若者の就業意識の変化に対応した企業コミュニケーションの未来

 新入社員の意識調査を69年から実施している社会経済生産性本部は、今年度の新入社員を「カーリング型」と名付けている。周囲が育成方針を定めて背中を押すものの、少しでもブラシでこするのをやめると、意志(石)が減速してしまうという例えだ。社会経済生産性本部の客員研究員を務める社会学者、岩間夏樹氏に就業意識の変化や近年の特徴をうかがった。

消費者感覚で会社を選ぶ若者

岩間夏樹氏 岩間夏樹氏

── 近年の若者層から見えてくる就労意識の特徴とは。

 団塊世代以前の就労意識というのは、基本的には「いかに生業(なりわい)をたてるか」でした。多くの人々は縁がある会社に入るしかなく、高度成長期の中で頑張り、「郊外の庭付き一戸建て」が象徴する豊かさにようやくたどり着きました。今の若者層は、豊かさが人生の出発点にあり、貧しさや欠乏への不安が非常に希薄です。仕事の選択にも、生業選びというよりも自己実現、自分探しという意識が密接に絡むようなっています。

── 就労意識の変化と、就活行動の変化に関連はありますか。

 豊かな消費社会の中で育った若い世代は、商品選択の技術には非常に長(た)けています。例えば昔の子供の関心は、学校から帰ったら家におやつがあるかないかでした。今はおやつがあるのは当然で、彼らは膨大な商品の中からお小遣いで買える、今日一番食べたいものを選ぶ思考訓練を積んでいます。

 そのような習慣は就職活動にも影響していて、彼らは商品を選択するような感受性で仕事も選んでいる気がします。実際は労働力を購入するのは会社であり、自分を売るのが就職活動なのですが。

── 自己実現を重視する若者にとって、会社の存在意義とは。

 新入社員意識調査からこの40年の変遷を見ますと、「なぜこの会社を選んだのですか」という質問に端的な違いが表われています(図参照)。調査が始まった昭和40年代中ごろは、「会社の将来性」がトップでした。それが今や10%を切っています。それに対して伸びているのは、「自分の能力・個性を生かせる」「仕事が面白い」「技術を覚えられる」といった、どれも個人にまつわる項目です。会社に長くお世話になるという感覚がなくなったといえるでしょう。

現在の就職活動は「出会い系」型

── 彼らが豊かな時代を生きてきたのは事実ですが、今の日本からは、豊かさの実感がかなり薄れてきていると思います。

 社会統計学的な見地からいえば、国民全体の生活水準が近年急激に低下したとはいえないと思います。ただし、「今は貧しくても、明日は今日より豊かになれる」という希望が持ちにくい時代になったことは確かです。希望の消失と、契約社員や派遣社員などの不安定雇用の拡大が、「格差」の実在性を高めました。学生たちも社会に出れば、日本の豊かさに疑念を持つということはあると思います。

── メディア環境の変化と、求人情報への接触の仕方との関係は。

 先輩訪問から始まって面接、採用へとステップアップする以前の就活は、男女の付き合いでいえば「合コン」的でした。まずは気の合いそうなグループで顔を合わせて、一緒に飲んだり会話の中で相性を見極め、縁があれば交際が始まるという流れです。

 近年の新入社員意識調査では、「就職活動の際、どこから情報を得ましたか」という質問に、9割以上がインターネットと回答しています。それもサブ的に使うのではなく、ネット情報がすべてになっている印象すらあります。これは「出会い系サイト」型といえるでしょう。企業も学生もまずネット上から情報をストックし、お互い自分の「見栄え」がよくなるような工夫をします。

── 企業のコミュニケーションには、どのような変化が求められているでしょう。

 現在の求人活動はイメージ訴求が先行し、「我が社なら君の可能性が生かせる」といった美辞麗句が並びがちです。それは建前で、本音は違いませんかという疑問があります。同時に本音と建前の使い分けは、学生側もしています。

 その言い合いは結果としてミスマッチを生み、お互いに苦い思いをさせるでしょう。応募者が多ければいいということではなく、うちの会社はこういう事業をしているから、こういう人材が欲しいということを、きちんと説明することが必要だと思います。

── ネットの比重が高まっている現実の中で、新聞広告が果たせる役割をどのようにお考えですか。

 お互いが「自分をよく見せよう」とするダイレクトなつながりの間で、新聞が第三者として機能することができれば、社会を俯瞰(ふかん)する立場で情報に信頼性を付与し、学生の視点を広げる役割が果たせると思います。取材力、編集力など、情報の信頼性を保つための機能が新聞社のもつマンパワーであって、生のデータが行き来するネットにはない大きな価値です。ただし、今の学生は、新聞広告には審査基準があり、それを満たさなければ広告の掲載が断られるということもよく知りません。新聞は広告なら何でも載せるのではないということから社会に伝えていくことが必要です。

 学生たちは就職活動を意識した時から、中高年世代と向き合います。そして彼らの共通言語が、新聞であることも知っています。「今日の一面で」、「この前の天声人語に」といった大人たちのやりとりを、突如意識するようになるわけです。特に一度社会に出た転職希望者は、新聞により高い信頼を寄せるということはあるでしょう。

 また、今の学生に見られる大企業志向には、終身雇用時代のままの親の価値観や、「有名企業に多数就職」をアピールしたい学校の意向が少なからず反映しています。それが本人にとって幸せなのかという検証は必要ですが、現実として複数の内定をもらった学生が、最後の選択に参考にするのは周囲の大人の意見です。大人たちが信頼をおいているメディアが何かということを考えれば、企業にとって新聞広告の可能性は、非常に大きいと思います。

 70年前半は「将来性」が上位、現在は「自分の能力・個性を生かせる」「仕事が面白い」が上位
 「経済的に豊かになる」ことよりも「楽しい生活をする」ために働く
 「残業する」が上がり、「デートに行く」は低い
岩間夏樹(いわま・なつき)

社会経済生産性本部

東京大学文学部社会学科卒業。社会学者(就労意識/若者文化/社会調査)、専門社会調査士。84年、社会学者にフィールドワークの機会を提供する組織としてライズコーポレーション設立。企業、行政機関等の調査プロジェクト、委託研究に従事。現在、ビエナライフスタイル研究所取締役研究主幹、都立荏原看護学校非常勤講師、法政大学大学院非常勤講師、社会経済生産性本部客員研究員を兼任。著書に「新卒ゼロ社会──増殖する擬態社員」(角川新書)など多数