「はかること」がベース 「タニタ健康プログラム」を通じて医療費削減を目指す

 体組成計や電子尿糖計、活動量計などの健康計測機器を製造・販売するタニタ。社員食堂のメニューをまとめたレシピ本『体脂肪計タニタの社員食堂』(大和書房刊)が大ヒットし、レストランビジネスにも進出。医療費削減を目標に掲げ、独自の「健康推進プログラム」を展開している。

 

谷田千里氏 谷田千里氏

──2008年に先代の父・大輔氏から社長職を引き継ぎました。

 二つの大きな取引先に連れて行かれて、「社長が変わります」とのあいさつを終えると、「あとは任せた」と言われました。ですから、他の取引先や業界団体へのあいさつ回りは私だけで行きました。父が同行すれば何かとスムーズだったと思いますが、私自身に新たな絆を築いてほしかったのでしょう。先方で父の名前を出すと、どの方からも「父君にお世話になった」と言っていただき、父の真面目な仕事ぶりを確認する機会になりました。

──タニタの商品や企業文化について。

 商品ポリシーは、創業以来一貫して「性能第一」です。さらに、遊び心のある商品、ユニークな商品を目指しています。そのために、製造業の堅い社風を柔軟なものへと変える努力も続けています。幸い弊社の社員食堂のレシピ本がヒットしたおかげで、タニタブランドに「健康」「食」といった新しいイメージが加わりました。この機を逃さずニコニコ動画に公式チャンネル、フェイスブックに公式ページを立ち上げるなど、親しみやすく自由闊達(かったつ)な企業への脱皮を図っています。

──歩数計などの計測機器をネットにつないでデータを蓄積・管理するシステムを構築し、 「はかること」が健康に結びつくことを世に示しました。

 計測機器とネットをつなぐ事業は父が推進しました。ただ、当時のタニタの歩数計はデータを赤外線機能でパソコンに移す手順が面倒な上、商品が売れていないのでデータの蓄積も進まず、赤字が膨らむ一方でした。私が社長に就任した時もそういう状況だったので、まずは歩数計を社員全員に配り、社員のデータを集めることにしました。それによってなぜ商品が売れないかを社員自身に検証してもらい、商品開発に生かしてもらうのが狙いでした。一年後には開発チームがICカードリーダー「フェリカ」に対応するセンサー付き歩数計を完成させ、これも社員全員に配りました。その後コツコツと計測値を蓄積。その副産物を求めて、社員たちが入っている「計機健康保険組合」にお願いして医療費記録をもらったところ、年間で9%の医療費削減に成功したことがわかりました。そこでこの試みを「タニタ健康プログラム」と名付けて社内改革や商品開発のエンジンとしました。

──社員の歩数計携帯は今も続いていますか。

 もちろん続いています。自分たちの健康が会社の事業に直結していることを認識してもらうため、歩数が多い人のトップ20まで社内に張り出しています。計測を怠っている人には警告メールが届くシステムになっていて、怠った人のワーストランキングも張り出しています。地道な働きかけの甲斐あって、計測を怠る人はほとんどいなくなりました。

──社員食堂のレシピ本『体脂肪計タニタの社員食堂』が大ヒット。その後、レストランビジネスに乗り出しました。

 2012年に丸の内に「タニタ食堂」をオープンしました。また、病院などの食堂にメニュー監修をしています。フランチャイズ展開を見据え、服部栄養専門学校と提携してシェフの養成も進めています。この6月には経済産業省内に弊社監修の「KENKO食堂」がオープンしました。将来は県庁所在地に少なくとも1店を目標に店舗を増やしていきたいと考えています。国だけでなく自治体や他企業にも「はかること」「食べること」「運動すること」をベースにした「タニタ健康プログラム」の導入を働きかけ、医療費削減に貢献していきたいと思っています。

──調理師と栄養士の資格を取得していますが、メニュー開発などにも参加するのですか?

 細かいことは担当者に任せていますが、味見は必ずしています。キッチンのオペレーションはよくわかっているので、現場との話は早いですね。お客様から、「こういう味付けにすれば、塩分はいらないんですね」などと感想をいただくことも多く、レストランが「食育」の場にもなっています。最近は、「タニタ?ああ、あのヘルシーレストランの会社?」と言われることもあります(笑)。それはそれでうれしいです。

──米国の現地法人では、どのような日々でしたか。

 現地法人の社長は、商品を試すお客様一人ひとりを自ら計測して感想を聞き、何か問題点を見つけると直ちに経営戦略に微修正を加えて最善策を追求していました。その働き方を見て率先垂範の精神を学びました。また、仕事以外の「飲みニケーション」も大事にしなさいと言う人で、自分に欠けていたコミュニケーション能力が鍛えられました。

──経営信条は。

 率先垂範です。営業や商品企画の一員として現場をかけずり回っています。それによってだいぶ自分の考えが社内に浸透してきたので、次のステージとして、社員にあえて託すなど、個々の成長を促すような行動も心掛けるつもりです。ただ、率先垂範の精神はずっと忘れないでいたいと思います。

──今後の展望は。

 「タニタ健康プログラム」の普及に全力を注いでいきます。経産省は「健康増進活動の率先行動モデル」になることを旗印に職員を対象に、タニタの体組成計による健康チェックを開始し、企業や地方自治体にも同様の取り組みを促しています。弊社も商品やレストランを通じて「タニタ健康プログラム」の思想を広めていきます。

谷田千里氏 谷田千里氏

──愛読書は。

 スティーブン・R・コヴィー氏の名著『7つの習慣』です。「仕事や人間関係の問題解決のために自身の内面を変えることから始める」という考え方にとても共感しました。『まんがでわかる7つの習慣』もなかなかよくまとまっていて、社員に原書の内容をわかりやすく伝える上で役立っています。

谷田千里(たにだ・せんり)
タニタ 代表取締役社長
1972年大阪生まれ。93年調理師専門学校を経て、佐賀短期大学(現・西九州大学短期大学部)に進学。97年佐賀大学理工学部卒。船井総合研究所などを経て2001年タニタ入社。05年タニタアメリカ取締役。08年から現職。
谷田千里(たにだ・せんり)

タニタ 代表取締役社長

1972年大阪生まれ。93年調理師専門学校を経て、佐賀短期大学(現・西九州大学短期大学部)に進学。97年佐賀大学理工学部卒。船井総合研究所などを経て2001年タニタ入社。05年タニタアメリカ取締役。08年から現職。

※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、谷田千里さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.63(2014年7月28日付朝刊 東京本社版)