政府広報に求められる生活者寄りのクリエーティブ

 国民の積極的な社会参加や、公正な情報に基づく政治への意思表示が求められる今日。政府広報に、情報を国民の理解や行動へとつなげる「広告的」アプローチを必要とするテーマが増えている。広告会社のもつ企画力やクリエーティブ力が果たしうる役割を、博報堂クリエイティブセンター 青田チーム クリエイティブディレクターの藤田雅弘氏にうかがった。

情報の告知から理解と行動へ

藤田雅弘氏 藤田雅弘氏

── 広告会社の視点から、政府広報の現状をどう見ていますか。

 以前の政府広報は、「子供の安全を地域で守りましょう」「覚せい剤には手を出さない」といったスローガン的なものや、法律改正などについても概要の告知段階で目的をほぼ達せられたものが多かったと思います。

 しかし最近では、国民がその制度を理解した上で正確に運用できるための、より丁寧な伝え方へと変わってきているのが大きな流れです。政府に対する目が厳しくなっている中で、国民がどう政治にかかわってくれるのかという政府の意識も高まっています。

── 広告会社として求められていることの変化は。

 税収や医療の問題にしても環境対策にしても、ひとつひとつの政策が、国民の行動と共に進められていかなければこれからは立ち行かなくなります。政治を国民運動につなげていく中で、広告会社には、国民を巻き込むためのノウハウや提案力が求められます。

 またメディアの発達によって情報格差は是正されているとは思いますが、都市部と地方では抱える問題は大きく異なっています。地域固有の課題に政治が耳を傾け、必要な情報をきめ細かくお伝えすることの重要性も増しました。

 内閣府および省庁と広告会社との関係でいえば、以前は個々のテーマに対して競合があり、プレゼンによって扱いが決まっていました。それが去年から年間担当の契約方式に変わり、内閣府に関して言えば、常に同じスタッフで政府広報の制作を担当できるようになりました。オリエン通りの提案だけでなく、我々の提案を加味した生活者寄りのプレゼンテーションができる環境が生まれたと思います。

広告発想が広げる表現の可能性

── ご自身が携わられた政府広報についてご紹介下さい。

 2007年の能登半島地震の後、観光客を呼び戻すことを目的に石川県の観光広告的な広報を制作しました。地震被害というネガティブイメージを解消するだけでなく、地域を前向きにアピールして読者の行動を喚起する、従来とは異なる広告発想的なものだと思います。

 重要な政治テーマに対して、国民の関心を持続させることも政府広報の役割です。例えば拉致問題のような複雑な問題に関しては、国民感情に訴えるものから、冷静に相手との対話を求めるものまで、幅広い選択肢を提示することも我々の役割だと思います。

 また、近年は大臣が地方に赴き、地元の代表者と車座で行う座談会が開催されています。そういった対談やシンポジウムの採録紙面なども、読んでいただくための工夫が求められるようになりました。イラストやマンガなど、親しみやすさや分かりやすさを高めるビジュアル手法も増えています。

世論対応はより迅速に

── 最近では、舛添厚生労働大臣が登場した長寿医療制度に関する新聞広告が注目されました。

 居住まいを正して、伝えたいことをしっかり伝えたいときには、メディアのもつ信頼性が生かせる新聞は一番ふさわしいと思います。特に今回のように制度をご説明し、なぜそれが必要なのかを伝えるには適しています。

 新聞広告では、限られた財源の中で、「高齢者の医療費を国民皆でしっかりと支える仕組み」を作るために、これは必要な制度だということを伝えています。ただその際に、PR不足を認めるところから始めなければ、国民の理解は得られないのではないかというのが我々の考え方でした。最終的に「長寿医療制度について、改めてご説明させて下さい。」というコピーとなったのも、そうした思いがベースにあったからです。

 また今回のようなテーマでは、責任の所在を明確にすることが大切です。そこで舛添大臣に登場していただくことを提案し、直接国民に向けて制度の説明をする構成となりました。

── 新聞以外のメディアに関してご意見は。

 若年層の新聞離れが言われている中で、特に若い人に知ってほしい情報を内容的にもある程度詳しく伝える時に、ウェブのHPの役割は大きくなっていくと思います。ただ、ウェブは情報にアクセスしてもらわなければ見ていただけないメディアですから、そこをいかに変えていくのかが大きな課題です。

── 政府広報の今後の可能性については。

 政府広報はただキャッチーで目立てばよいものではありません。国と国民との橋渡し役として、政府の声を国民に届く言葉に翻訳したいという気持ちと同時に、国民に対しても、「意見形成のためには、扇動的な情報に流されず、正確な情報をもつことが必要」ということを知ってもらいたいと思います。

 政治に対する関心の高まりと共に、世論が注目した問題にはできるだけ早急な広報対応が求められるようになっています。社会の動きに常に敏感で、提示されたテーマに対して即応できるチーム体制の充実を、今後も目指したいと思います。

2007年 9/9 朝刊 内閣府政府広報室
2007年 12/9 朝刊 内閣府政府広報室
 6/28 朝刊 内閣府政府広報室