

川口 2010年は電子書籍元年だ、と言われていたけど、ほとんど何も変わらなかった。これまで10年の変化について僕ら自身に当てはめて考えると、自分で打てなかったメールができるようになったくらいじゃない? そのくらいの進歩。デジタルネーティブと呼ばれる世代が社会の中核を成すようになってきたら、今とは違う状況になるんじゃないかな。

岡 人が入れ替わらないとダメってことだね。

岡 そもそも、オジサン世代にしたらiPadの操作性とかも嫌な感じなんですよ。わからないところからやってくる、わからない力を拒絶したい感覚というか(笑)。そう思っている人は変わらないんだよね。実際、僕はパソコンの画面上で文章を読んでも頭に入らない。大切な案件はプリントアウトして読んでいる。

岡康道氏

川口 大事なメールは出力してとっておくしね。

岡 TUGBOATはすごく紙を使っていますね。ペーパーレスには程遠い状況。

川口 ケータイをずっと眺めている世代が中心になったときが、時代の変わり目なんじゃないでしょうか。

――そういう若い世代に向けた広告も、今実際に作っているわけですよね。表現方法など意識されることはあるのでしょうか?

 世代は違っても、表現に関するリアクションは同じだと思っています。面白いものは面白い。切ないものは切ない。たとえメディアが変わっても、刀の使い方自体は変わらない。いまだかつて、インターネットだけで何かブームが起きたことはありません。マスと連動しないと、国民全体には響きにくい。インターネットに精通している企業だって、テレビCMをじゃんじゃん打っているのがいい例だと思う。

クライアントのニーズに応えるべくメディアもデジタルと対峙すべき

――話は変わりますが、TUGBOATは朝日新聞の交通広告を手がけています。

岡 新聞はいいものだということを、きちんと伝えようとしている広告です。その活動はこれからも続けていくべきだと思っています。僕はむしろ、朝日新聞はどう変わっていくつもりなのか、聞いてみたいですね。

川口 新聞社の動向は、紙のメディアに与える影響力も大きいですからね。紙媒体でクオリティーが高いといえるものは、全体の2割だと思う。だから、8割ほどのダメなモノや部分だけを見て、デジタルのほうがいいと判断するのも違う気がします。 今、新聞社に求められていることは、自分たちの本質的な価値を上げて、クライアントのニーズをつかむこと。それに刀はもちろん、拳銃や大砲を使えるほうがいいでしょう。刀だけで戦っていたら、そのうち打ち負かされてしまうから、本気でデジタルに対峙して、しっかりと方針を打ち出していくべきだと思います。今は刀のみの状態ですけれど。

岡 クライアントは消費者を見ているからね。たとえば一番長くケータイが見られているとなれば「ケータイに広告を出そう」と考える。流されるのは当然のこと。クライアントは自分たちでメディアを選ぼうとは思っていませんから。クライアントは100 年前から、市場の動きに合わせているんです。今までだって、メディアと広告会社が企画を作って、クライアントに提案をしてきたわけですよね。でも、今メディアも広告会社も迷っているから、クライアントも困っている状況。だからこそ、メディア側が覚悟を決めて動かないと。クライアントはそのときの状況に最適なアイデアを持ってくる人を、パートナーとして仕事をしてきたんです。これからだって、それは変わらないと思う。

※画像は拡大します。

朝日新聞の交通広告「教育キャンペーン」

――メディアと広告会社が迷う理由のひとつに、クライアントの広告費削減という状況があると思います。

川口 自分がメディア側の人間なら、今までの提案でダメだったら、それを取り返すために「うちのデジタル使ってみて」と新しい提案ができるようにしますね。今はそれができていないんです。なぜなら、メディアの多くがデジタルに対して実験も投資もせずにいるから。だから、出稿料金の単価を下げてクライアントにお願いするしかない。それでは駄目なんです。ケータイを見ている人が多いなら、ケータイメディアと新聞広告をどうリンクさせるか、真剣に考えなければ。もう、広告会社は何もしてくれないですよ。昔はもっと、義理堅い世界だったけど、今は違うから。

――そんな状況の中、メディアや広告業界の方々ができることはありますか?

川口 メディアの人も広告業界の人も、みんな生活者でありお客さんという立場でもあるわけです。ここはまず、一個人として考えてみるのがいいと思います。お客さんという立場で、クライアントやメディアにどうなってもらいたいか。個人個人がゼロベースで考える。サンプルはありませんし、デジタル化がどう進むかも、誰にもわからない。だから、立場にとらわれず、ゼロから考える。それが今、僕らにできることだと思います。

TUGBOAT(タグボート)

『TUGBOAT 10 Years』 『TUGBOAT 10 Years』

 電通から独立した岡康道氏(クリエーティブディレクター)、川口清勝氏(アートディレクター)、多田琢氏(CMプランナー)、麻生哲朗氏(CMプランナー)の4人が1999年に設立したクリエーティブエージェンシー。数多くのブランドキャンペーンを手がけている。マスメディアの広告制作のほか、作詞、映画の脚本、小説、雑誌の情報サイト「magabon」やハイクオリティー雑誌を専属編集部が再編集して掲載するサイト「X BRAND」を企画するなど幅広い領域で活動。最近の仕事に、朝日新聞社、NTTドコモ「ひとりと、ひとつ。」キャンペーン、サッポロビール黒ラベル、「大人エレベーター」キャンペーン、大和ハウス「ダイワマン」シリーズなど。2010年2月、TUGBOAT設立から10年間を記録する『TUGBOAT 10 Years』を出版(美術出版社)。

 代表の岡康道氏は、1956年生まれ。早稲田大学法学部卒業後、電通入社。主な受賞歴に、クリエーター・オブ・ザ・イヤー、TCC最高賞、ADC賞など。東京コピーライターズクラブ会員。NY ADC会員。LONDON D&AD会員。2010年12月に、電子書籍『ノンタイトル まだタイトルマッチじゃない』を発行(開発: TOSHO PRINTING CO., LTD.)。

 川口清勝氏は1962年生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業後、電通入社。主な受賞歴に、東京ADCグランプリなど。東京ADC会員。LONDON D&AD会員。NY ONECLUB会員。NY ADC会員。2008年より多摩美術大学客員教授に就任。