キャラクターを使う目的と役割の明確化がより重要に

 企業のマーケティング活動において、キャラクターマーケティングの重要性が高まっている背景にあるものは何か。日本におけるライセンスビジネスに早くから注目し、キャラクタービジネスに関するマーケティングリサーチ業務やコンサルティング業務などを行うキャラクター・データバンクの陸川和男社長に聞いた。

活躍が目立つ企業のオリジナルキャラクター

キャラクター・データバンク 陸川和男氏 キャラクター・データバンク 陸川和男氏

──キャラクターマーケティングの現状をどうとらえていますか。

 キャラクターは、ライセンスビジネスの核となるプロパティー(法的に保護された知的財産)のひとつですが、欧米では幅広いプロパティーがライセンスされ、企業の重要な収益源ともなっています。例えば、企業の商標やロゴマークなどのライセンスビジネスが盛んですし、国内ではライセンスビジネスにそう積極的ではない日本の自動車メーカーが、欧米では力を入れているといった例もあります。

 一方、日本のライセンスビジネスではキャラクターが昔から強く、2008年の当社調査では約1兆5千億円の市場規模です。ライセンスビジネス全体の市場規模を把握した正確なデータは日本にありませんが、おそらくこれはライセンスビジネス全体の6、7割を占め、中でも広告販促分野でのキャラクターの活用は活況を呈しているという見方ができます。

──キャラクターマーケティングが活性化している背景は。

 第一に、ネットを中心としたクロスメディア展開が主流になり、マスで広告効果を得ることが難しくなっている中で、キャラクターの持つ大衆性を活用して多くの人を引きつけようという手法が増えていることです。膨大な情報の中でも目印になるキャラクターは、消費者をネットなどに誘引する際の入り口としても機能しています。

 二つ目はコストの問題で、一般的に同等の認知度を持つ有名タレントを使うよりも広告予算がかからないこと。また今日では、タレントの不祥事による企業のイメージダウンといったリスクが低いといった点も重視されていると思います。

──近年のキャラクターの活用法に変化や傾向はありますか。

 昔はキャラクターを出しておけばいいといった考え方が主流でしたが、今はそれでは注目度は高まりません。グリコの「OTONA GLICO」のキャンペーンでは、サザエさんのキャラクターを役者が演じましたし、「アクエリアス」(日本コカ・コーラ)の広告は実在のアスリートをキャラクター化しました。クリエーティブ表現に広がりが生まれています。

 さらにロッテの「フィッツ」のCMでは、人気タレントと奈良の「まんとくん」や秋田の「たんぽ小町ちゃん」といったゆるキャラが共演しています。全国展開の広告に地方自治体のキャラクターが登場するという展開は、昔は考えられませんでした。

 もう一点重要なのは、企業が商品性やメッセージ性に合わせて開発したオリジナルキャラクターが増えていることです。代表的なのはソフトバンクのお父さん犬、アフラック(アメリカンファミリー生命保険)のまねきねこダック、またタレントをキャラクター化したトヨタ自動車のこども店長などです。使い勝手のいい自社キャラクターですから、商品化を試す動きも増えました。


新たな顧客の注目を喚起するキャラクター

──定番キャラクター、オリジナルキャラクターを活用する際のそれぞれのメリット、注意点は?

 定番キャラクターは大衆を引きつける力はありますが、商品を持たせられないなど条件面での制約も多く見られます。どういう目的で使うのかを明確にすること、どの世代に親しまれているかを検証することが必要です。世代を超えて愛されているといわれるキャラクターでも、支持世代が高年齢化しているといったケースもあります。

 鉄腕アトムを使ったロッテの「POs-Ca(ポスカ)」のキャンペーンでは、アトムの白いシルエットだけを使い、小栗旬さんが声を担当しました。メジャーキャラクターだからこそ、冒険的なクリエーティブで新鮮な印象を与えることに成功した例です。

 また、広く一般にはまだ知られていないキャラクターを使うことで、企業や商品とキャラクターとの関係性を消費者に強く伝え、キャラクター側が恩恵を受けるケースもあります。パスコの「リサとガスパール」やトヨタ「ヴィッツ」が起用していた「リラックマ」は、以前からファンのいるキャラクターでしたが、人気が一般化したのはCMに登場してからです。

 オリジナルのキャラクターや、ゆるキャラなどがメジャーキャラクターに負けない全国的な人気を得ているのは、クチコミというネット特有のコミュニケーションの力が大きいでしょう。こうしたキャラクターは、ブログなどでネタにしやすく、ネットに書かれることで広告効果が高まります。現在では消費者の意識の中では定番キャラクターもオリジナルキャラクターも平準化していますから、何を使うかと同時に、どんな役割を負わせるかがより重要になっています。

──キャラクター・データバンクの活動内容は。

 当社の設立は2000年。90年代後半からのポケモンブームや、日本のマンガ・アニメへの国際的な注目を受け、官庁などがコンテンツ産業を日本の文化戦略として重要視しはじめた時期です。私はキャラクタービジネスが日本にとっての大きな輸出産業になっていくと予測していましたが、業界にはデータの整備がなされていませんでした。海外とのビジネスでは、やはりニュートラルな立場でデータを提供する企業が必要なのではないかと思い設立したのがキャラクター・データバンクです。

 当時はこの分野で海外とのネットワークがほとんどなかったのですが、LIMA(国際ライセンシング産業マーチャンダイザーズ協会)というNPOがアメリカにあることを知りました。この団体とネットワークをもつことで日本の情報も海外に流通とすると考え、2002年にLIMAの日本法人の設立に携わりました。

 キャラクター・データバンクの取り組みとしては、会員向けの情報発信サービスのほか、2009年からはその年に活躍したプロパティーを表彰する「ライセンシング・オブ・ザ・イヤー」を設立し、ライセンスビジネス産業の価値を広く社会に発信する活動も行っています。低価格な商品・サービスに注目が集まる市場環境の中で、付加価値ビジネスであるライセンスビジネス、キャラクタービジネスは、長期的な視野で見た時、日本経済の活性化に寄与する重要な産業だと思っています。

──ライセンスビジネスにおける新聞メディアの役割、可能性について、どう思いますか。

 キャラクターはすべてを任すのではなく、その世界観や、支持する世代にフィットする目的の動機付けとして生かされた時に、効果を発揮します。新聞は信頼性の高いメディア、覚悟をもってメッセージを発信するメディアだと思います。そこでキャラクターをうまく使うことは、新たな顧客の関心を引いたり、ある世代に向けたメッセージを伝えたりすることができるのではないかと思います。

 テレビ業界では今、周辺権利のビジネスに力を入れています。オリジナルのキャラクターを番組ごとに活用したり、テレビ東京の「白いクマ」のように広告主の営業サポートに使えるキャラクターを作ったりしながら、それを配信ビジネスなどに波及させて二次収益を得ようとする動きが活発化しています。新聞メディアにおいても、キャラクターを活用した二次収益モデルの構築を考えてもよいのではないでしょうか。

陸川 和男(りくかわ・かずお)

キャラクター・データバンク 代表取締役社長

広告・マーケティングの専門誌の編集者、マーケティング会社の研究員等を経て、2000年7月、株式会社キャラクター・データバンク(CDB)設立。CDB事業の統括を行うかたわら、キャラクタービジネスのアナリストとしてコメンテーターや執筆、講演活動なども行う。また、2002年7月には、世界最大のライセンス協会LIMA(国際ライセンシング産業マーチャンダイザーズ協会)を日本に誘致し、LIMA日本支部を設立。現在、LIMA日本支部シニア・アドバイザー等、企業のアドバイザー業務等も務める。著書には、「図解でわかるキャラクターマーケティング」(共著/日本能率協会マネジメントセンター)等がある。