消費意欲をわかせるのは、「心躍る、何か」

 11月25日、電通は毎年恒例の「話題・注目商品2009」(調査:電通総研)を発表した。今年、消費者が選んだ今年の話題・注目商品の上位は、「次世代カー」「エコ減税、エコポイント」「国内低価格ファッション、PB、訳あり商品」などだ。今年のヒット商品やブームを検証し、その先に見えてきた2010年の消費トレンドについて、電通 電通総研 消費者研究センター 消費の未来研究部長の四元正弘氏の予測を聞いた。


「お得で、エコで、安心・簡単」は、もはや当たり前

――2010年の消費をどのように予想していますか。

 私は2010年への消費潮流を、「『4e』消費」というキーワードでとらえています。「4e」の最初の3つは、Economy(お得で)、Ecology(エコで)、Easy(安心・簡単)、今やこれらは消費者にとって当たり前の条件です。それにプラスして「心躍る、何か」、つまりEmotionalな部分が満たされて、はじめて消費意欲がわくということです。そのエモーションを喚起する仕掛けとして、大きく7つのポイントがあると思います。それが、「次世代定番力」「ゆる繋(つな)がり力」「えっ本当?!力」「共感応援力」「一目瞭然(りょうぜん)力」「水と油力」「不動力」です。

――それぞれについて、関連する事例とともに説明してください。

 7つの中でも今一番強いのが、「次世代定番力」です。これは5年、10年先を先取りした、「これを買えば失敗しない」という安心感や、「人より先を進んでいる」という優越感が消費意欲を後押しするというものです。2009年の話題・注目商品でいえば、ハイブリッドカーに代表されるエコカーがまさにそうでしょう。そのほか、次期OSとしての本命感の高いWindows7、ワックスの次の流れを先取りした粘着性ポリマー整髪料(資生堂「ウーノ フォグバー」)などが挙げられます。

 この流れの中で2010年以降のブレークを予感できるものとして、低価格車があります。中国、インドなど新興国の自動車生産技術が向上すれば、日本車は質が高いからと現在と同じ価格水準では商売を続けることは難しくなるでしょう。特に小型車では、今の半分程度の価格が当たり前になっていくかもしれません。

――「ゆる繋がり力」「えっ本当!?力」「共感応援力」というのは、言葉の響きにも楽しさが感じられ、生活防衛志向の強かった昨年までとは少し違った消費の気分を感じます。

 「ゆる繋がり力」とは、近すぎない、適度な距離感を保ちながら瞬間的にみんなで盛り上がったり、情報交換を楽しんだりしたいという気持ちに応えるものです。ニコニコ動画のような動画共有サイトやTwitter、通信機能を使い「宝の地図」が仲間と交換できるドラクエ9、「協力プレー」で盛り上がれるモンスターハンター3など、ゲームの世界でもコミュニケーション機能が話題になりました。特に注目はTwitterで、2010年には参議院選挙がありますが、Twitterやブログが選挙活動のあり方を大きく変えるのではないかと思っています。

 次の「えっ、本当?!力」は、これまでの常識や相場観から大きく外れた衝撃や意外性が、消費者の興味関心をわしづかみにするものです。例えば高速道路の料金が1,000円など、今までの料金は何だったのかというほどの意外性です。お台場に登場した実物大ガンダムも、ここまでやるかという驚きが人々を引き寄せたのだと思います。2010年は、ダイソンの羽根なし扇風機が店頭に置かれるようになれば、かなりの衝撃が生まれるでしょう。それとインターネット接続でテレビを試聴する流れの中で、イーモバイルの「0円パソコン」のビジネスモデルと同じような形で、0円テレビが出てくるのではないかと思います。

 「共感応援力」というのは、現代人のわがままな思いを否定せず、さらには共感・応援する商品や企業姿勢が好感を呼ぶというものです。『1Q84』は現代人の心の弱さを否定せずに受け止めようとする村上春樹さんの作風がヒットのひとつの要因だと思いますし、同じように来年映画化される『ノルウェイの森』にもヒットの予感があります。また、雑誌「小悪魔ageha」、エコナビ、キリンフリーなども、個人の欲求に素直に応えている点が支持されたと思います。


消費者が欲しているのは本音のコミュニケーション

――「一目瞭然力」「水と油力」「不動力」などは、どれも商品性のユニークさが鮮明に見えてくるキーワードです。

 今の世の中は何かと複雑で、情報過剰です。だからこそ、「一目瞭然力」が強い力になります。効用を絞り込んだ「シンプルなわかりやすさ」が、消費者を納得させるわけです。2009年の商品でいえば、メモをとることに機能を絞り込んだキングジムのポメラ、三菱電機の蒸気の出ない炊飯器、ワンコイン弁当などがそうでしょう。2010年以降のブレークが予感されるものとしては、電気自動車や電動スクーターなどがあります。

 「水と油力」は「○○なのに△△」といった、よい意味で予想を裏切る組み合わせで生まれた意外性が、独特の面白みを醸成するというものです。例えば、ガムなのにかんだ瞬間やわらかいロッテの「Fit’s」、お酢なのにつんとこないミツカンの「やさしいお酢」、朝カレーなどが挙げられます。2010年以降のブレークが予感されるものとしては、ハイブリッドエンジン搭載のスポーツカー、マグロ高騰の反動を受けた洋食系ネタのすしといったものが挙げられます。

 そして「不動力」は、揺るぎのない絶対的存在感や不変性に触れて癒やされたい、感動したい。そして、自分も「かくありたい」と願うというものです。仏像ブーム、戦国武将ブーム、エジプト展、富士山ブームなどが、今年の話題・注目商品ではそれにあたるでしょう。2010年のブレーク予感商品としては、坂本龍馬や平城遷都1300年祭、そして実写で映画化される「宇宙戦艦ヤマト」などがあると思います。

――新しい消費潮流に、メディアあるいは広告コミュニケーションはどのように対応していけばいいのでしょう。

 今までの消費は、所得が伸びないがゆえの低価格志向であり、毒入りギョーザ事件があったから食の安全・安心が注目されたように、「恐怖」感に駆られている傾向が顕著でした。しかしそれも一段落し、お得でエコ、安心・簡単なのはいいことだと、ある意味吹っ切れた心で今を楽しんでいると思います。商品・サービスの開発者も、その情報を発信するメディアの人間も、まず自分たちが面白がるエモーショナルな出発点がないと、消費者の心は動かせないのではないでしょうか。

 今の消費者がコミュニケーションに求めているのは、「本音」です。ところがメディアに携わるプロたちはどうしても情報の正確性にこだわり、専門家の目で対象をとらえるため、商品に初めて接した時の衝撃や驚きが薄れてしまうわけです。そこをあきらめずに、いかに本音を伝えられるかですね。

――「本音を伝える」という点での新聞の可能性について、意見を聞かせてください。

 近年の新聞広告は、まず広告で広く知ってもらい、その先の詳しい情報は企業のサイトでフォローしてくださいといった一定方向への誘導に使われることが多いです。しかしこれからは、例えば「興味がわいたらTwitterでつぶやいてください」「ブログで自由に話題にしてください」といったように、外部へと情報を解き放つための出発点になれるかがひとつのポイントになるのではないかと思います。

 またこれは個人的な要望としても、署名記事をもっと増やしてほしいと思います。例えば私は、朝日新聞のコラムニスト、早野透さんのコラムが好きなのですが、それは早野さんの書く文章は押しつけでなく、自分の意見を社会に問うている印象を受けるからです。ともすると押し付けになりがちなメッセージを、世の中の人たちが自由に話題にして、そこから広がりが生まれる材料にできれば、新聞に対する社会の関心も変わるかもしれません。

2009年、消費者の一番の注目はエコカー

(電通総研『話題・注目商品2009』レポートより n=1,000) (電通総研『話題・注目商品2009』レポートより n=1,000)

 電通総研の調査による、消費者が選んだ『話題・注目商品2009』では、「ハイブリッドカー」と「電気自動車」がトップ10に入り、エコカーが大きく注目された結果が出た。同時に「エコカー減税・エコカー補助金対象車」「エコポイント省エネ家電」「地デジ対応大画面薄型テレビ」と、環境と経済対策の先導役を担った商品群もランクイン。また、「国内低価格ファッション」「PB商品」「訳あり商品」などが並び、消費者の低価格志向に、企業の発想転換や努力で対応した商品が消費者の支持を受けたと電通総研では分析している。