規模の拡大から質の強化へ アジアや成長産業におけるビジネスにも注力

 野村證券、ソフトバンクを経て、インターネット総合金融グループ、SBIグループを創業。証券、銀行、保険事業を有する「金融コングロマリット」を完成させ、現在80社超の連結子会社を統率するSBIホールディングスの北尾吉孝さんに、経営戦略を聞いた。

 

SBIホールディングス 代表取締役執行役員CEO 北尾吉孝氏 北尾吉孝氏

──SBIホールディングスの事業内容について、聞かせてください。

 証券、銀行、損害保険、生命保険、決済サービスの五つをコア事業と位置づけ、事業間のシナジー効果を発揮させることで、グループ全体の飛躍を目指しています。例えば、株の売買において、従来は銀行と証券会社の窓口が別々で、お金の移動に手間と高い手数料がかかりました。ネット金融サービスであれば、両者のやり取りがシームレスで、簡便、迅速、低額のワンストップサービスが提供できます。こうした事業間のシナジー効果こそがグループの強みです。

──どのようなビジョンを掲げていますか。

 創業からの10年間は、グループの規模拡大とグループ企業のビジネス生態系の構築を最優先した経営を進めてきましたが、今後は質の強化に転じていきたいと考えています。粗削りのダイヤモンドを光り輝くダイヤモンドにしていく過程に重ね、企業生態系の「ブリリアント化」という言葉を使っています。具体的には、利益を大きく生む企業へと成長するために、「選択と集中」を徹底しています。

 リーマン・ショック以降、金融をめぐる経営環境は厳しい状況が続き、次の四半期は海外でも日本でも赤字を出す大手金融会社が出てくるのではないでしょうか。米国やユーロの市場動向を見ると、リーマン・ショック以上の難局がやってくることも考えられます。そうした中できちんと利益を出していくため、採算性の低い事業は処分し、黒字事業はさらなる成長を追求していきます。6月に開いた全社朝礼では、従来以上の経費削減を促し、僕が直接その成果を確認すると話しました。

 組織のあり方も再点検し、目下、「〜部」という名称を「〜省」という名称に変えてみてはどうかと思案中です。セクショナリズムにつながりやすい「部」より「省」のほうが、自分たちの事業を「省(かえり)みて省(はぶ)く」意識が高まるのではないかと思っています。

──「日本のSBIから世界のSBIへと変貌(へんぼう)を遂げ、グローバル企業としてさらなる成長を目指す」と宣言しています。

 経営者として今やるべきことは、株式市場が再浮揚した時に最大利益を確保できるように布石を打っておくこと。中でも注力しているのは、アジア戦略です。アジアは、2015年ごろには世界最大の経済圏になると予想され、その成長を最大限取り込むべく、新興諸国の金融機関への出資を拡大するなど、有力機関とのパートナーシップによるグローバルな投資態勢の構築をはかっています。今年4月には日本に本籍を置く企業として初となる香港証券取引所上場を果たし、香港の第2本社化に向けて準備を進めています。

──バイオテクノロジーの分野への投資に積極的ですが、そのねらいは。

 金融業にはリスクがつきもので、リスクとリターンのバランスをいかに取るかが真価ですが、金融から離れた事業の拡充は、リスクの軽減につながります。その成長領域としてとらえているのがバイオの分野です。例えばSBIアラプロモは、5-アミノレブリン酸(ALA)を利用した化粧品、健康食品、医薬品の研究・開発を行っている会社です。ALAは、皮膚の新陳代謝の改善、免疫力の向上、がん治療への活用など、幅広い分野での利用が期待される物質で、最近の研究では、熱帯熱マラリア原虫の増殖阻害効果があることが明らかになり、副作用のないマラリアの治療・予防薬への発展が期待されています。

──傘下の金融情報会社、モーニングスターが、環境面などから企業を評価する「社会的責任投資株価指数(SRIインデックス)」を国内で初めて設定するなど、環境意識の高い企業を後押しする事業も展開しています。

 省エネ技術など、日本の環境ビジネスは世界的に見ても有望です。東日本大震災後、原発の問題が議論されていますが、放射性廃棄物の処理や代替エネルギーの開発などは、日本の未来、世界の未来のためにとても重要です。イノベーションの多くは技術の結合から生まれます。金融の分野では、社債と株式が結合した転換社債、科学の分野では、IT技術と生物医学が結合したバイオインフォマティクス、電力の分野では、IT技術とエナジーマネジメント技術が結合したスマートグリッド……。こうしたイノベーションの一端を担っていけたらと思っています。また、往々にしてその障害となる政・官・財の癒着を、経済人である前に一人の人間として、糾弾していくことも大切だと思っています。

──米国の金融経済紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」、中国の3大経済専門紙の一つ「中国証券報」などと提携し、日本版サイトを提供しています。そのねらいは。

 金融ビジネスにおいてグローバルな視点は欠かせません。有望な国の企業や産業のあらゆる投資情報を、SBIグループから得られる態勢を整えています。子会社であるサーチナのページビューは増加の一途をたどり、多くのユニークユーザーを抱えています。総合金融情報を提供するモーニングスターでは新興国の経済・投資をテーマに独自の視点で情報を発信する「エマージングマーケットアイ・EMeye(Emerging Market Eye)」の提供も開始し、SBIグループとしてグローバル金融コンテンツの拡充を図っています。

──人材育成において、どのような取り組みをしていますか。

 若者とシニアの雇用を積極的に進めていくつもりです。シニアは、例えば海外での実務経験が豊富な定年退職者を迎え、人的ネットワークとノウハウを存分に生かしてもらいたいと考えています。若い人は年輩者から、年輩者は若い人から学ぶことが大いにあり、世代間で自由な議論が交わされる職場環境を目指しています。

──愛読書は。

 幼少から親しみ、何度も読み返しているのが『論語』です。読む時期によって心に響く言葉が違い、精神的成長をはかるバロメーターとなっています。陽明学者で思想家の安岡正篤氏の著書『いかに生くべきか 東洋倫理概論』、教育者で哲学者の森信三氏の著書『修身教授録』にも大きな影響を受けました。それぞれ、人生において何に主眼を置くべきか、どう身を修めるべきか、豊かな見識をもとに不変の真理を説いており、戦後日本の道徳教育の欠如を補うものだと思っています。若い方にぜひ読んでいただきたいですね。

北尾吉孝(きたお・よしたか)

SBIホールディングス 代表取締役執行役員CEO

1951年兵庫県生まれ。74年慶應義塾大学経済学部卒。同年野村證券入社。78年ケンブリッジ大学経済学部卒。89年ワッサースタイン・ペレラ・インターナショナル社常務取締役(英国勤務)。91年野村企業情報取締役。92年野村証券事業法人三部長。95年ソフトバンク入社、常務取締役。99年ソフトバンク・ファイナンス代表取締役社長。同年ソフトバンク・インベストメント代表取締役社長。2000年ソフトバンク取締役。01年ソフトバンク・ファイナンス代表取締役CEO。03年ソフトバンク・インベストメント代表取締役CEO。05年7月から現職。

※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、北尾吉孝さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.31(2011年10月24日付朝刊 東京本社版)