新機種発表前からの戦略が当たり、約30万台の事前購入宣言を獲得した「IS03」

 昨年、携帯電話市場の話題の中心となったスマートフォン。各キャリアから続々と端末が発売される中、発売前に約30万台もの事前購入宣言が入るヒットを記録したのが、auのスマートフォン「IS03」だ。KDDIマーケティング本部 宣伝部 コミュニケーション戦略1グループ 課長補佐 和田純一氏に、ヒットにつながったコミュニケーション戦略などについて話を聞いた。

発売2カ月前から期待感をあおるティザー広告を展開

和田純一氏 和田純一氏

──「IS03」発売の背景、経緯について聞かせてください。

 スマートフォンが市場に登場した当初は、いわゆる「メカ好き」と言われるような人たちが使う端末、という印象もありましたが、ソフトバンクのiPhoneが市場を席巻し、一般の人でも持つほどに需要が拡大する中で、当社は出遅れてしまった感が否めません。携帯電話の純増数が毎月公表されるのですが、大手三社の中でauが低迷していたのは、スマートフォンでの出遅れが原因のひとつと分析しています。

 そこで、起死回生の一手が「IS03」でした。しかし、端末を発売できるタイミングが昨年の11月であり、そこまでの期間をどうつないでいくかが大きな課題になりました。その対応策として打ち出したのが、期待感を醸成し、待ってもらうためのプロモーションです。携帯電話のプロモーションは、端末を発売してからスタートすることがこれまでのやり方でしたが、「IS03」に関しては発売の2カ月前の昨年9月からティザー広告を開始しました。「もう少し、期待して待っていて」という思いを込め、「未来に行くならアンドロイドを待て。」というメッセージを使ったコミュニケーションを設計したのです。

──具体的にはどのようなコミュニケーションを展開しましたか。

 スマートフォン=iPhoneという状況の中、「IS03」が同じ土俵で闘えるか、というと、正直厳しいと感じていました。そこで「iPhone対アンドロイド」という、もう一段高いレイヤーで、プラットホームの対立構造を打ち出そうとグーグルに共同マーケティングを持ちかけました。そして生まれたのが「Android au」というコミュニケーションワードです。まずアンドロイドというプラットホームを前面に打ち出し、そのアンドロイドに一番近いキャリアがauである……と想起してもらえるような仕掛けを展開しました。昨年10月末の時点で、このコミュニケーションに触れた消費者を調査したところ、半数以上が「アンドロイドと聞いて想起されるキャリアはau」と回答しており、期待感とともに、アンドロイドとauがうまくひも付けできたと考えています。

 フェーズは3段階で展開しました。昨年の9月24日からは、「未来へ行くなら、アンドロイドを待て。」というキャッチコピーと「Android au」というワードのみで、端末もタレントも登場しないクリエーティブの広告を使いました。

 続く10月4日、シャープとの合同商品発表会を皮切りに、広告でも端末を披露。それに合わせ、ジャマイカの陸上選手で、北京五輪男子100メートル、200メートルで金メダルを取ったウサイン・ボルト選手をイメージキャラクターとして起用したテレビCMを開始しました。同月18日にはau全体の秋・冬の新商品発表会を行い、ボルトと並ぶ「IS03」の新しいキャラクターとして、米国人アーティストのレディー・ガガを起用したテレビCMおよび新聞広告を出稿しました。これまでのauキャラクターではなく「スマートフォンの領域でauがいよいよ本気を出した」というメッセージを込めるためにも、「IS03」はこれまでとは全く違うコミュニケーションを仕掛けたかった。ボルトとガガというインパクトのあるキャラクターは、まさにその象徴と言えます。

 11月26日の発売後は、「Android au」で何ができるかというフェーズに入りました。現在、アプリケーションの領域でのコミュニケーションを展開しているところです。

インパクトあるコミュニケーションでブランドイメージのスコアも上昇

──反響はいかがですか。

 約30万台の事前購入宣言という結果が、商品へはもちろん、auへの期待感にもつながったと手ごたえを感じています。そして、ユーザーからは使用感や質感などについて非常にポジティブな意見、感想が聞こえてきています。さらに最近の調査結果では、auブランドに対して「先進性」を感じるというスコアが高くなっています。今回の「IS03」のヒット、そしてブランドのイメージアップは、私たち宣伝部門だけでなく、プロダクトの開発部門、そして販売店を含めた販促部門と、すべてが文字通り「本気」を出し、全社一丸となって取り組めたからともとらえており、社内においてもいい影響があったと思いますね。

──発表会翌日の10月19日と、商品発売日の11月26日、朝日新聞朝刊に広告を掲載しました。様々なメディアでコミュニケーションを展開する中、新聞広告に期待することは。

 さきほども触れましたが、通常は商品発売とともにコミュニケーションを開始するため、新聞広告も発売以降のタイミングで出稿していました。そういう意味では、発売の1カ月も前の出稿はわれわれとしてもチャレンジでした。しかし、今回はとにかく「auの本気」という強いメッセージを感じてほしかった。新聞は、その日に一気にリーチがかせげて、われわれが込めた思いを強く発信できるメディアと考えています。10月19日は、発表会の翌日という日にちにこだわり、新聞で大々的に宣言する、というねらいで出稿しました。

 11月26日の出稿も、これまでに経験したことのない挑戦でした。というのも、携帯電話は発売日を特定するのが実は非常に難しく、その日の広告枠を押さえても本当にその日に商品を出荷できるかはギリギリまでわからないのです。私自身、宣伝を7年ほど担当していますが、発売日に広告を出すのは初めての経験でした。正直リスクはありましたが、ここまでユーザーを待たせた以上、全社一丸となって広告を出そう、と。社内はもちろん、新聞社の協力も得て、発売日の広告が出せたと思っています。「この日に意味がある」という日に多くの読者にメッセージを送ることができるのは、新聞ならではの特性であり、今回はその効果をしっかりと上げることができたと感じています。

──今後の課題、展望を聞かせてください。

 これまでの一連のコミュニケーションで、「auの本気」を感じてもらい、「先進性」というブランドイメージを高めることができました。それがヒットにつながったととらえています。この勢いを一過性のもので終わらせるのではなく、継続していくことが課題です。醸成されつつあるブランドイメージのスコアをさらに上げていくために、次なる一手を検討しているところです。携帯電話市場において、春は最大の商戦期です。この時期に向けすそ野を広げるコミュニケーションを展開し、プロダクト部門や販促部門とともに盛り上げていきたいと考えています。

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2010年10月19日付 朝刊 2010年10月19日付 朝刊
2010年11月26日付 朝刊 2010年11月26日付 朝刊