時代の潮流を読み、社会に価値あるサービスを提供し続ける

 リース事業から派生して、融資、不動産、生命保険、銀行など、多角的に事業を展開するオリックス。国籍、年齢、性別、職歴を問わず、異なった価値観や経験を持つ多種多様な人材が最大限に力を発揮できる環境づくり「Keep Mixed」などに取り組みながら、新しい商品、サービスの創造を目指している。取締役兼代表執行役会長・グループCEO 宮内義彦さんに聞いた。

宮内義彦氏 宮内義彦氏

──2011年3月期は、全事業部門で黒字を計上。純利益は673億円、前年比78%の増益となりました。2012年3月期も好調のようですが、近年の金融界の動きを鑑みて、企業活動の成果をどのようにとらえていますか?

 いちばん重要なことは、変化の激しい時代の潮流にうまく乗っていけるかどうかです。オリックスは、金融を中心とした事業を展開していますが、金融界は、リーマンショック以降の混乱が今も続いています。さらにユーロ危機が加わり、ギリシャをはじめとする重債務国の財政再建が順調に進むかどうかはいまだ不透明です。逆風のまっただ中といえます。ただ、風がないよりもずっとまし。ヨットは逆風でも前に進めますが、無風状態ではどうにも動きがとれません。それと同じで、吹いた風を読んで臨機応変に対応していけばいい。成長している事業に注力し、収益性の低い事業を縮小する、といったことも戦略の一つでしょう。今吹いているのは、逆風のつむじ風、操船は非常に難しい。しかし、「社会に価値のあるサービスを提供する」という目的地を見失わなければ、航路が多少それて時間がかかっても、結果はおのずとついてくると思っています。

──海外事業が大きく成長しています。

 1971年に香港に現地法人を設立して以来、オリックスは海外での事業を拡大し、現在では26の国と地域に302拠点のネットワークを築いています。近年は、アジアを中心とする新興国の経済成長がめざましく、当社が長年培ってきた金融サービスのノウハウなどを生かしながら、各国の成長を事業活動に取り込んでいきたいと考えています。日本の貿易収支は赤字に転じましたが、経常収支はなお黒字です。経常収支を支えているのは、所得収支です。今や日本は、貿易で稼ぐ以上に、利子配当所得で稼いでいる国なのです。金融をはじめとするサービス産業が伸びれば、国の成長につながる。そういう意味でも海外事業には大きな可能性を感じています。

──「ほかにはないアンサーを。」というスローガンに込めた思いは。

 オリックスは、リースから派生して「金融」と「モノ」という2つの側面の専門性を蓄積してきました。金融では、法人金融、生命保険、銀行、事業投資など、モノでは、不動産、自動車・測定機器・航空機・船舶のリース、レンタルなどを展開しています。アメリカの金融業界は、リーマンショック以降、経営破たんに追い込まれたり、国の援助を受けてようやく持ち直したりと、大変厳しい状況に見舞われました。オリックスがそうならなかったのは、多角化しながらも、高度な専門性を持ち合わせた個別のコア事業が重層的に結びつき、商品やサービスを相互に組み合わせることによって、他社にはまねのできない新たな付加価値を生み出してきたからです。変化の激しい市場では、収益のアップダウンはどうしても出てきます。そうした中で、「自らの足で立つ」「新しい可能性に挑戦する」という考え方を大切にしてきました。これからも、専門性を発揮しながら新しい価値を創造し、持続的な成長を目指していきます。

──日本経済は低迷が続いていますが、ご提言をお願いします。

 日本は、何かというと「国が面倒を見ましょう」ということになって、国民も企業も政府も、それで納得してしまう。でも、みんなが頼り合っているだけでは、何も生まれません。平等におなかが減っていくだけです。だったら、みずから山に分け入ってキノコを採ってきたほうがよっぽどいいと思うのですが、そうやって自立しようという心意気が、社会全体に希薄な感じがします。

 同世代の経営者などといつも共感し合うのは、私たちの人生経験の最大の出来事が、戦争だったということです。戦時の私は、予科練入りを望むような典型的な軍国少年でした。それが、敗戦となるや、先生たちは、『教育勅語』を元にした教育から180度転換するようなことを教え始め、大人たちは、「マッカーサー元帥万歳!」などと叫んでいる。「今まで信じてきたことは何だったんだ」と、大きなショックを受けました。そういう経験をしているせいか、同世代の経営者は、権威に対しておもねらない人が多い気がします。敗戦後の食糧難で苦しい思いもしているので、不況といわれる今も、「まだまだ人に頼らずに踏ん張れる。チャレンジの機会がある」と思えてなりません。国民一人ひとりが「自助自立」の精神を持って行動すれば、いろんなことが好転していくのではないかと思います。

──大学卒業後、アメリカに留学してMBAを取得されました。どんな経験でしたか? ビジネスに生きたことはありますか?

 当時、アメリカと日本との間には大きな経済格差がありましたから、私は一介の貧乏学生で、アメリカへは貨物船に乗って2週間かけて渡りました。留学先の大学院で日本人は私ただひとり。最年少で、唯一の外国人でもありました。勉強についていくのは容易じゃありませんでしたが、必死に食らいついて、MBAを取得しました。ところが、日本に帰って就職してみると、「君は留学して同期の大卒よりも2年遅れているから、待遇もそういう扱いで……」と言われてしまいました。アメリカでは、MBAの取得者は給料がポーンと上がるのに(笑)。でもまぁ、留学をしなかったら、きっといろんなことが違ってきたでしょうね。ずいぶん昔のことなので、どう肥やしになったとはっきり言えませんが、辛抱強く努力するとか、すぐにあきらめないとか、何かしらビジネスに生きていると思います。

──ビジネス信条は。

 「前向きに」ということですね。野球と違って企業経営にはゲームセットがありません。勝ったり負けたりしながら、相対的にはしっかりプラス成長を続けていきたい。

──愛読書は。

 『文明の衝突』と『昭和史』(上・下)です。愛読書というか、ことあるごとに若い人に推薦している本です。『文明の衝突』は、著者のサミュエル・ハンチントンが、現代の主要文明を8つに分類し、世界的に中国の儒教文明の一員と見なされてきた日本を固有の文明として認識している点に注目しました。以前から中国と日本の文化は全く違うと思っていたので、大いに共感しました。世界の人口の2%に満たない日本は、その特異性を誇るばかりでなく、孤立しないようにふるまわなければならないという警告にも取れました。
『昭和史』は、昭和の歴史を、著者の半藤一利さんがわかりやすく解説する講義録です。若い人と話していると、「学校で昭和史をあまり習わなかった」と聞くことが多く、知識を補うためにもぜひ読んでほしいと思います。
 

宮内義彦(みやうち・よしひこ)

オリックス 取締役兼代表執行役会長・グループCEO

1935年兵庫県神戸市生まれ。58年関西学院大学商学部卒。60年ワシントン大学経営学部大学院修了。日綿實業(現・双日)入社。64年オリエント・リース(現・オリックス)入社。70年取締役。80年代表取締役社長・グループCEO。00年代表取締役会長・CEO。03年から現職。同年昭和シェル石油取締役。06年ACCESS取締役。

※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、宮内義彦さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.37(2012年4月23日付朝刊 東京本社版)