多彩な個性を発揮する独立したメディアとしてのエリア広告

 ターゲットのインサイトを分析し、戦略的な広告プランニングを行う博報堂DYメディアパートナーズ。広告主がエリア広告に求めていること、新聞メディアへの提言などについて、メディア・コンテンツマーケティング局・局長代理の鈴木雄介氏、プランニングディレクターの伊牟田芳明氏にお話をうかがった。

対象の属性を重視増えるブランド広告

著書「進化する紙メディア」 (宣伝会議) 著書「進化する紙メディア」 (宣伝会議)

――メディア環境が変化する中、マス広告のターゲティングのあり方をどのようにお考えですか。

 従来マスメディアは、できるだけ多数に均等に情報を伝えることを主な役割としてきましたが、デジタル化が進み、精巧なターゲティングが技術的に可能になった今、「広く」に加え、「深く」メッセージを届ける工夫が求められてきています。

――「深く」届けるツールの一つとして、エリア広告があります。

 限定したターゲットに情報を絞って編集して配布できるという意味で、本紙よりも深さが狙えますが、「大都市エリアとローカルエリア」といった従来のマス的で大雑把なターゲットの分類では、広告主はすでに満足しなくなっています。当社は折り込み広告のプランニングも行っており、そこでは所得や家族構成など、国勢調査の様々なデータをもとに、200を超える指標をつくり、広告効果との相関を分析しています。エリア広告もこうしたターゲット分析の“精緻(せいち)化”によって利用価値がさらに高まっていくと思われます。

伊牟田芳明氏 伊牟田芳明氏

 エリア広告の使い方で従来から多かったのは、不動産会社や自動車会社が、ターゲットが住んでいそうなエリアからモデルルームやショールームまでの動線をおさえていくという集客の装置としての役割です。今はこれに加え、ターゲットの属性が非常に重視されています。例えば、高級ブランド品でも、商品によっては田園調布より他のエリアのほうが反応があったりする。こうした特性をいかにつかむかがポイントになってきています。

――エリア広告の最近の傾向は。

 ここ数年目立っているのは、ブランディングを目的とするエリア広告です。新聞社が新しい規格や印刷技術を開発したことと関係していますが、例えばパノラマワイドは、大きな紙面いっぱいにブランドの世界観を打ち出すことができる。FMスクリーンを使えば、雑誌さながらの美しいビジュアルも再現が可能。ブランドイメージを大事にしている企業では、一貫性のあるブランドイメージをターゲットに確実に届けたいという意識が高いですね。記憶に新しいところでは、輸入車のメルセデスベンツやジュエラーのヴァンクリーフ&アーペルなど高級ブランドのエリア広告がありました。

レスポンスが取れる環境づくりを

――読者層を、広告主はどのようにとらえているのでしょう。

 本紙に折り込まれる広告というと、何となく主婦が見るもの、というイメージがありますが、それは大きな誤解で、当社が行った調査によれば、男性もしっかり広告を見ているんです。そして、彼らが何に注目して見ているかというと、表現の自由度なんですね。広告主もこのポイントには気づき始めていて、表現性の高いブランド広告をやりたいという意向が強まっているのもその一端といえると思います。また、エリア広告は、集客動線と属性、両方をカバーできるツールとして評価が高まっています。

ヴァンクリーフ&アーペル 12/14 ヴァンクリーフ&アーペル 12/14

――昨今の広告主のニーズをどう見ていますか。

 ネットと連動したメディア戦略がさかんですが、それは、広告主がレスポンスを重視しているからです。例えば、フリーペーパーとして成功している「R25」は、20代のビジネスマンの動線を徹底的におさえ、ウェブや携帯と連動してレスポンスを獲得している。エリア広告も、レスポンスを効率的に獲得する回路を整えていくと、使い勝手がよくなるのではないでしょうか。

――エリア広告の売りとして、もっと打ち出していいなと思うことはありますか。

 新聞メディアの特長の一つは保存性ですが、エリア広告は、本紙以上に独立性が高い。そこは大きな強みで、例えば、妻が気になる宝石の広告を取っておいて、夫が会社から帰ってきたらもう一度開いて見せる。あるいは、夫が家族で乗るミニバンの広告を見つけて家族会議のツールにする。つまり、読者の手元にとどまる時間が長い。このような特性に着目すると、もっと面白いことができるのではないかと思います。

朝日新聞の編集力もエリア広告の価値に

――そういう意味で、新聞メディアに期待したいことは。

 読者層のライフスタイルの把握です。最近は多種多様なフリーペーパーが駅や店に置かれていますが、ある程度ターゲットは想定できても、どんな人が取っているのか、実際に読んでいるのかまではわかりません。しかし新聞は宅配システムですから、ターゲットを深掘りできる可能性がある。でも実際は、ターゲットがわかっているようでわかっていないんですね。朝は誰が読んでいるのか、夜は誰が読んでいるのか、どんな空間で読んでいるのか、平日と休日で読む時間帯や状況はどう変わってくるのか、そういったことを詳細につかめると、さらに突っ込んだ提案がしやすい。ターゲットに近寄るほど読者のインサイトを分析することが重要になってくるのです。新聞社にとっても、読者のライフスタイルや行動の時間軸を広告主に提示できるとできないとでは、優位性が全然違ってくると思います。

――朝日新聞の題字が持つ価値について、どのようにお考えですか。

モンブラン×SPUR 11/23 モンブラン×SPUR 11/23

――エリア広告の課題は。

 新聞本紙との特性の違いを鮮明化させることです。極端な話、「新聞を使うか使わないか」という選択肢で考える広告主もいて、しかもエリア広告を新聞の一部としかとらえていないケースもあります。そういう広告主に、時には販促ツールとして、時にはブランディングツールとして、時には読み物として、ターゲットに応じた様々な個性が発揮できる独立したメディアであることを、もっとアピールしていくべきだと思います。また、クロスメディア型キャンペーンにおいては、朝日新聞という大きな幹があることで、生活者と強いエンゲージメントを結ぶことができる。このメリットを生かせば、可能性は広がっていくと思います。